捕食会
「さあ、捕食会のスタートです。」
観客のない、だだっ広いコロッセオに立会人の声が響いた。
ルールは簡単。
倒したものが、倒れたものを捕食することができる。
命が命を食らい続けた結果、食える命が枯渇した。
枯渇したならば、食ってはならない命を食うしかない。
命の食らい合いがさらなる命の枯渇を生む。
…もはや、命は衰退の一途、滅亡寸前のこの世界。
強いものが弱いものを食らう。
弱いものは数を減らす。
弱いものは身を隠す。
弱いものは弱いものを食らう。
本日の参加者は六人。
山のように大きな鬼。
人型をした武器を持たないもの。
厳ついアーマーに身を包んだもの。
全身剛毛に覆われた獣。
蜷局を巻く双頭の蛇。
二本の刀を構えるもの。
「始めてください。」
立会人は、上空に移動した。
立会人に、下半身はない。
立会人は、とうに命をなくした生に未練を残した残骸。
山のような鬼が、一番小さな武器を持たないものを踏み潰す。
つぶした瞬間、アーマーに身を包んだものが山のような鬼の膝にやりを突き刺した。
バランスを崩した山のような鬼は、アーマーに身を包んだものの上に転がった。
動きを封じられたアーマーに身を包んだものは二本の刀を持つものに首をはねられた。
はねられた首を獣が食らって、そのままコロッセオから逃亡した。
双頭の蛇は転がり続ける山のような鬼の足首に毒牙を打ち込み絶命させる。
必死に食らいつく双頭の蛇の首を二本の刀を持つものがはねた。
コロッセオに、立っているのは、二本の刀を持つものただ一人。
「本日の勝者は…」
ぱぁん・・・!!
二本の刀を持つものが、胸から血を吹き出してその場に崩れた。
山のような鬼に踏まれた、武器を持たないものの手には、一丁の散弾銃。
体の中に、隠しこんでいた、散弾銃。
武器を持たないものの体が、ぶわっと爆ぜた。
「本日の勝者は、貴方たちです!」
武器を持たないものの体は、蟻で構築されていた。
「一人にしか見えない6000匹…ずるくないですか?」
「いやいやいや…人としては、一人ですよ、…今は数を増やしましてね、100000匹を超えたところなんですけどね。」
蟻たちは、絶命した獲物を捕獲し始める。
「これだけあれば、しばらく食料は安泰ですね。」
「いやいやいや…どんどん数を増やしていますからね、食料はどれだけあっても安泰と言うことはないんですよ。」
蟻たちは食料を持ち巣へと戻り始める。
「これから大きな個体はどんどん数を減らすでしょうね。」
「いやいやいや…食料として存在してもらわないと困りますね。」
蟻のリーダーが一匹、残った。
「後この世界にはどれくらい食料が残っているんでしょうね。」
「いやいやいや…私たちが繁栄するまでは枯渇しないでしょう、おそらくね。」
「たとえば、私が貴方を潰してしまったら、繁栄の道は閉ざされるのでは?」
「ははは!!私たちに敗れて体を失った貴方が、何を言うんですか。」
「とても、残念です。この身がないことが。」
「とても愉快ですよ、貴方の身がないことが。」
蟻のリーダーが飛び立っていく。
「それでは、また捕食会の…知らせを待っています。」
コロッセオから、命あるものの影が消えた。
「蟻の滅亡を見るまでは、しがみついてやる…。」
立会人の、恨みがましい声を聞くものは、どこにもいなかった。