短くて残酷な、偽物のお伽話
朝起きる。8時13分。
まぶしいのでカーテンは閉めたままにする。うるさい音。いつもの朝だ。
朝ごはんは何にしようか。
冷蔵庫を開けるも、ほとんど食べられないものばかりだ。
「買い物…めんどくさいなあ。」
独りでつぶやくが、両親は起きてこないため部屋の中に寂しく響く。
仕方がない。
朝ご飯は後回しにして先に部屋の掃除を済ませる。
兄たちが宴会でもしたのだろうか、部屋のなかは汚く散らかり、羽虫が飛んでいる。
「…まったく」
しばらく一人で片づける。
汗をかいたので、シャワーに入る。時計をみると、8時13分。
どうやら故障しているようだ。
「電池も買わなくちゃ」
シャワーに入り、蛇口をひねるが、出てきたのは茶色く汚れた水だった。
「あ、配水管の工事中か」
朝の外の轟音に納得する。
「兄ちゃん、起きて―」
二階の兄の寝室に行き、寝ている兄を起こす。部屋を片付けてあげたんだ。買い物くらい手伝ってもらわないと。
しかしそこに兄の姿はない。
「ああ、また外泊か」
ここ最近、兄と顔を合わせない。
「お母さん、お父さん、おはよう」
二人分膨らんだ布団に声をかける。返事はない。
仕事で忙しいから、起こしたら怒るにきまってる。
テレビをつけるが、どこも砂嵐で見られない。
両親を起こしたくてもできない。
洗濯物をしたいが音を立てられない。立ててはいけない。
電気をつけたくてもつけてはいけない。
ドアがノックされても答えてはいけない。
外に出てはいけない。
「外」
そう言って、少年はカーテンを開けた。
「暑さのせいかな」
あちらこちらで煙を上げる建物。
「どこかの運動会かな」
鳴り響くピストルの音。
街を行く人々。
何かを求めてうろついているが、疲れているのだろう、どこか生気のない顔をしている。
「お仕事お疲れ様」
「今日もいつもと同じだ」
そう言って少年はカーテンを閉め、自分だけの孤城にひた隠れる。
今生きている世界が、普通の日常だと信じて。
そうあってほしい。そうでなくてはいけない。
少年が望めば、見たい夢を見られる。
彼が望む限り、日常は続く。永遠に。
彼が夢から覚めた時、この偽物のお伽話は終わる
読んでくださりありがとうございます。
初めての短編です。