五十三輪目
ライブが終わって一時間が経ち、何もすること無いため寝ようかと思っていたが。
今現在、何故か部屋の中に高瀬さんと秋凛さんがいる。
聞けば急いで着替え、タクシーで向かってきたらしい。
ライブの裏についてよく知らないが、スタッフさんとの付き合いとか、明日のライブに備えて体を休めるとかではないのだろうか。
いや、単なる俺の想像でしか無いが。
夏月さんも一緒に来たらしいけど、来たら追い返して欲しいと病院に伝えてあるのでロビーにいるとのこと。
きっと来るだろうなと思っていたけれど、高瀬さんと秋凛さんは予想していなかった。
追い返すことなんて、俺が直接言えるわけない。
……いっそのこと夏月さんもここに来ていいのでは?
「ごめんね、こんな時間に。桜くんの様子だけ見たらすぐに帰るから」
「いえ、何もする事なくて暇してたところですから」
わざわざ用意してくれた手土産を受け取り、二人に座るよう勧めればそう返ってきた。
さっきまで画面越しに見ていた人たちがこうして目の前にいるため、夢でも見ているのかと思ってしまう。
「……あ、ライブ初日お疲れ様です。配信で見てました」
「見てくれたんだ。嬉しいけど、少し恥ずかしいかな」
「ね、優ちゃん。どうだった?」
高瀬さんの隣でずっと話したそうにウズウズしていた秋凛さんがずいっと前に出て言葉短く尋ねてくる。
今までのノンビリしたイメージと違うが、ライブ終わりでテンションが高まっているのだろう。
「上手く言葉に出来ないんですけど、凄かったです。ライブを重ねるごとに皆さんの魅力がどんどん増していくんですけど、アニメでいう今回は秋凛さんの覚醒回みたいな」
「えへへ、とても嬉しいな」
照れながら浮かべる笑みに胸が高まる。
これは確実に推しになりましたわ。
もう言い訳のしようがないぐらいに、秋凛さんが魅力的に見える。
高瀬さんが俺と秋凛さんを見て驚いている様子だが、どうしたのだろう。
「優ちゃんへ向けた私の想い、気付いてくれた?」
「ウインク、のことですよね?」
「そう!」
ファンサだと思うようにしていたけれど、まさか自分に向けてくれていたという勘違いが確かなものだったとは。
「とても素敵でした。これまでとはまた違った魅力があって、でも今回の秋凛さんにはピッタリ当てはまっていて。今日のライブを見て自分みたいに推しになった人も多いと思います」
「それって──」
「悪化させなければ明日のライブは現地で見ていいと許可が出たので……あ、高瀬さん、何か話そうとしてましたか?」
「ううん、何でもないの。明日は現地で見てくれるんだよね? 今日よりもすごいライブにするから、楽しみにしててね!」
そう口にしたあと、長居しちゃったねと高瀬さんは秋凛さんの手を引いて去ってしまった。
急に静けさを取り戻して少し…………いや、結構寂しいのだけど、それよりも高瀬さんに元気なかったような気が。
何か言いかけてたのもきっと気のせいじゃないと思うのだが、どうしたのだろう。
☆☆☆
結局、高瀬さんの元気がなくなった理由は分からないまま寝落ちし。
気付けば朝になっていた。
体調はすっかり良くなり、熱も平熱まで下がっている。
それでも午前中は色々な検査を受けたり、赤や白の液を取られたり。
特に白の方は精神的にどっと疲れた。
一人でできると伝えたのはいいものの、自分の出したものを提出するということにかなり抵抗があった。
出したものを捨てようかなと思ったりもしたが、鍵が外からも開くらしく。
終わったタイミングを見計らって入ってこられ、持っていかれた。
もう過ぎたことだと忘れることにし、昼食を食べ終えノンビリしていたのだが。
「何をしているのですか。会場に向かうので準備して下さい」
ライブTシャツを着た看護師さんがやってくるなり、急かされる。
いや、まだ十三時ですよ。
開場十七時の開演十八時ですよ。
今から向かってもここからだと十四時には着いてしまうのですが……。
チャンス(ライブ現地)を掴んだね、看護師さん!
この世界では医療関係者全般、高給取り。
(医者と事務などで差はある)
男性相手に何かあった場合の責任が重いため。
普通ならば給与が高くともリスクに見合ってないので人は集まらないが、トップを争うほどの人気職。
それは明言されていないが、数の限られている優秀な遺伝子を優先的に受精できるため。
実力でしか入れず、コネは一切ないため、優秀な成績を残せば誰にでもチャンスはある。
前述のとおり優秀な人だけが集まっているため、医者不足などはなく、福利厚生もしっかりしている。
何故かオタクが集まりやすい。
男性からアプローチがあれば受けることは可能だが、自身から誘うのはアウト。
基本的に男は諦めてるけど、子どもは欲しい人が多い。
ただ、オタクは『推し活>>>男』なので一般の認識とかけ離れている。
そういった人に限って優秀だという不思議。