未来へ
無事に卒業式を終えた俺達は、近くにある付属の大学に入学する事が決まった。そんな中の春休みに皆で花見に鶴岡公園へと足を運んだ。
「毎年の事ながら凄い人の量だな」
「出店があるのは良いのですが嫌気が差しますね」
時期が時期なだけに花見客でごった返している。鶴岡での花見スポットだから文句言えることでも無いんだがな。
「グダグダ言ってないでシート敷くぞ」
「そういえば遅いね」
俺と颯がシートを敷いている隣では、時雨が何かを待ち侘びている様だ。
「何か来るのか?」
「誰かお誘いでもしたんですか?」
「あぁ。もう一人来る」
颯と昴は時雨の言っている事が分からない。二人は俺に対し「誰か親しい人いたっけ?」と顔を合わせ交友範囲の確認をしていた。当たり前だ。言ってないからな。ってか失礼だろ。
「お、来たな。おーい鈴奈、こっちこっち」
俺は辺りを見回すとそれらしき人物を見つけ、盛大に手を振り呼び寄せた。
「「「゛え」」」
ようやく鈴奈の顔認識が出来た三人は声が出せていない。
「ど、どう見ても時雨ちゃんだよな」
「はい。うり二つです」
颯と昴は時雨と鈴奈の顔を交互に見ていた。
「もしかして前に言ってた会わせたい人って」
「あぁ。鈴奈のことだ」
俺は粗方事情説明をした。時雨の事があった御蔭ですんなり事は飲み込めたから楽だ。
「そんなことがあったのか」
「美鈴…。私を救ってくれた人。あの人が居たから今の私がある。優しかったなぁ」
時雨は美鈴との記憶も取り戻していた。今の時雨に仕立て上げたのも美鈴が張本人だけど、これは気付いているのか分からんから黙っておこう。
「でも悪いなこんな所に呼び出して。春休みにどうせなら花見やろうって騒ぐ輩が二人いたモンで」
「いえいえ。私も誘って頂いて光栄です」
鈴奈はニコッと俺達に微笑んでくれた。そして時雨の前に歩み寄る。
「貴女が時雨様ですね。お姉様にそっくりです。椿様に言われるまで半信半疑でしたけど、こうしてお会い出来ましたし疑う余地は無いですわ。それにこんなに似ていて年下ですと何だか妹が出来たみたいで嬉しいです」
鈴奈は時雨の頭を優しく撫でると本当のお姉さんのように見える。
「よし。とりあえず面子は揃ったから宴だ宴だ!」
俺は気を取り直してパンパンと手を叩く。
「私達を騒ぐ輩と言っといて」
「椿もノリノリじゃんかなぁ」
「まぁまぁ時雨さんも兄さんもこの日を楽しみにしてたから良いじゃないですか」
時雨と颯は俺を冷たい眼差しで見ているがそんなの気にしてられっか。俺は気合を入れて重箱で弁当を持ってきたんだ感謝しろ。
シートに座り重箱を広げると「おー!」と歓喜の声が上がる。
「これ全部椿様が作られたんですか?」
「ん? まぁ。作り過ぎたけどこういう日ぐらい豪勢に行かないとな」
「椿の作る料理は美味しいんだから遠慮しないで食べてね美鈴」
「何でお前が言うか」
「あぅ!」
俺は時雨に軽くデコピンを放った。
それを鈴奈はお姉さんのように優しく笑っていた。
「食べる前に昴に一つ問いたい」
「何ですか?」
俺は昴の持っている食料に目を付けた。
「こんなに食べるもの有るのに焼きそばとイカ焼きも食べるのか? てか今買うなよ」
「祭りといえばこれを買わないと始まらないじゃないですか」
「もう何も言うまい」
呆れている俺だが、昴なら何事も無かったかのように平らげるんだろう。
「フフフ。皆様いつもこんな感じなのですか?」
仲の良い俺達を見ていた鈴奈は、隣にいる颯にそう問い掛けた。
「確かに俺達四人揃うとこんなんだな。椿も昴も時雨ちゃんも勿論俺もだけど、皆で居る事に意味を感じているんだと思うよ」
颯は俺達の事をそんな風に思っていた。俺もそう思っているよ。じゃなきゃここまで辿り着けなかっただろうし、颯と昴が居なかったら俺と時雨の未来も変えられらなかった筈だ。俺達四人が居て今のこの時間が当たり前のように存在する。颯と昴が居たからこそ決断できた結果だ。この結果が間違った結果じゃなかった事、現に俺の片目は失ってしまったがその代わり時雨の片目は光を取り戻した事、大きな成果でもあり大きな一歩でもあった。
「颯にしては良い事言うな。台風か最悪土砂降りだな」
「明日桜が散ったら兄さんのせいですねこれは」
「似合わないからそう言う台詞は控えた方がいいよ颯」
「お前等本当に俺の親友と妹か?」
「皆様本当に仲がよろしいんですね」
鈴奈は俺達を見て終始笑っていた。
「鈴奈、言い忘れてたけどこの輪に入ったからにはイベント事は今後も強制参加になるぞ。それに来ないと多分時雨と昴がごね出すから」
「ご迷惑でなければ良ければ喜んで!」
その笑顔は時雨と全く同じものに見えた。この人も俺達にとって大切な人になるのだろう。
宴会も中盤に差し掛かった頃、
「あら? 時雨様の様子がオカシクありません?」
逸早く異変に気付いたのは鈴奈だった。
「こら~椿ぃ、いつになったら私を襲ってくれるのよ~。こっちはいつでも準備万端なんだからぁ~。じゃないと今度はホントに夜這い掛けちゃうんだからねぇ~」
顔を赤らめ目も虚ろにしながら四つん這いで歩み寄り、俺の目の前で変な文句を放ってきた。
これは明らかに酔っている状態。
「どっちだ!? 酒持って来たのは!?」
俺はキッと颯と昴に目を遣ると、
「お兄ちゃんら~」
昴は缶の飲み物を飲みながら供述。よって犯人は確定した。が、昴の言葉も語尾もおかしな事になっている。
缶ジュースみたいな柄の一角には【お酒】と表記されていた。
俺は颯に「おい」と睨んでやると、
「い、いや、どうせ盛り上がるんだから多少はあっても良いかと思ってだな」
颯は俺に弁解をしているようだが、俺は弁解など求めてはいない。
「未成年だから飲ませるなとは言ってない。その気遣いは嬉しいが、この現状をどう始末するのか問いたいだけだ」
こんな時くらい飲みたい気持ちは分かる。だけど飲んだ後にどうなるかが問題だった。
大人しく寝てくれるのなら対処は楽。だがしかし、時雨は俺に襲い掛かる気満々。それを見ていた昴もむくりと立ち上がり後退する俺の背後で立ち止まる。
「す、昴?」
俺は後退りしていると立っていた昴の足にトンと背中が当たった。
昴を見上げる俺と少し腰を曲げて俺を見下ろす昴。
この時目が合ってしまった。こういう場合決して合わせてはいけなかった事は第六感が告げていた。
「椿さ~ん!」
躊躇いもなく俺の顔に抱きついてくる昴に完全に捕らえられてしまった。
「ん~! ん~!」
ダウンを喰らっている俺は両足をバタつかせながらもがくしかない。
「あ~!! 昴ズルイよ! これは私がするの!」
先を越された時雨は子供の様に頬を膨らませながら昴を引き剥がし抱き付いてくる。そして俺は顔面を抱きつかれていたせいもあり、息が出来なく瀕死。
「いつも一緒に居るんですから貸してくださいよ」
「イヤ~。これは私のなんだから」
「お二人の現状は知っています。ですが私も椿さんとイチャイチャしたいのです」
「尚更イヤ~」
「そうですか。でわ、椿さんの弱点を教えて差し上げましょう。交換条件です。どうします?」
俺を取り合っている手を止め、ムクッと立ち上がり時雨に手を差し出した。
俺が動けない事をいい事に話がとんでもない方向へ進んでいる。
弱点と言う言葉に時雨は頭で葛藤している模様。そして暫しの時間を経て無言で昴と握手を交わす。
「交渉成立ですね」
「仕方ないから貸してあげる」
無駄な争いは避けられたが一つの大きな犠牲が伴う事となった。
そして目が覚めた俺は昴に襲われた後の記憶が無い。
「お、俺はどうなった!?」
叫び起きながら辺りを見回すと、昴と時雨は酔ったせいもあり眠っていた。
「聞かない方がお前の為だ」
「そうですね。一部始終見ていましたが聞かない方がいいですわよ」
颯はともかく鈴奈がそう言うのであれば敢えて聞かない事にするよ。寧ろ聞くのが怖くなったよ二人の青ざめた顔を見たら。
「そ、そうか。それにしても寝てるときは可愛いんだけどな」
自分の身体を触り異変が無いかを確かめると、俺は二人の寝顔を眺めていた。
「いいじゃねぇか。時雨ちゃんだって昴だって真っ向から本音で言い合えるんだから。鈴奈さんもこんな仲間に引き込まれて災難かもしれないけど」
「いえいえ、こんなに楽しいのは初めてですから。これからも宜しくと言いたいですわ」
「はは。ここの連中はみんな変わり者だな。時雨も昴も颯も鈴奈も勿論俺も」
「だから成り立ってると言って貰いたいね」
「確かにそうかもしれませんわね」
三人で奇人変人の話で盛り上がった頃、二人が目を覚ます。
「お目覚めですかお姫様方」
俺は二人の身体を起こしてやると、寝起きのせいか体勢が整わなくて危なっかしい。
「ほら」
二人を自分に寄り掛からせると次第に落ち着きを取り戻した。
「何を話してたんですか?」
昴は俺を見上げながら楽しそうに聞いてくる。
「お前らの恥ずかしい話をちらほらと」
「ほう、それは死を覚悟した発言でしょうね椿さん」
昴の眼からとんでもない光が放たれたように感じた。
「じょ、冗談です。ちょっとした思い出話だよ」
「確かに椿との思い出は色々とあって、これからはもっと皆で作りたいね」
時雨は良い未来を描いているのだろう。後悔させないように頑張るか。
「イベントは色々あるから鈴奈さんも誘って楽しもうじゃないか」
颯なら確実に楽しい事を企画してくれそうだな。これは任せるか。
「だったら会議は俺ん家で集まるか。時雨もその方が喜ぶだろ。なんせ鈴奈や昴がくるからな」
「うん!」
「そうと決まれば早速移動だ」
「兄さんはこういった行動力は並外れてますから」
「ですが退屈はしなさそうですわね」
桜咲き乱れる春、彼等の新たなる未来がスタートした。
【おわり】




