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行動開始

 休日はあっという間に過ぎて行き、本日は二回目の登校日。

「今日は我慢して大人しく留守番頼むな。誰か来ても、電話も出なくていいから」

「分かったよ。行ってらっしゃい」

 俺は時雨に見送られて学校へ向かった。

 とは言ってもお昼で終わるのだが、俺の腐れ縁の親友とその妹が弁当を持って来いとの電話が昨日の夜に有り、俺は渋々弁当持参で学校へと向かっているのだ。

「おはよ椿」

「おはようございます椿さん」

 昇降口で会った腐れ縁の親友とその妹に俺も挨拶を交わす。

「数週間ぶりだな。終わったら屋上でな」

「あぁ分かった」

 教室の前まで移動し、クラスが別なのでここで別れた。

 今日の予定は終わった者からの課題提出と個人面談での進路相談みたいなものだった。

 俺はまだ進路は未定だ。特にこれと言って目標も無い。だから俺の進路は就職でも進学でもどちらでも構わなかった。今の現状心配なのは時雨だけでそれ以外は考えていない。

 そして放課後、俺は屋上に向かった。

「よっ、数時間ぶり」

 改めて紹介しよう。こいつが俺の幼馴染の腐れ縁、近衛颯と言う輩だ。

「椿さんお弁当は持って来ましたか?」

 こっちが一つ下の学年で颯の妹の昴。

「文句を言いたいのだが、何で俺がお前らの分まで弁当を作らにゃならんのだ」

 昨日の夜の電話は「お前の秘密を知っている」と言う颯の脅しの電話だった。

「そう言いながらもちゃんと準備してくれるんですね」

 三角形に床に腰掛けている真ん中に俺は弁当を置くと、昴が手際よく中を出して食べる準備を進めてくれた。

「持って来いって言われたら持って来るだろ普通」

「相変わらず上手いな。早速頂くか」

 中身を確認した颯は感心するかの様に呟いた。

 皆で手を合わせ「頂きます」をして昼食を囲んだ。

「そういや椿最近付き合い悪いな。何か忙しいのか?」

 颯が唐突に俺に問い掛けた。

「まぁ忙しいかな」

 俺は適当に誤魔化しその場を凌ぐ。確かに時雨相手で忙しいし嘘は言ってない。

「ところで時雨ちゃんは元気なんですか?」

「あぁ元気元気。この間なんて風呂で寝てそのまま風邪引いたし、朝はいつも悲鳴上げて―」

「…子犬の話ですよね?」

 昴はキョトンと首を傾げてそう尋ねて来た。

 ヤベェ、そうだった。今の時雨じゃねぇよ、子犬の時雨だよ。

 インパクトが強すぎてすっかり忘れていた。

「う、うん。時雨だよ」

 疑問たっぷりの昴の表情に俺は結構焦ったが何とか大丈夫の様だ。

「そういや颯、俺の秘密を知ってるって何だ?」

 そそくさと話題を変え、脅しに使われた“秘密”を確認する。

「あぁ、その事な。証言者Sの話だと、何日も前の事だが椿がなんか凄く可愛い女の子と海水浴に行ってたと聞いた。しかも二人っきりで」

 おいおい、これは地雷か何かか? 俺だってばれてるじゃん。

「私は証言者Hから聞いた事ですが」

 お前もあんのかよ。

「羽黒の階段を可愛い女の子と二人きりで手を繋いで一緒に登っていたと言う情報を」

 そこで見たのが俺の事なら明らかに相手の女の子って時雨じゃんね。

「…てか待ておい、証言者SとH、昴と颯、おいコラ」

 途中で気付いて良かった。証言者SとHは昴と颯。もう少しで流す所だったじゃねーかこの野郎。

「うわ、バレタ」

「うるせー、危く流すとこだったよ」

 俺はワザとらしく焦る颯にツッコミを入れた。

「ねー、その女の子は彼女なんですか? 彼女なんですか!?」

 興味津々に物凄い勢いで聞いてくる昴が少々鬱陶しい。そこは女の子と言う事か?

「んや、ちょっとした知り合いだ」

「なーんだ」

 何やらガッカリ気味の昴に対し颯は黙って俺を見ていた。

「まぁ知ってるなら丁度良い。そいつの事でちょっと颯に相談と言うか聞きたい事が有ったんだ」

「ん? 珍しいな。何だ?」

 俺は昴から颯に視線を変えると、黙りした表情からいつもの颯に戻った。

「そいつ目が見えて無いんだわ。颯確か医者志望だったよな。治す方法って有るのか?」

「そう言えば時雨ちゃんも盲目でしたよね」

 昴が思い出したかの様に俺に確認する。

「あぁ、うん」

 気付かれたら不味いと思った俺は簡潔にそう答えた。

「流石に犬の方は専門外だから分からないが、人間の方なら無くは無いかもな。これも俺にとっては専門外だ。俺がなりたいのは小児科医だからな」

「ああぁ、ロリコンだもんな」

「違う! こ・ど・も・好・き! 子供が元気にいられる様にするんだ」

 全力で否定と説明をする颯。だが俺は静かに二人に言葉を飛ばす。

「昴と颯に俺からのお願い」

「「?」」

 二人は俺を黙って見ながら言葉を待つ。

「まず昴。ロリコン兄貴とは縁を切るのが今後の為だ」

「そうですね。私もそう考えていた所です」

 昴はため息を吐き「やっぱりそうですよね」と同意。

「おい!」

 颯は俺の発言にビシッと手でツッコミを入れる。

「そして颯、お前は一刻も早く昴と縁を切ってやれ寧ろ切ろ。兄が犯罪者じゃ可哀想だ」

「それはお願いじゃなく命令だ。てかまだ犯してねぇ!」

「うまい! 犯すが見事に掛かってる」

 俺は颯に精一杯の拍手喝采を贈る。

「うまくねぇし、うまく言った積もりもねぇよ」

 さすが幼馴染、息も合ってるね。

「で、漫才は終わりか?」

「あぁ満足した」

 一連の流れは俺のアドリブだが颯は見事に繋いでくれた。俺は何も言う事はない。満足だ。

「さっきの話の続きだ」

「あぁロリコンの話か?」

「終わっただろそれは!」

 昼食も食べ終わり暫くすると俺達はそれぞれ帰宅する事となった。


 俺は帰りながら先ほどの会話を振り返っていた。

「で、何隠してんだ?」

「そうですよ椿さん。話して下さい」

 颯と昴が真面目な顔で俺に聞き返した。

「分からないとでも思ったか? お前が俺達に相談事を持ち掛けたのはこれで二回目だ。一回目は親父さんの事だ。その時もお前は本気で俺達に話してくれた。今回だってそうだ。一人で何でも解決する椿が俺達に相談してくるのは珍しいしな」

「流石幼馴染の親友君達だ。御見通しって事ね」

「伊達に十何年も一緒に居ないですよ」

 長い付き合いだと流石に敵わないな。隠し事がバレていた。


    ☆    ☆

 俺は初めて人に相談したのは親友のこの二人だった。それは父さんの事。

 中学に上がる時に打ち明けられた。「俺は本当の父親じゃ無い」と。そして俺は拾われた事、名前も無かった事。

 俺はどうしていいのか分からなかった。そして話したのが颯と昴だ。

 そして返って来た言葉が、

「それで何か変わることでもあんのか?」

「そうそう。ショックなのは分かるけど、お父さんはお父さんなんだよ。ここまで一緒に生活をしてきたお父さんなんだから、変わる必要なんて無いんじゃないかな」

 前向きな二人の意見に深く考えていた俺は馬鹿馬鹿しく思えてきた。

「そうだよな。俺は俺、父さんは父さんだ。血は繋がってなくても俺の父さんはあの人だ」

 俺はこの二人に話して心から良かったと今でも思う。本当の事を打ち明けてくれた父さんと仲良く過ごす事が出来たのだから。

 改めて受け入れてくれた俺に、父さんは泣いて謝り、お礼を言ったのだ。

「今まで騙しててすまない。そして本当にありがとう。俺を父親と呼んでくれて」

 この時だな、初めて父さんを尊敬したのは。謝る心と感謝の心を伝えてくれた事に。そして颯と昴にも感謝したな。前に進む一歩を与えてくれた事に。

 だから今回も助けて欲しかったのかな…

   ☆    ☆


「俺は真面目に話すが信じる信じないはお前らの自由だからな。俺だって本当は信じたくは無いんだが―」

 最後まで言い終わらないうちに颯が言葉を被せた。

「今更何言ってやがる。お前がこんな事で嘘を言う訳ないのは知ってるよ」

 昴も颯の言葉に頷いて俺の話の続きを待っている。

「そうか、ありがとう」

 俺は二人にお礼の言葉を言い、そのまま話の続きをする。

「お前らが見た女の子は…時雨だ。あの盲目の子犬の時雨だ」

 俺は絶対信じて貰えない様な馬鹿げた事を二人に言っているも同然。だが、

「やっぱりお前はスゲェよな。真面目にこんな事を話せるなんて」

「前回も驚きでしたけど今回も更に驚きです」

 ほら、ヤッパリこうなる。

「そうか、今回の厄介ごとは盲目子犬の時雨じゃ無く、盲目少女の時雨か。だから俺に聞いて来たのか」

 颯は顎に手を当てて真剣に考えている。

「兄さん、どうにか出来るんですか?」

 昴は悩んでいる颯の意見を待っていた。

「ちょちょちょ」

 あまりの事に俺が驚いて制止を掛けてしまった。

「し、信じるのか?」

 今度は俺が二人にそう問い掛けた。問い掛けずにはいられなかった。

「はぁ? 何言ってんだ。さっきも言っただろ。この時のお前は嘘言わねぇって」

「今回も私たちがちゃんと椿さんの助けになってあげますよ」

 心強い二人。頼もしい言葉。なんの躊躇いも無く俺を信じてくれる二人の心。

 二人は疑いの眼差しじゃなく、真剣な目で俺の目を見ながらハッキリと言ってくれた。

「本当にありがとう。今回もよろしく頼む」

 俺は自然と二人に深々と頭を下げていた。心からの感謝の気持ちだった。

「それで、何か手は有るのか?」

 俺は期待を膨らませ颯に尋ねた。

「まぁ、手は無いとは言い切れないな」

 颯は再び思い出す様に考えていると曖昧な発言をした。

「私たちに出来る事は?」

 協力体制バッチリな昴は行動の説明を促した。

「とりあえず俺達が出来る事は探す事だ」

「「探す?」」

 俺と昴は颯の言った事の意味が理解できなかった。探すって何をだ?

「そうだ。探すんだ医者を。眼科や総合病院を手当たり次第にな。電話じゃダメだ。電話だとすぐに断られるから直接交渉するんだ。手術出来る医者をな」

 医者を探すのは分かった。だが、手術できる医者を探すという事に疑問を持った。

「手術出来る医者なら誰でも良いんじゃ無いのか?」

「そうも行かないんだ」

 俺は颯からある程度だが手術内容を説明して貰った。

 説明が終わると、颯は真剣な表情で俺に確認するかの様に質問した。

「椿、いくら見える様にしたいからってここまでする必要は有るのか?」

「ああ。時雨は俺の家族同然だ。時雨にはこれからももっと楽しく今後を送って欲しい」

「だからってお前―」

 颯は俺を気遣って説得しようとしているのだが、俺は颯が言い終わる前に言葉を出した。

「良いんだ。もう覚悟は出来てる」

 俺の強い意志表示に颯は溜息を吐きながら「分かった」と頷いた。

「いいか、医者が見つかって手術出来たとしても、視力が戻る確立は低いんだぞ。それだけは覚えて置けよ」

「ああぁ。さっきの説明聞いてたらそのくらいは何となくだが予想出来てたよ」

 それは俺の片眼を時雨の片眼と入れ替える事。盲目と言う事は時雨の眼はもう機能していない。よって一番治る可能性が高い移殖を選んだ。確実に俺の片眼は失うが時雨の視力が戻るという可能性に賭けてみる事にした。現役バリバリの俺の眼だ。使えるのなら有効に使ってやりたいじゃないか。

 手術が出来たとしても視力の回復は難しい。その覚悟も出来ている。俺は颯に「どこをどう探すんだ?」と問い掛けた。

「先に近所の眼科や病院を当たって、ダメなら範囲を広げていこう。地道な作業だ」

「分かった。じゃぁ明日家に来てくれ。改めて時雨を紹介するのと、誰がどこに行くか打ち合わせしよう」

 俺は二人を家に招待した。協力してもらうのに挨拶無しじゃ失礼に値する。

「時雨ちゃんに会える」

 昴は時雨に会える事に素直に喜んだ。

「大丈夫か? 急に俺たちが行ったりして」

 颯は時雨の事を心配していた。それは以前に拾ってから何日か過ぎた時、二人が遊びに来て状況を知っていたからだ。

「俺以外の人と話すことも時雨には必要だ。ちゃんと言っておくから大丈夫だ」

「なら喜んで行くわ」

 颯も昴も時雨の事を心配してくれている。会った事も話した事も無いのに、ただ俺が助けたい一人の女の子ってだけなのに。二人には感謝しても足りないくらいだ。

「じゃぁ明日待ってるからな」

 こうして俺達は帰路に付いた。


「なぁ時雨、颯と昴覚えてるか?」

 俺は家に帰ると早速時雨に二人の事を覚えているか確かめた。

「うん、何となくだけど。私がここに来てから何日もしない時に遊びに来てくれた人だよね。あの時は何だか悪い事しちゃったなぁ」

 時雨はちゃんと二人のことを覚えていた。今でこそ大丈夫なのか申し訳ないと思っている。あの時の時雨は人にも怯えていたので二人には近づかなかった。それを気にして二人も家には来なかった。

「だったら明日遊びに来るからちゃんと謝っておけよ」

 流れる川の様にスムーズに報告する事が出来た。やったな俺。

「分かった………え!!?」

 時雨は真面目に驚いていた。いきなり明日遊びに来ると言われても心の準備が出来ていないのだろう。タイムリミットは明日の午前までだから十分に時間はある。

「颯はロリコンだから心配無用だ」

「そんな心配はしてないよ。仮にも親友をロリコン扱いって…」

 俺は別に問題ないだろうと話しをしているつもりなのだが、何かいまいち伝わって無い様な気がするな。

「何だっけな…確か子供の裸を見たいだかどうだかと言ってたな」

「うわぁ~最ッ低~」

 あれ? 颯の印象がマイナスになった気がするが、まぁあいつはどうでもいいか。

「昴は良い子だから仲良く出来るだろ。時雨に会いたがってたぞ」

「頑張って謝るよ。あの時はまだ私…」

「そうだな。今の時雨なら出来るよ」

 俺はあの時の事を思い出して落ち込んだ時雨の頭をポンポンと優しく叩いた。

「うん」

 あの二人と会う事は、時雨も前に進もうと踏み出す一歩なのかもしれない。


 そして翌日。良い感じに気温が上昇する午前中、呼び鈴が家の中に響いた。

「なんだ、お前まで来たか」

「なんでだよ!?」

 いきなりの挨拶に颯は朝から盛大にツッコミを入れる。

「昴、時雨も会いたがってるから早く入れ。颯は落ち込むからこのまま引き返してくれ」

「だから何でだよ!?」

 言いながらも二人をいつもの所へ案内する。

「あ、この匂い懐かしい。こっちが昴でこっちがロリコン変態颯だ」

 時雨はまだ声を発していない二人を匂いで当てる。

「正解ですよ」

 覚えていてくれた事に喜ぶ昴に対し、

「まてまてまて何かがオカシイって」

 こちらも喜びたいのだが、名前の前についていた二種類の呼び名に待ったを掛けた。

「これが現実だよ颯」

 俺は颯に現実の厳しさを教えて上げたのだ。

「何を言った? 何を吹き込んだんだ?」

 俺の両肩を掴みガクガクと揺らしながら尋問する颯。

「ははははは。僕は何も言ってません」

 俺は目を逸らして棒読みで颯に言うしかなかった。

「バレバレな嘘を吐く出ない!」

 更に揺らす力が強まった。

「時雨の中のお前は、俺のせいでロリコン変態という扱いになっている。よって時雨は完全に警戒態勢に入ってしまったのだよ」

 俺は颯の扱いの現状を爽やか青年の様に説明した。

「笑い事じゃねぇよ。俺達の事話したんだろ?」

「話したさ。俺の言い方が悪かっただけだ」

「お前が原因じゃねぇか!」

 この後颯直々に弁解と誤解と説明をして、時雨の認識を僅かだが修正させた。

「遠目で見ただけだから分からなかったですけど、思ったより大人っぽいので時雨さんと呼ばせて下さいね」

「俺は時雨ちゃんと呼ぶわ」

 二人は時雨の呼び方を決めて会話を弾ませていった。

 そして、楽しい会話の盛り上がりが治まり時雨は二人の名前を呼んだ。

「あ、あの…。颯、昴…あの時はごめんね…。私、まだあの時は椿ですら怖かった。だから…」

 時雨は俯きながら悲しそうな声で二人に謝った。正確に言うと、皆が悪い訳では無いのに俺や二人の事を拒絶していた自分が悔しかったのだろう。

「こうして話す事が出来たんだ。あの時の事はチャラだ」

 時雨が言い終える前に颯が笑顔で答えた。

「そうですよ。時雨さんとまた会えるまで椿さんの家に遊びに行くの我慢していたんですからね。人間になってお話出来る事に今はとても嬉しいんですから」

 昴も時雨に優しく言い聞かせてくれた。

「ありがとう…。これからも仲良くしてくれますか…?」

 時雨は俯いたまま涙を零して問い掛けた。

「「当然!」」

 颯と昴はお互い顔を合わせると、二人は時雨にハッキリとそう言ってくれた。

 俺同様に時雨もこの二人の優しさに触れる事が出来た。寧ろこの二人だから、時雨に会わせても大丈夫だという事を心のどこかで確信していたのだろうか。正直に本当の事を話せたのだからきっとそうなのだろう。

「じゃぁ俺共々時雨を改めて宜しくな!」

 俺はしんみりした空気を換えるべく改めて二人に挨拶をした。


「何だか腹へってきたな。たまにはピザの出前でも頼むか」

 知らない内に昼になっていた事に気付いた俺は、昼食を作るのが面倒臭いので出前を取る事にした。これに三人は「賛成」と言う事なので、早速電話で海鮮とミックスの二枚のピザを注文する。育ち盛りの男が二人も居るんだ。一枚じゃ死闘になっちまうだろ。

 一時間も掛からない内に出前が到着した。

 テーブルに二枚のピザの箱を置き、ふたを開けると一気に二種類の香ばしく食欲をそそる良い香りが広がった。

「早速頂こうぜ」

 先に手を出したのは勿論颯。

「ご馳走になります」

 丁寧に挨拶をして昴も頂く。

「ほら時雨、口開け」

 俺はピザを一切れ取り時雨の口に運んだ。流石に取り辛いかと思っての行動。最初に口に銜えさせて後は自分で持たせる為だった。

 時雨も俺の意図が分かったのか、当然のように口を開けてピザを銜える。そして俺の手と入れ替わる様にピザを持ち替えた。

 俺も一切れ取って食べていると、何やら二つの視線が突き刺さった。

「何だ二人してこっちジッと見て」

 颯と昴が食べながら黙って俺を見ていたのだ。と言うよりは俺の行動を見ていた。

「お前らを見てるとカップルみたいだな」

「何だかお互いの事を分かっているみたいでしたよ」

 何を言い出すんだこの二人は。そんな事言うと時雨が調子に乗るだろ。

 言われて気になり時雨に目をやると、

「どうした時雨?」

 時雨は頬を紅くしてチマチマと食べながら照れていた。照れてしまったからチマチマと食べているのか。

「か、カップルだって…どうしよう椿」

 時雨は自分で言って更に火照り出した。体の方向を変えて皆に見えない様にしたが既に手遅れと言うものだった。

「どうしようの前にお前がどうした?」

 勝手に言って勝手に恥ずかしくなって勝手に顔を隠したお前に俺がどうしろと。

「だ、だって、そんなハッキリ言われると私だって恥ずかしいよ」

 時雨は真面目に照れている様だった。

「椿はどうだ? 言われてみて何か感じないのか?」

 ニヤニヤしながら時雨を見ていた颯は、今度は俺に回答を求めた。

「俺か? 俺は…」

 時雨も気になるのか聞き耳を立てている。

「別に悪い気はしないな。時雨のことは嫌いじゃないし、カップルって言われても今まで女性を好きになった事無いからいまいちピンと来ないんだ」

 俺は颯に自分の思った回答した。それでも颯は何やら納得している様だった。

 時雨は時雨で残念そうな表情を浮かべていたのを颯と昴は見逃さなかった。

「時雨ちゃん安心しろ。時間の問題だ」

「ウフフ。そうですね」

「「?」」

 颯と昴はお互いを見て勝手に納得していた。二人が何を言いたいのか分からない俺と時雨は置いてきぼりを喰らった。

「そうですね。何れお二人にも分かりますよきっと」

 焦らさないで教えてくれても良いだろう。けど絶対言わないだろうなこの二人は。

「分かったよ。答えは勝手に見つけるよ。な、時雨」

「え!? あ、うん。見つけるよ」

 突然の俺の振りに声が裏返った時雨は慌てて俺に合わせた。

 昼食をそれとなく食べ終えた俺は颯に昨日の話を促した。

「とりあえず市内で手分けでもするか。大して多くもなさそうだしな」

 鶴岡市にある分かる範囲の眼科は八件、あとは大手の病院だ。これを三人で手分けして当たって行く。

「ダメだったら酒田に行ってみるぞ。先ずは明日市内決行で」

 俺と昴はそれぞれ自分が行く所を確認した。

「分かった。じゃぁそれで」

 段取りが一通り済み一息付くと、

「皆、ありがとね」

 時雨が小さくお礼の言葉を口にした。その声は微かに震えていた。

「何言ってんだ時雨ちゃん。俺らは好きでやってる事だ」

「椿さんが困ってるのに助けない訳にはいきませんよ。時雨さんは気にせず私達に先ほどの笑顔を下さればそれで満足です」

 二人は時雨を励ます。時雨は自分の事なのにここまでしてくれる颯と昴に本当に申し訳ないと思っていた。それは椿に対してもそうだった。それにより出た言葉だった。

「今更可愛げ出しても時雨には似合わないんだからな」

「ちょっとそれどーゆー意味よ!」

 ツンツンと頬を突く俺の指に時雨は噛み付いた。

 痛がる俺にそれを見て笑う颯と昴。これがいつもの俺達。これが一番落ち着くんだ。

「悪かった悪かった。可愛いぞ時雨」

 別に悪いとも思ってないので棒読みで俺は時雨の頭を撫でてやる。

「こっちは深刻なのに」

 時雨は膨れながら拗ね出しソッポを向いてしまった。

「その深刻が似合わないって言ってんだ。いつも通り俺とふざけながら笑ってる方が時雨らしいんだから。無駄にそんな顔されるとかえってやり辛いの。分かる?」

 俺は時雨のあり方を時雨本人に説いた。

「しょうがないなぁ。期待しないで待ってるよ」

 悪戯に笑う時雨。その顔が時雨だ。変に悩む時雨より無邪気に笑うこの顔が時雨だ。

「それで良いんだよっと」

 俺は言いながら額にデコピンを入れた。不意打ちに時雨は変な奇声を上げて額を摩っている。俺達は笑った。こうして笑い合えた事はいいスタートだ。

「お前等ホントに仲良いな」

「微笑ましい光景ですよ」

 二人は俺たちをニコニコと観察していた。

「うるせーうるせー、見せもんじゃねぇぞ」

 茶々を入れるな恥ずかしい。まぁいつもこんなんだから当たり前みたいなものだ。

 時雨にとってこういった時間の過ごし方は初めて。昨日までは俺との二人の時間しか知らなかった。時雨にも友達と言う存在は必要だろう。時雨を足したこの四人が新たな仲間となり、支えあえる。

「そうだ、お前らも今度海行かないか?」

 俺は時雨をもう一度海に連れて行く約束を思い出して二人を誘った。

「そだね。皆で海に行きたい。ねー、行こうよ」

 時雨も俺の意見に賛成だった。ノリノリで二人を誘う。

「お前らが良いなら俺は喜んで行くぞ」

「出来ればお二人の邪魔はしたくないのですが、何だか楽しいそうなので行きます」

 次の海はこの四人で遊びに行く事に決まった。

 日付も決まり、弁当は相変わらず俺担当。時雨は既にウキウキで待ち遠しい様子だった。

「兄さん、そろそろ帰ります?」

 昴に言われた颯は時計を確認する。

「そうだな。こんな時間まで喋ってたんだな」

 時刻は日も傾きだした頃、時雨が「まだ居てよ」と渋るも帰る家がある二人を長居させては悪い。

「すまんな遅くまで、と言ってもまだ夕方なんだがな」

「地味に門限あるの知ってるだろ」

「まぁ、椿さんの所に行ってましたと言えば問題無いんですけどね。家の両親椿さんの事は信用してるみたいなので」

 さすが幼馴染だけあって二人の両親の信頼度が高いらしい。なので門限のある二人も俺と一緒だと言えば怒られないらしい。

「それは事前連絡した時だろ。時間見て慌てた様だからどうせ何も言って無いんだろ」

「流石鋭い」

 どうやら今の俺の発言は正解だったらしい。

「分かったからサッサと帰れ。一回来ると帰るのどうせ遅くなるんだからな。ちゃんと言ってから家に来い」

 こいつらの事だからまた言い忘れて来るだろうと俺は踏んだ。なので今の内によく言い聞かせておくに越した事は無い。

「椿さんそういう所は変わってませんね」

「過保護か何かか?」

「うるせーロリコン。黙って帰れ」

 確かに颯の言う通りかもしれないな。少し気にしてみるか。

 二人を見送り俺達も再び家の中へと戻った。

「良かったな。皆で遊びに行けて」

「うん。椿、お弁当は豪華にね」

 よほど嬉しいらしい。しょうがないから色々詰め込んでやろう。

「すまんが明日も留守番頼むな」

「椿の部屋で音楽でも聴いてるから気にしないで」

 時雨の了解も得た事で俺は明日に備える事にした。


 次の日の午前中、俺は時雨に出掛ける事を伝えて家を出た。

「えっと確か一件目はこっちの方だったっけかな」

 俺は近い所から進めて行く事にした。家から歩いて一時間位の道のり。

「あった。これだな」

 見つけた眼科に入り、受付で話を進めていった。受付のお姉さんが内線で俺が言った内容を説明している。相手はこの眼科の医院長だった。

 内線が終わり話を聞くと、今の技術ではこの手術は出来ないとの事。颯の言った通りだった。俺は諦めてこの眼科を後にした。

 俺はその足で残りの二件も回ったが言われる事は同じで諦めるしかなかった。

「そうだよな…。出来ねぇってモンを無理にお願いする事は無謀だよな」

 言われた自分の場所を回り終え、近くの公園のブランコに腰掛けて溜息を吐いた。

 たかだか数箇所回るにも結構な移動距離だった。

「ここで落ち込んでもどうしようもねぇな。一旦帰るか」

 俺は重い腰を上げで帰宅する事にした。でもテンションはもちろん低い。

「ただいまー」

 俺は家に入ると、二階の多分俺の部屋からだろう音楽がダダ漏れしていた。

 二階へ歩を進めると、階段の隣にある電話機の留守電のボタンが光っていた。

『もしもし昴です。椿さん帰ってきましたら至急連絡下さい』

 留守電を再生すると昴からの伝言だった。時間は十五分ほど前。

「至急?」

 俺は部屋に行く前に颯宅に電話を掛けた。

『もしもし、近衛です』

 数回のベルで電話に出た。この声は昴だな。

「もしもし、俺だ。椿だ」

『椿さん良かった。思ったより早く掛けてくれまして』

 電話越しで何やら安心している昴が感じ取れた。

「ところで、そっちはどうだった?」

 俺は結果を昴に訊ねた。

『その様子ですと椿さんもダメだったのですね。残念ですが私も兄さんもダメでした』

 今度は落ち込んでいる昴。

「やっぱりそうか」

 薄々そうじゃないかとは思っていた。だけど期待もしていた。

『ですがいい情報が兄さんから入りました』

 いい情報?

『今兄さんは用事があって酒田の病院に行ってるんですが、ついでに話をしてこようと先生に相談したところ、興味が有るとかで本人と話がしたいらしいです』

「本人と言うのは俺か?」

『はい』

 それはつまり、手術出来る医者を探している張本人の俺と言う事だった。

「分かった。今からその病院行ってみるわ。あと悪いんだけどこれから家に来て時雨の相手してくれないか? 今からだと帰ってくるの遅くなりそうだし」

『分かりました。兄さんにはこれから行くと伝えておきます。私は椿さんの家で時雨さんと乙女の話でもしてますね』

「悪いが頼むわ。家の合鍵はポストの後ろな」

 俺は電話を切ると、二階へは行かずに真っ直ぐ出掛けた。

 バスで駅に向かい電車で酒田へ向かう。酒田に詳しくないのでタクシーで病院へ直行。

「遅くなって悪いな」

「いや、こっちこそ悪いな」

 二人とも会って早々謝るのはお互い癖みたいなモノだ。

 昴から連絡を受けていた颯は、病院の入り口付近で俺が来るのを待っていた。

「昴から聞いたよ。ダメだったってな。やっぱりそう簡単にはいかないわな」

 颯もどこか納得していた。俺が思ってる以上に厄介な事らしい。

「で、俺と話したいってどういう事だ?」

 なぜ俺と話したいのか分からない。話すなら直接時雨が良いと思うんだが。

「それが俺にも分からない。とりあえず案内するから行くぞ」

 俺は言われるがまま颯に付いて行った。

 着いた先は応接室。そこのドアを開けると一人の男が座って待っていた。見た目は四十後半位のオッサンだ。

「来たか。まぁ座りなさい」

 俺と颯はオッサンと向かい合うように腰掛けた。

「俺は霧島と言う。早速聞くが、君かね盲目の少女の視力を回復させたいと言うのは」

 名乗ったかと思えばいきなり本題に入る霧島さん。

「櫻井椿です。それは間違いなく俺です。何か話があるとかと伺って来ました」

 俺は不安を抱きながら恐る恐る探りを入れた。

「そんなに警戒しなくても大丈夫だ。まさかこんな所で会えるとは思わなかったぞ。覚えてないか? 俺だ。愁爺だ」

 愁…爺…? なにやら覚えがある様な…。

 目を瞑り右手を額に当て考える姿勢をとると記憶を全速力で振り返った。

「……あっ…。もしかして良く父さんと家で飲んでた愁爺か!?」

 遡った記憶で何とか思い出すことに成功した俺は閃いたかの様に人差し指を立てた。

「何だ? 知り合いだったのか?」

「ああぁ。正確には父さんの飲み仲間だがな」

 颯は俺の知り合いと言う事に緊張が解れた様だ。

「随分でかくなったな。あいつは元気か?」

 あれ以来全く会っていないのだろう。愁爺は父さんが死んだ事を知らなかった。

「二年前に死にましたよ」

「そうか。だから酒は止めろって言ったのにな」

 酒が原因と言う事は現役の医者である愁爺も知っていた事。

「その割には飲んだくれてましたよね」

「あいつも分かってた事なんだ。だから自分の好きな事をしたんだろ」

「父さんはそーゆー人でしたからね」

 俺と愁爺はあの頃を懐かしんでいた。

「ところで話って何なんですか?」

 俺は逸れてしまっていた本題を戻し話を進める。

「颯君から話を聞いてな、無謀な事は止めようかと思ったんだが。椿は頑固なところもあるしな、覚悟も出来ているようだから一つ協力してやろうかと思ってな」

 思いがけない台詞に俺と颯は固唾を飲み愁爺の言葉の続きを待った。

「俺が出来るのは、手術出来る医者を紹介してやる事だけだ」

「「やった!!」」

 俺と颯はハイタッチを交わす。だが話にはまだ続きがあった。

「喜ぶのはまだ早い。いいか、今の技術じゃ到底出来ない手術なのは分かってるだろう。もし出来たとしても成功する確率も回復する確立も五%も無い。俺が紹介する医者は腕は確かだ。成功する確率も回復する確立も勿論上がる」

「何が問題なんですか?」

 颯は愁爺に話の先を促した。

「言っただろう。今の技術じゃ追いつかない。俺が紹介するのは闇医者だ」

 その言葉に颯の顔が曇る。

「勘違いするなよ颯君。闇医者と言ってもちゃんと医師免許は持っているし普段は普通のどこにでも居る医者を営んでいる」

 颯の顔を見た愁爺はその医者について話を始めた。

「彼は見限ったんだ。今の発展の無い医療を。救える命も今のままじゃ救う事が出来ないと言って。それで彼は依頼があれば闇医者としての医療を行う様になった。綺麗事を言っている様だが言い換えればただの犯罪者となる。だが俺は反対しなかった。これで救える命があるのなら俺は彼と協力する事に決めた」

 愁爺は真面目に俺達と向き合い話をしてくれた。ただの子供の俺達に。

「霧島さんが信頼出来るなら俺は何も言いませんよ。俺は椿と時雨ちゃんが心配なだけですから」

 颯は愁爺に笑顔でそう言った。そして今度は颯も真面目な顔付きになり、

「闇医者と言う事は、医療道具や薬品も裏からのルートなんですよね」

「颯君の言う通りだよ。椿君、これはあと費用の問題だ。少なく見積もっても数千万」

 颯と愁爺は俺に視線を変える。

「数千万…」

 俺は桁の大きさに言葉が出なかった。ただの高校生にどうにかできる数字ではない。

「はっはっはっは」

 落ち込む俺に愁爺は盛大に笑った。その意外な言動に俺と颯は驚いていた。

「心配するな。ただ脅しで言っただけだ。椿君から一括でお金を取るつもりは無いよ」

 二人はキョトンとしながら愁爺を見ていた。

「あいつには昔資金面で色々世話になったからな。タダって訳にはいかないが出世払いで少しずつで手を打ってやろう」

「マジか!? ありがとう愁爺!」

 愁爺の言葉に俺は喜びを隠せない。それは颯も同じで思わずまたハイタッチを交わすほど喜んだ。

「そうと決まれば紹介状を書いてやろう」

「よろしくお願いします」

 俺は愁爺に深く頭を下げた。

 すると窓際の机の引き出しから紙と封筒を取り出し手術の内容を書き留めた。

「手術は俺も参戦するからな。椿が身体を張ってまで助けたい女性の顔も見たいしな」

 そう言うと愁爺は手紙を封筒に入れ俺に差し出した。

「ありがとう愁爺」

 俺はもう一度頭を下げた。

「紹介状があればいつでも受け付けてくれる筈だから。ほら、これがその住所だ」

 封筒とは別に住所が書いてある別の紙切れを貰った。

 俺達はこうして手術出来る環境が整った事を盛大に喜び病院を後にした。

「やったな椿。まさかこんなに早く見つかるとは思わなかったよ」

「ああぁ、ホントだな。これも颯の御蔭だ。感謝するよ」

 颯がたまたまとは言えこの病院に用事が出来た事に奇跡を感じる。

「颯もこれからなら家で晩飯でも食っていかないか? 昴に時雨の事お願いして家飛び出して来たからな」

「おう。行く行く」

 俺達はこうして良い土産を持って帰宅する事が出来た。


 玄関を開けると良い匂いが俺達を出迎えてくれる。

「椿さん、兄さん、お帰りなさい」

 そしてキッチンから昴が顔を出して俺達を確認した。

「悪いな。時雨の相手もしてもらって晩飯も作ってくれて」

「いいえお気遣い無く。椿さんなら私達を晩御飯に誘ってくれるだろうと思いましたし。今日の夕食はありもので作らせて頂きましたのでシチューです」

 昴は有り合わせでシチューを作ってくれていた。俺達はキッチンへと向かうと時雨が一人椅子に腰掛けている。昴は料理をしながら時雨と会話を楽しんでいた様だ。

「お帰り椿、颯」

 時雨が声のする俺達の方へにこやかに返す。

「「ただいま」」

 俺達も釣られて時雨に返す。俺達は顔を見合わせてまだ黙っておく事にした。

「どうかしましたか?」

「いやぁ、昴が料理なんて珍しいなと思ってな」

「私だって料理くらい作りますよ」

 昴が俺達のやり取りに疑問を抱いたが、颯が華麗にかわしてくれたので事無きを得た。

「時雨、昴と二人っきりだったけど何もされなかったか?」

「それはどういう意味ですか椿さん?」

 昴は包丁片手に笑顔で俺に問い掛ける。

「ゆ……何でもありません」

 俺は言いかけるも真っ黒い笑顔の前に成す術が無かった。

「百合乙女だなうおぁ!?」

 言い終えた途端俺のこめかみを包丁が掠め、後ろの颯へ目掛け飛んで行った。

「こ、殺す気か!?」

 颯は尻餅を付き、上を見上げると頭擦れ擦れの位置で包丁が壁に刺さっている。

「そんなことを言う兄さんは死んで下さって結構です」

 マジだ…あれはマジで殺る気だ…。

「椿さん」

「ぅはいっ!」

 昴が不意打ちで俺の名前を呼ぶから声が裏返ってしまった。

「晩御飯にしましょう」

 昴はそう言うと颯を放置して配膳を始める。良かった俺は無事だ。生きてるって素晴らしいよね。

「いやぁ、マジで殺されるかと思ったわ」

 颯はそのまま四つん這いでこちらに移動してくる。

「いや、あれはマジで殺る気だったと思うぞ」

 俺は壁に刺さった包丁を抜くと、どれだけ思い切り投げたのかと思わせるくらいの刺さり具合。なかなか引き抜く事が出来なかった。俺はあえて言うのは控える事にした。

「ほらほらお二人さん。早く座ってください」

「早く座らないと二人の分も食べちゃうぞ」

 早く座れと俺達を呼ぶ二つの可愛らしい声は、自然と俺達二人を笑顔に変えてくれる。

「分かったからちょっと待っとれ。こっちは腰が抜けたんだ」

 颯はゆっくりとこちらに移動中。

「頂きます」

 先に座った俺は両手を合わせてご挨拶。

「「頂きます」」

 それに釣られて乙女二人も頂く。

「お前等冷たいぞ!」

 まだ座れていない颯は俺達に何かを訴え掛ける。

「「「シチューは温かいよ」」」

 綺麗な三コーラスは見事にハモル事が出来た。

「なんだこの疎外感!?」

 ようやく椅子に座る事が出来た颯も一緒に頂く事が出来た。


「ところで椿さん、お話とは何だったのですか?」

 昴が思い出したかのようにシチューを掬うスプーンを持ったまま俺に尋ねる。

「手術出来る医者を紹介してもらった」

 これが一番良いタイミングだと俺は判断した。

 サラリとすんなり言い放った俺は何食わぬ顔で食を進める。

「ふ~ん」

「そうでしたか」

 手を止めていた時雨も俺の回答を待っていた昴も食べるのを再開した。すると、

「「ええぇ!!? ケホッケホッ…」」

 どうやら驚いた拍子に違う器官に入ったらしい。二人同時に噎せ返った。

 あまりに俺が軽く言ったからか、たいした事では無いと言う思い込みがあった様だ。

「大丈夫か?」

 一応二人を心配するが、内心はしてやったりの悪戯心で一杯だ。

「椿!? どういう事!?」

「兄さんも知っていたんですか!?」

 凄い剣幕の二人は俺達を睨み殺すかの勢いだ。

「俺が知らない訳無いだろ」

 颯は然も当然の様に言う。

 一緒に居たから知ってて当たり前だ。

「時雨、あとは時雨の心の準備が出来次第だ」

「う、うん。分かった」

 後残っていたのは時雨の決心。事が早く進み時雨は内心焦っていた。

「で、お前らは何やってたんだ?」

 空気を換えたかったので俺は昴と時雨が二人で何をしていたかの話題に変えた。

「えと、強く突かれると気持ち良いあれ。椿今度やってね」

「「ゲホッゲホッ」」

 時雨の発言に今度は俺と颯が噎せ返った。

「昴お前時雨に何をしたんだ!?」

 俺は身を乗り出して昴を問い詰めた。それだけ俺も驚いているって事だ。

「ど、どうしたの椿?」

 俺の焦り様に時雨は戸惑っている。

「椿さんも兄さんも何やらいやらしい事想像しましたね」

 昴の冷やかな視線は俺達をグサッと矢で射抜く様に貫いた。

「ちなみに私がしたのは足つぼです」

 軽蔑の眼差しが痛いです。

「時雨ちゃんの言い方は絶対間違うって」

「こっちは思春期真っ盛りの高校生だぞ」

 俺達は反論を試みる。

「その発言は思春期真っ盛りの女の子に向けて良い物でもありませんよ」

 ある意味ひと夏の経験と言うのも今は多き時代。一歩間違えば大変な事。思春期真っ盛りの男二人と女二人が居るこの空間は違う意味で危ない空間。

「この話はやめよう。颯が発情しちまったら収拾がつかなくなる」

「そうですね。椿さんは大丈夫だとしても、兄さんは要注意人物ですから」

 俺と昴はこれでこの話に区切りをつけた。

「お前らの中の俺はいったい何なんだ」

「「獣が野獣」」

 質問してきた颯に声を揃えてそう答えた俺達。聞いた瞬間落ち込んでいた。

「まぁ確りと乙女のお話もしましたけど、お二人には内緒です」

 昴は何やら嬉しそうに微笑む。初めて時雨と二人きりになれた事もあって色々話が弾んだのかもしれない。

「そうか。楽しそうで良かったな」

 俺は隣に居る時雨の頭を撫でてやった。擽ったそうにしている時雨も「えへへ」と嬉しそうだった。

「強いて言うなら幼馴染としての意見を教えて差し上げたくらいですね」

「余計なことは言ってないだろうな」

 俺は昴に威圧バリバリに問い掛けるも、

「はて?」

 昴は知らぬ存ぜぬみたいな表情をして誤魔化しにかかった。

 長年の付き合いだと思い当たる節が多すぎて特定が困難なんだよ。

「まぁいい。それは後で直接本人に確認する」

 二人が帰った後に時雨に直に聞いてやるからな。

「そういや明日の待ち合わせはバス停で良いか?」

 俺は海水浴の待ち合わせの場所を決めていなかった。颯と昴はそれで構わないとの事。

 出だしは不調にも関わらずも夕食を食べ終えた俺達は二人を見送る。


 その夜。俺は時雨といつもの様に二人きりでソファーに腰掛ける。俺に寄り掛かる時雨は気持ち良さそうに寝息を立てる。

「あれ?」

 俺も知らない内に睡魔に襲われ眠っていたらしい。時計を見るともう夜中だ。

「時雨起きろ。もう夜中だ。早く風呂入って布団で寝るぞ」

 俺は時雨を優しく揺さ振り起こす。

「んう?」

 寝ぼけた頭では何も考えれない様だ。

「おトイレ」

 むくっと立ち上がると覚束無い足取りでお手洗いに向かう。しかも「おトイレ」って、年齢退化していないか?

「そのまま風呂行って来いな」

 後姿を見送り俺はそう叫ぶと、「ふわぁ~い」と欠伸交じりの返事が帰って来た。

 どうやらトイレに行ってそのまま風呂へ向かってくれたみたいだ。

 俺はその間にサボっていた先ほどの晩飯の後片付けと明日の弁当の下拵えを始めた。

「つばきー、入ったよ~」

 女の子は長風呂なのか。小一時間は入っていた時雨は目が覚めたのか風呂場の辺りからハッキリと大きな声で俺を呼ぶ。

「おう。あとは先寝てろ。上がったら俺も寝るから」

 時雨は「分かった~」と言いながら階段を上がって行った。

 粗方の下準備を終えた俺はそそくさと風呂へと入る。だって眠いもん。

「ヤッベ、炊飯タイマーしておかないと明日朝から怒られたくないしな」

 明日の朝は早い。何故って? それは四人分の弁当を作らないといけないからだよ。

 タイマーをセットすると床へ付くために時雨が待構えているであろう部屋へと赴く。

 暗い部屋を進み俺の布団へと近づくと、

「うにゃ~!!」

 時雨の悲鳴が響き渡る暗い深夜の俺の部屋。

 俺は自分の布団の上にて時雨を踏んづけてしまった。

「す、すまん。大丈夫か?」

 電気を点けた俺は恐る恐る時雨に問い掛ける。

「つ、潰れるかと思った」

 うつ伏せで踏まれた時雨はピクピクと瀕死の虫の様だった。

「何でまた俺の所で寝てるんだ?」

「うにゃ! うにゃ!」

 もののついでに足で時雨を転がして隣の布団に追いやった。

 時雨の温もりが残る布団へ横になると、懲りずに潜り込んで来る。

「にゃは」

 時雨は俺ごと抱き枕にして一人キャッキャと喜んでいる。

「明日が嬉しい事は分かったから、寝ないと起きれんぞ」

「はーい」

 時雨はそのまま動こうとしない。

「分かった。ここに居てもいいが、抱きつくな。眠れん」

 時雨は言う通りに少し離れたが手を握ってきた。まぁこれ位は大目に見よう。

 俺も時雨の手を握り返すと、嬉しいのか小さく鼻歌が聞こえてきた。

「ねぇ椿、私の目が見える様になったら、今度は四人で旅行に行きたいな。あ、その前に二人っきりでね」

 時雨も颯から大まかな内容は聞いていた。だからかは分からないが、目が見える様になってからの俺達との楽しい思い出を自分の目で見て残したいのだろう。

「快気祝いに何処でも連れて行ってやるよ。その代わり温泉旅行な」

 連れて行ってもいいがその代わり温泉旅行しか受け付けん。だって温泉巡りしたいもん。

「椿のお勧めなら何処でもいいよ」

 素直に文句言う事無く交渉成立してしまった。

「その代わり約束してね」

「楽しい思い出作りだ。約束してやろう」

 俺は時雨とそう約束して夜は過ぎていった。


 朝一のバス停付近のベンチ。颯と昴が俺達を待っていた。

 軽い挨拶を済ませ四人でバスを待つ。

「颯のその鞄は何だ? たいして持っていくモンは無いだろ」

 俺は颯の意味深の鞄を指摘した。

「これか? 盗撮用のカメラだ。これで浜辺の女のこぶほっ!」

「私たちを巻き込まないで下さい」

 悶え苦しむ颯。昴の肘が見事に鳩尾を捕らえた。

「椿さんも大きい荷物ですね」

 昴が俺の鞄に目をやる。それなりに大荷物に見えるのだろう。

「時雨の浮輪にカメラに弁当やらと色々入ってるからな。ちなみに俺のカメラはれっきとした思い出写真の為だからな。こいつと一緒の扱いはするなよ」

 一応予め言っておかないと何を言われるか分かったモンじゃない。

「兄さんよりはマシと信じていますからご安心を」

「ちゃんと可愛く写してよね。椿は前科があるから」

 前科とは失礼な。俺から見たらちゃんと可愛く撮れてるぞ。

「心配するな。俺を信じろ」

 俺は自信満々に二人にそう言った。

「違う意味で不安がいっぱい」

 時雨の顔は不安の表情で満ち溢れている。

「そんな事を言うのはこの口か? この口だろ?」

「いはい! いはい!」

 俺は時雨の両頬をこれでもかと引っ張った。痛いのか両手をパタパタと振っていた。

 程なくバスが到着し、俺達は目的地へと向かうべく乗車する。

 車で向かえば海までは近い距離。大して時間も掛からなかった。

「まだ九時前だってのに結構な人だな」

 颯は辺りを見回すと呆れるほどの人ごみに圧倒される。

「言いながらカメラを構えるな。昴の眼がハンティングモードだぞ」

 颯がカメラを構えた瞬間俺は背筋が凍る様にゾッとした。振り向くと鋭く光る昴の眼は正しく獲物を狙うハンター。だがそんなことはお構いなしに颯は辺りを物色する。

「ミニスカの女の子発けぐはぁ!?」

 あぁーあ。言わんこっちゃない。

 前方に勢い良く飛んでいく颯を呆れながら見守る俺。再び振り返ると、「ふぅー」と息を整え突きの構えを解く昴がそこに居た。

「椿さん、私たち早速着替えてきますね」

 ニコニコと手を振りながら時雨の手を引きそそくさと脱衣所へ向う二人。

「え? 俺が颯を持って行くのか」

 俺は一人自問自答をしていた。

 のびている颯を見つけ、面倒臭いので片足を持ち引き摺る。

「…なぁ」

「何だ?」

「昴のやつ酷くないか?」

「自業自得だろ」

 ようやく目を覚ますが、引き摺られながらブツブツと文句を言っている。俺もお構い無しに歩を止めずに進んだ。

「ほら、着いたぞ」

「サンキュー」

 俺達も脱衣所に到着。掴んでいた足を離すと颯は立ち上がり、俺達は着替えた。

 二人と合流すると一人は海を楽しむ水着なのに、もう一人はこの上なく違和感があった。

「なんだ昴、いい年こいてスクール水着で泳ぐのか?」

「俺の妹なんだからもう少し可愛い水着があるだろ」

 時雨と一緒に待っている昴の水着は学校用の水着。つまりはスクール水着だ。マニアにはウケルだろうが違う意味で目立つ。

「知ってます? 陸でも海でも動き易いんですよ」

 不敵な笑みを見せる昴は俺達には恐怖でしかない。むしろ俺達が何か仕出かしたらこいつはターミネーターの如く抹殺しに来るだろう。

「と、とりあえず場所は確保したから荷物置いて遊ぶべ」

 昴のせいでぎこちない言葉になったが、俺は時雨と手を繋いで先陣を切り、浮輪を膨らまし準備を整える。

「椿~、浮輪うきわ」

 海に腰まで浸かった時雨は両手を挙げて浮輪を催促している。

「いくぞ~…よっ」

 俺は輪投げのように時雨目掛けて浮輪を投げた。

「にゃっ!?」

 結果は時雨の顔面に直撃。バシャンと水飛沫を上げてひっくり返る。

「時雨~、生きてるか~」

 当ててしまった事に少しの罪悪感があったので一応安否確認を試みた。

「だ、大丈夫ですか時雨さん」

 隣に居た昴が引き起こしてくれたが、貞子の如くゆっくりとこちらに近づいて来る。

「つーばーきー!」

 野生の勘と言うのは何とも恐ろしい。間合いに入ったと解った瞬間、時雨は瞬速に俺目掛けて襲い掛かって来た。

 逃げる暇さえも与えてくれないそのスピードに呆気にとられ、瞬時に懐に入り込むと同時に身を返しながら腕をとった。

「うわぁああ!」

 見事な一本背負いで投げ飛ばされた俺はプカプカと海に身を任せ浮かんでいる。

「椿さん、先ほどから兄さんの姿が見当たらないのですが」

 辺りを見渡す昴は俺に駆け寄り兄の行方を尋ねた。

「水着のお姉さんとか言ってカメラ持って消えて行ったぞ」

 俺は颯の言い残した言葉をそのまま昴に伝えた。奴は「水着のお姉さん激写してくる」と言い残して消えたのは事実。

「すみませんが兄さんの存在を消してきます。お二人でごゆっくり過ごしていて下さい」

 俺の言葉を聞いた途端昴の眼が変わった。スタスタと颯を探しに昴の姿は遠くなっていった。颯…生きろよ。俺は胸の中でホンの僅かだがそう願う。

「じゃぁ俺らは遊んでるか。しばらくすれば戻ってくるだろ」

「じゃぁ椿、浮輪引っ張って」

 時雨は俺に指示を出す。紐を持ち、時雨を見ながら後ろ向きに進む俺は彼女の笑顔を堪能する。

「すみません。お待たせしました」

 十分ほどで謝りながら戻って来た昴の後ろに目をやると、首輪に繋がれた駄犬颯の姿が見受けられた。なんか既にボロボロだ。

「こいつ女のクセに格闘術ハンパねぇって」

 颯が俺に小さい声で教えてくれた。見つけた途端一発目が跳び蹴り、先回りして蹴り上げ、上空へ上がった所で回転かかと落しの三コンボ。よく生きて帰って来たな。

 昴は時雨の浮輪を引っ張りながら楽しそうに話している。

「昴の格闘技は知ってるって、昔俺が組み手の相手してたんだからな。多分お前は知らないだろうが寧ろ俺が教えた。護身術くらいは必要かと思って」

 俺は昴の格闘技の真相を颯に教えた。

「犯人はお前だったのか。俺の妹を格闘バカにしたのは―のわっ!?」

 何処からともなく水鉄砲が颯を打ち抜いた。

「バカとは何ですか。椿さんには感謝しているんですからこれ以上余計な事を言うと貫通させますよ」

 昴は再び照準を颯に合わせる。

「女の子はそれとなく強くないとな椿」

 颯は俺にそう訴える。身の危険を感じるのが遅すぎだ。

「分かればいいのです」

 昴は再び時雨と遊び始め、俺達とは少し離れてしまった。言うなら今か。

「お前に心配されたくなかったんだよ」

「何のことだ?」

 首輪を外しながら俺の言っている事に疑問を抱く。

「いや、昴が虐められていた時があってな。その時はたまたま通りかかった俺が助けたんだけど、自分の身は自分で守れって言って護身術を教えたんだ。ハマったのか格闘技もついでに教えたんだよ。お前に内緒で。結果的に返り討ちにしてこの件は解決した」

 俺は颯に昴の過去を話した。颯や俺に心配されたくなかったのだろう。昴は俺に絶対言うなと何度も釘を刺す位だった。だから俺は昴を強くした。結果、今の昴がいる。

「虐めが解決したのは分かった。だが俺が解決してねぇよ」

「んなもんお前の自業自得だろって。俺には関係ない」

 俺は全面無関係を主張。だって昴の為にやった事だ。お前がどうなろうと知ったこっちゃ無い。やった事に対しての罰を受けるのが受刑者だ。颯はそれに値する。

「昴は師を間違えた。絶対そうだ。そうとしか考えられん」

 颯は自分にそう言い聞かせている。師を間違えたなんて失礼な奴だ。俺はちゃんと一から徹底的に教えてやったんだが。そうか颯には伝わらなかったか。

「だとしても昴は自分から変わりたいと思ったから俺の言ったことを聞いたんじゃないか? 断る事も出来たんだし」

 俺は颯に今ふと思った事を言ってみる。それは今の時雨にも当てはまる事だった。

「そうだな。悪かったな椿、ありがとう」

 颯は考えが纏まった様で、俺に感謝の意を込める。

「それよりお前も変わったらどうだ? 女好きは直さないと昴が可哀想だ」

 颯は自他共に認める女好き。付き合って何股とかという悪い事はしていない。ただ単に女好きというだけ。

「お前俺からそれを奪ったら何が残るよ?」

「変態」

 俺は即答した。それしか出てこないから即答せざるを得なかった。

「俺の親友だよな」

 颯の言葉に俺は目を背け何も言わなかった。

「せめて、せめて俺の親友で居てくれ」

 今度は俺に泣きついた。お互い冗談のつもりで言っているのだが、周りから見れば何事かと言わんばかりの迫真の演技。これはこれで恥ずかしい。

「二人は何してるんですか?」

 俺の後ろから昴の声が聞こえた。

「よう。お帰り」

 俺は振り返り二人を出迎える。バシャバシャとバタ足で時雨が俺の所まで泳いで来た。

「昴の体力は計り知れないよ」

 時雨の話を聞くと、昴は全力で泳いでくれたらしく、今までその状態を維持していた。

「時雨、何も言うな。絶対何も言うなよ」

 俺は時雨に聞こえる様に小さく言う。

「え、わ、わかった」

 俺の異様な言い方が伝わった様で時雨は驚きながらも承諾せざるを得なかった。

 俺は色々と昴の体力向上の云々を教えた張本人。時雨には余計な事は言わない様にと念入りに説明する必要がありそうだ。後で…。

「で、お二人は何をしていたのですか」

 いつの間にか俺の真横に昴が居る。気配くらい出して近づいてくれ。

「なぁ昴、椿は俺の親友だよな」

 嘘の半泣きで颯は昴にもそう確認を取るが、

「椿さん兄さんの親友だったんですか? それなら早急に関わらない事を進めます」

「ヤッパリそうだよな」

 俺と昴の意見はばっちり合う。

「お前等その冗談さすがの俺も傷つくぞ」

 颯は笑いながらも俺達にそう言ってのける。

「お前から仕掛けたんだ。俺らに非は無い」

 そう。俺はお前に付き合ってやった事、文句を言われる様な事はしていない。

「のど渇いたな。休憩しないか」

 俺は一旦休憩を皆に促す。颯との芝居は強制終了だ。

「そうですね。私も何か飲みたいです」

「椿いつもの買ってきて」

「うわ、強行手段に出やがった」

 感が良いな。颯も俺が無理矢理終わらせた事に気が付きやがった。

 そんな颯を連れて俺達は飲み物を買いに海の家まで足を運ぶ。時雨と昴は荷物の所で待っているそうだ。

「なぁ、あれ見てみろよ」

 海の家で飲み物を買い終え、颯は俺に顎でその方向を教えてくれた。

「またか」

 時雨ナンパ事件再び。と言わんばかりにデジャヴに見える。唯一違うのは昴も誘われている光景くらいだ。

「どうなるかは予想つくな」

 颯はニヤニヤ笑いながら観察している。

「お、昴の腕を掴んだな」

 二人組みの男の一人は昴の腕を掴み無理やり連れて行こうと強行手段に移ろうとしていた。

「「止めときゃいいのにな」」

 俺と颯は同じ事を思い同じことを口走った。

 予感は的中。昴は男を殴り飛ばした。一方の時雨は何が起きているのか分かっていないらしくアタフタとしている。

 二人組みの男は謝りながら一目散に逃げて行った。

「まぁ声かけられるのは分からなくは無いが複雑な気分だな」

 俺は小さくそう呟くと、颯は「ほうほう」と俺に見えない様に一人何やら考えていた。

「見事にブッ飛ばしたな」

「これで二回目だな時雨」

 颯は昴に、俺は時雨に飲み物を渡して敷物に腰を下ろす。

「見てたんですか? 見てたんですね」

 昴は「男なら助けなさいよ」と言う目で俺達を見る。その必要は無いのは知っているから俺達は手を出さない。

「今回は昴が助けてくれた。と言うより、何言う前に悲鳴が聞こえたよ」

 昴は殆ど有無を言わさず殴り飛ばしたことが判明。

「軟弱な男は興味が無いですね」

「兄として言わせて貰うが、もう少し―すみません」

 言葉が続く前に昴は颯を睨み倒す。

「それにしても昴も時雨ももてるんだな。改めて実感したぞ」

 お世辞じゃなく二人は可愛い部類に見事に入る。

「だけど私は椿の側から離れないよ」

 時雨はニマニマしながら俺にくっ付いてくる。

「私は―」

 昴はどうしようかと兄の颯を見るも、

「私も出来れば椿さんと」

 抱擁体勢で構えていた颯はズッコケた。

「寂しいだろ~」

 颯は昴に泣きつく。ダメな兄を持つと大変だな。

「早いが飯でも食うか」

 俺は言いながら身体を反転させ、鞄から弁当を取り出す。ついでにこっそりカメラも。

「今日は豪華に来たな」

「何か良い事でもありました?」

 弁当を中心に四人で囲む様に座る。中身を見た颯と昴は早く食べたそうだ。

「初めて四人での遊びで海水浴だ。時雨の為に決まってんだろ」

 おにぎり、サンドイッチ、ある程度温度を気にせずに置けるおかず、別の入れ物には保冷財と一緒に入っている違うおかず、色々と作って来たのだよ。

 四人は「いただきます」と号令し早速頂く。

「さすが椿さん。当然ながら美味しいです」

 昴は俺の料理がお気に入りらしく、昔から弁当を横取りされる事も多々ある。

「今度俺にも教えろよ」

「遊びに来たとき教えてやるよ」

 颯は料理はからっきしダメ。と言うよりはやろうとしない。

「ほら時雨、から揚げだ」

 俺は当然ながらいつもの様に食べさせたりしている。

「う~ん、美味しい」

 時雨は幸せそうな顔をしている。ほわほわしていて何だか面白い。

「何だ昴、欲しいか?」

 俺は最後の焼きウインナーを食べ様としていると昴の視線に気が付いた。

「え? いえ、そんなんでは―あむ」

 俺は弁解を試みる昴の口にウインナーを運んで食べさせた。

「あ、ありがとうございます」

 昴は下を向きながら俺に小さくお礼を言った。

「どうした昴、顔が赤いぶッ」

 昴の異変に気付いた颯に右ストレートが顔面を貫く。

「う、うるさいです」

 それでも昴は顔を赤くしたままだった。

「ねぇ椿、さっきからたまにカシャカシャなってるけどもしかして撮ってる?」

 時雨はたまに聞こえるシャッター音にやっと気が付いた。

「え!?」

 どうしたものか。昴は全く気付いていなかった様でこちらも今更驚く。

「俺と颯二人で写してるぞ。シャッターチャンスは何時何処であるか分からないからな」

 俺は勿論の事、颯もカメラは持参している。昴には見えない様に後ろに隠しておいたからな。

「時雨のほわほわ顔も昴の照れた表情も確りと残ってるから安心しろ」

 俺は二人に撮影状況を一応報告しておいた。

「昴のあの顔はなかなか見れないから結構なレア物だな」

 颯も自分の妹の成長に涙している。それはそれで面白いからこれも撮っておこう。

「まぁ、時雨さんも居る事ですし今日は大目にみましょう」

 初めての四人での写真でもある今日この日は決して忘れる事のない思い出。俺達はこの日を楽しく振り返るのだろう。

 早い昼食を食べ終わり、再び泳ぎに向かう俺達。そして何故か時雨を肩車している俺。

「落ちろ!」

「うわぁ!?」

 目的は時雨を盛大に落とす事だった。何の意味も無いただの戯れだ。

「いきなり何すんの!?」

 当然時雨はお怒りになる。それを俺達は笑いながら宥める。

「楽しかっただろ?」

「椿絶対ワザとだよね。そうだよね。そうとしか考えられない」

 さすがここまで来るといい勘が働く。そうです。ワザとなのです。

「ほら、引っ張ってやるから機嫌直せ」

「わ~ぃ」

 俺は時雨の両手を掴み泳がせると、時雨は楽しそうにバタ足を繰り返し前進する。

「あそこまで仲が良いと羨ましいですね」

「付き合いは俺達の方が長いんだけど、あれはあれで妬けるな」

 二人は俺達の行動を終始観察していた。

「ちょっと颯、手を貸してくれ」

「おう。今行く」

 浅瀬で俺は颯を呼ぶと時雨の後ろに立たせた。俺が何をしたいのか直に察したらしく、

「え? ちょっ!?」

「「せーのっ!」」

 俺は両手、颯は両足を持ち、振り子の原理を使い時雨を海へと投げ飛ばした。

「し、時雨さん? 生きてます?」

 昴の近くに投げ飛ばされた時雨。昴はプカプカ浮いている時雨に恐る恐る生死の確認をしている。

「お~ま~え~ら~」

 バシャンと水飛沫を上げ起き上がった時雨は完全にヤバい事になった。

「行け昴! 奴等を排除しろ!」

 サッと俺達の方に人差し指を指し指揮官時雨は昴に命令を下す。

「ラ、ラジャー」

 ビシッと敬礼をして俺達を抹殺しにターミネーター昴が起動してしまった。

「やっべぇ」

「に、逃げるぞ」

 俺達は事の重大さと過ちを理解した。その結果が、

「「すみません」」

 これだ。俺達の逃亡は失敗に終わった。

 こいつホントに人間か? と疑いたくなる様な動きを見せる昴。

 浜辺で正座をして待つ俺達。任務を果たした昴は時雨に報告をして、

「君たち二人は私の執事になりなさい」

 などと言う罰を与えられてしまった。

「「承知仕りました」」

 深々と頭を下げて忠義を尽くす。

 要はお嬢様扱いをしろと言う事。これはこれで良い写真のネタになりそうだ。

「それでは時雨様、お飲み物をお持ちいたします」

 颯はそそくさと時雨の飲み物を買いに行った。

 そんじゃぁ俺は…。

 俺は何をしようかと僅かな時間で思い付く。

「それでは時雨様、暑いので日陰にて扇いで差し上げましょうか」

 俺はパラソルの日陰に隠れる長椅子を見つけた。

「それではお手をお借りします」

 俺はいつもと違い優しく時雨の右手を持ち上げ、その場所へと連れて行った。

 到着と同時に颯が戻って来た。タイミングは問題無い。

 パラソルの下、飲み物片手に扇ぎ送られる心地よい風に靡く時雨の髪。正にお嬢様。

 俺は予め昴にカメラを渡していた。俺はシャッターチャンスを伺い、合図を出した。

「時雨さんのお嬢様がここに残りました」

「え!? 昴!? ちょっと椿!?」

 昴の言葉に時雨が俺を呼ぶ。

「いや、ただ単に面白そうだからな。昴にカメラ持たせた」

「裏切り者~」

「そんなんでは無いのです時雨さん! お願いです! 信じてください!」

 時雨の悲痛な叫びに昴は必死に時雨に弁解している。これも良い光景だ。

「こいつらも仲が良いな」

「だな。まるで姉妹だ」

 俺と颯はこのやり取りを姉妹の様に見ていた。それだけ仲が良いと言う事だろう。

 時間が経つのは早いもの。泳いでは休み泳いでは休みの繰り返しでもう既に夕方前。

「そろそろ帰るか」

 俺は皆に帰宅の準備を促した。時雨と昴は疲れているのかさっきより元気が少ない。

「颯、俺から電話してやるから今日は家に泊まっていけ」

 このまま家に帰すのも可哀想だと思った俺は颯にそう提案した。

「大丈夫だ。そんな事もあろうかと既に許可は貰ってある」

 颯は俺に向かって親指を立てた拳を勢いよく突き出す。

 手回しが早い。既に親の許可は取ってあるようだ。だったらその前に俺の許可を取れ。

「だそうだ時雨。今日二人家に泊まっていくから」

「は~ぃ」

 時雨も昴も既に寝かけている。これは早く着替えさせないと俺らの身の危険が。

 気合で着替えさせに行かせ、早く戻った俺達は直に帰れるように片づけを終わらせる。

「良かったな、バスの待ち時間短くて」

 バス停に行くと数分程度でバスに乗る事が出来た。逆に言うとこれを逃すと三十分は待たないといけなくなる。

 バスに揺られまもなく、時雨と昴から寝息が聞こえ始めた。

「最近ホントに仲いいよな」

 颯同様何回かしか会っていないのにも関わらず一緒に寝ている。女同士だからか?

 降りるバス停へ到着したが案の定二人は起きない。しょうがないので颯は昴を俺は時雨を背負う事となった。

 無事に家に着いた俺達はそのまま二人を俺の部屋に寝かせる事にした。

「さて、晩飯の準備でもするか」

 時雨と昴を部屋に置いて、キッチンへと立った俺は何を作るか冷蔵庫を確認。

「何か手伝うか?」

 後から入って来た颯が料理も出来ないくせに手伝うと言う。そして俺は思い出した。

「そういや颯、お前お菓子作り得意だったよな」

 突然の俺の発言に「え? あ、ああぁ」と戸惑った返事をする颯。

「あいつ等に審査員になって貰うか?」

「お、良いなそれ。面白そうだな。相手になるぞ」

 俺の話しに乗ってくれた颯はいきなりやる気満々だ。

「じゃぁ晩飯は出前にして早速始めるぞ」

 こうして俺達は寝ている二人を驚かす為にお菓子作りを開始した。

 開始から数時間が経過して俺達は取り合えず二品ずつ作り終えた。

「まぁこんなもんだろ」

「さて、なかなかの出来だな」

 お互い思い思い満足できる品が揃った様だ。

 颯が作ったのはシンプルにクッキーと三層の生チョコ。俺が作ったのはオレンジ風味の煮込みクレープと蒸しプリン。

「そろそろピザも来る頃か」

 俺は待ち時間でピザを注文していた。時間的に良い頃合だと思う。そう考えている時に良いタイミングで玄関の呼び鈴が鳴り、財布を持って受け取りに行く。

「明太ピザと恒例の海鮮ピザだ。二人起こしてくるからこれ頼むわ」

 俺は二枚のピザを颯に託し、二人を起こしに俺の部屋へと足を運ぶ。

「晩飯だぞ、起きろ起きろ」

 俺は二人の布団をヒッペ返す。まぁ何とも可愛らしい寝顔だこと。

「ごはん?」

 時雨が寝ぼけ眼を擦りながら身体を起こす。

「すばる~、ごはんだって~」

 そのまま空いている片手で昴を揺すり起こす。多分俺の言葉をそのまま昴に言っているだけで自分ではまだ理解していないだろう。

「おはよう椿。どうしたの?」

 ほらね。俺が飯だと言った事すら頭に入っていない。

「ふわぁ~~。おはようございます」

 時雨に揺さ振られ昴も起床。疲れているのか二人の欠伸は止まらない。

 寝ぼけた二人を下へ連れて行くと、甘い香りが時雨と昴の目を覚ましてくれる。

「うわぁ良い香りがするよ」

「クッキーと何やらオレンジの香りがします」

 流石にそこは女の子。甘い香りに誘われる様に足取りも軽い。

「ピザ出前で取ったからそれを晩飯として食べてからだぞ」

 二人は揃って「はーい」と返事を返す。さっきまで寝ぼけてたとは思えない明るい声だ。

「椿、準備出来てっぞ」

「お、サンキュー」

 俺の姿を確認した颯は先に座って待っていた。取り皿に飲み物まで準備が整っている。

 俺は時雨と昴を座らせると早速晩飯にありつけた。

 食後の女子二人のメインディッシュはデザートにあると言っても過言ではないだろう。

「どうせ食べるなら風呂に入って落ち着いてから食べないか?」

 ピザを食べ終え、俺は二人にそう言って聞かせる。

 どうせ食べるならサッパリしてゆっくり食べたいじゃんね。

「うん。じゃぁ入ってくる。行くよ昴」

「え!? あ、はい!」

 時雨は昴の手を引っ張り自分の前に立たせると、後ろから昴の両肩を掴んで連結させる。昴に誘導させる為だった。

 長い風呂に待たされ、颯、俺の順で風呂へ入り終えると、

「椿、早く食べたいよ」

「そうですよ。早くして下さらないと時雨さんが夜這いしますよ」

「そうそう…ってワタシ!?」

 などとアホな事を言って急かし始めるので、俺と颯はキッチンへと準備しに行く。

「デザートは全部で五品。最後に出すのは俺と颯の合作だ」

「前に出す四品を食べて評価を頂きたい。勿論どれを誰が作ったかは言わない」

 準備を整えて紅茶と共にテーブルに並べる。

「「いただきます」」

 時雨と昴は待ってましたと言わんばかりにテンションが高い。

 最初に口にしたのは颯のクッキー。

「お店で食べるより美味しいですね。バニラとココアとレモン風味に紅茶の四種類」

「どれも風味とのバランスが合ってるよね。あ、バニラが食べやすい」

 出だしは好調の様で、味わいながら感想を述べる。続いては煮込みクレープ。

「さっきのオレンジの香りはこれだったんですね。オレンジジュースとオレンジの皮で折り畳んだクレープを煮込むんですね。初めて食べましたけど温かいのも良いですね」

「甘さもちょうど良くて初めての食感」

 初めて作ったんだがなかなかの好評だ。次はチョコか。

「ビターチョコの苦味をホワイトチョコが緩和してくれて、ピンクのチョコは優しくイチゴの風味を出してくれますね」

「色が見れないのは残念だけど、チョコのバランスが丁度良くて甘過ぎず苦過ぎずそしてイチゴも残って飽きないね」

 流石颯だ。パティシエにでもなれば良いものを。俺と同じで遊びで作るのが面白いんだろうな。ラストは俺のプリン。

「スーパーの卵でここまでの物を出せるんですね」

「とろける舌触りと喉を通る感じがまろやかでこれは良い」

 四品とも二人には高評価だった様だ。順位を聞いても決められないと返される。

「ところで誰がどれを作ったのですか? まぁ予想は付きますけど」

 昴はそう言うと二つの皿を手前に引いた。

「クレープとプリン」

 そして時雨は食べた物を言った。

「私が引いたこれが兄さんが作ったもの」

「私が言ったのが椿が作ったもの」

 お互いに迷いは無かった。それは見事に正解していた。

「勝負は引き分けだとよ椿。残念」

 颯は俺の肩を叩き笑っている。俺も颯の肩を叩き返し健闘を称えた。

「まぁしょうがないだろ。それにしても誰が何を作ったかよく分かったな」

 作り手なんて分からんだろ普通。どんな味覚してんだ?

「「それは…ねぇ~」」

 時雨と昴は互いに納得し合うが俺達には分からない。

「分からなくて良いんだよ」

 時雨はベーっと可愛く舌を出す。

「二人の味を見極められないなんて失態は妹として親友として有ってはならない事ですので。まぁ時雨さんは別の理由があるのでしょうけど」

 昴は然も当然かの様に俺達に言い放つ。いや、それでも味覚は別問題だろ絶対。

「余計な事は言わないの」

「ふいまふぇん」

 時雨は昴の両頬を引っ張っている。何やってんだか。

「ほら、二人の合作のカップケーキだ」

「生地は椿、中身の細工は俺が施した」

 俺は二種類のカップケーキを二人に渡した。

「カスタードが中から出てきました」

 昴は少しずつ千切りながら食べると、カスタードクリームが流れ出した。

「私のはレモンクリームだ」

 時雨の開けた大きい口がケーキを捉える。もう一つはレモンクリームだ。

「考えたのは椿だぜ。なかなか美味いもんだろ」

「結構面白かったな」

 俺達は楽しいから作っただけ。そして二人の笑顔が見れた。他に何も要らんだろ。

「「女として複雑」」

 二人の黒い意見は綺麗にハモリを見せる。確かに男二人がこんなにお菓子を器用に作れたら女の子は複雑なんだろうな。気にした事もなかった。かと言って止める気は無い。

「ただ、兄さんがお菓子を作れるのは知らなかったです。この味で分かりましたけど今までの出て来たおやつは兄さんの手作りだったんですね」

「気付くのが遅かったな妹よ」

 たまに家で出てくるおやつがあるらしい。それは今颯が作った物と同じ様な味だったので分かったらしい。

「さて、俺達は後始末でもしてくるか」

「だな。そしたら落ち着こう。ゆっくりしたいしな」

 男二人は後片付けの為に再びキッチンへと消えた。

 程なくして戻った俺達も余ったお菓子を摘みながら四人で会話を楽しむ。

 そんな中、時雨が一人挙手をし声を上げる。

「はい! 私は明日椿と一緒に病院に行きます」

 と言う決意だった。時雨の心が本決まりした様だ。その決心を称え俺達は盛大に拍手で賛美を送った。

「じゃぁ明日、俺と一緒だから心配すんなよ」

「多分明日は診察と必要な道具の確認だけだろうから、そんなに気ぃ張っても疲れるぞ」

 明日は多分颯の言う通りだろう。診察して具合を診て、それから必要な道具器具を揃えてから入院手術になる。今から緊張してもかえって疲れてしまうだけ。気楽に行こう。

 俺達は夜遅くまで盛り上がりを見せた。俺達の小さい時の話を時雨が聞きたいと言い出したからだ。それはそれは止まらなかった。そこまでやらかしてた覚えは無いんだが。

 そして時計を見た俺は皆を部屋へと追いやった。空き部屋に俺と颯、俺の部屋に時雨と昴の組み合わせで本日は終わった。


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