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親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?  作者: サクラ近衛将監
第二章 富士野宮宏禎王
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2-4 学習院入学と日露戦争

 私は、数えで7歳の折りに学習院初等科に入学したのですが、花鳥宮邸が学習院初等科から遠隔地にあった事情で通学に不向きと判断され、紆余曲折(うよきょくせつ)はあったものの学習院敷地内にある寮に入ることになりました。

 初等科一年生の児童が寮に入寮するのは初めてのことであったらしく、色々と周囲で混乱を引き起こしたようなのですが、私専従の侍従である伊藤義之を同じ寮に同室させて問題の解決を図ったようです。


 三田にあった花鳥宮邸の便所は、父から特許出願の了承を得て直ぐに工事がなされ、3月には水洗トイレが使えるようになっていたのですが、学習院に入寮するとこちらは(あい)も変わらず汲み取り式だったので若干へこんだものでした。

 そこで、宮家の権威を最大限に利用して、学習院初等科の敷地の一画に小屋を造り、そこを私専用の工房とすることができたのは幸いでした。


 小屋を作ると同時に簡易浄化装置と水洗便器を設置したのは言うまでもありません。

 それもこれも、明治36年3月初めに海軍艦政本部から入金してもらった6千円を超える金額と海軍艦政本部からの口利きのお陰です。


 前々世である平成から令和にかけての物価から言えば、明治30年代半ばの6千円は優に二千万円を超える金額なのです。

 何故、海軍からそんな入金があったのかって?


 もちろん、私が作った携帯型無線電話装置一式を海軍がそっくり買い上げてくれたからですよ。

 残念ながら、海軍工廠電気部では、この無線装置やシステムを模倣して作ることは勿論、解析することすらもできなかったのですから、この無線装置の継続製造を正式に私に依頼して来たのですよ。


 その関係もあって、海軍艦政本部から学習院へ相応の口利きもあり、学習院では私に対して異例の扱いで特別の配慮がなされたのです。

 当然のことながら私が工房に入る時間は決められています。


 月曜から木曜の間、寮内での夕食後、午後7時から9時までの二時間に限られているのです。

 学童としてはこれが許容される限度いっぱいの()()()時間でした。


 そんな中で私は携帯型無線電話装置一式の製作等に(いそ)しんだのです。

 但し、母の常子から『必ず金曜日には自宅へ帰るよう』に厳命されていたので、携帯型無線電話関連装置製造のお仕事は月曜から木曜の間だけなのです。


 必要な資材については海軍艦政本部が入手して定期的に学習院の私の工房へ送り届けてくれています。

 三ヶ月の間に携帯型無線電話機100個、同小型電池100個、中継装置30台、交換装置2台を製造すればいいのですが、それに要する素材は、非常に安価なものです。


 鉄が10キロ(くず鉄なら錆を含めて12キロ、鉄鉱石ならば品種の善し悪しに関わらず30キロ)、赤土(関東ローム層の赤土で可能)100キロ、花崗岩(岩でも砂利でも可)概ね3トン、松ヤニを多く含む松材200キロ、海水1トンであり、海軍で無くとも集められそうな物ばかりなのです。

 因みに私が最初に作った際は、自力で集めた錆びたくず鉄、庭土、庭木、弁慶橋の袂に転がっていた石垣の残骸かと思われる石ぐらいでしょう。


 不足した物は私が錬金術で土を変成して産みだしました。

 海軍艦政本部も最初はわざわざ良質な物ばかりを選んで送り届けてくれたのですが、担当者に鉄鉱石は褐鉄鉱で十分だし、石材は河原に転がっている石でも結構、海水もわざわざ湾外のきれいな海水を汲む必要は無く、港内の海水等多少汚れていても大丈夫と伝えると、次の折にはそのようにしてきました。

 当初は、宮家への納品と言うことで結構手間暇をかけて資材調達をしていたようですが、そんなことに経費と労力をかける必要は無いのです。


  ◇◇◇◇


 明治37年2月朝鮮半島の利権を巡って水面下でしのぎを削っていた日露関係がついに破局を迎え、旅順港で戦端が開かれました。

 実際の戦闘は両国の危機感が強まっている中で宣戦布告もなしに始まっており、宣戦布告の詔勅(しょうちょく)は10日に宣する予定であったようです。


 明治37年8月10日にあった黄海海戦で日本軍は一応勝利したものの、父宏恭王が部下共々名誉の負傷をなした事件は新聞にも大々的に公表され、戦意向上に大いに役立ったのですが、正直なところ私自身は非常にぶるったものです。

 今の段階で後ろ盾でもある父を失うことはとても痛いのです。


 父よ、せめて私が成人するか一人前と周囲に認められるまでは壮健であってくれと祈るばかりでした。

 富士野宮宏恭王については、私の元居た世界の**宮王であるならば70台まで元気でいた筈とおぼろげに覚えていたからこそ、突然の父負傷の報に驚いたのですが、幸いにして部下の人達も命に別状はなかったようです。


 日露戦争は私が大まかに覚えている通りの経過を経て、翌年奉天会戦、日本海海戦の勝利でポーツマス講和会議に至りました。

 勿論私の納品した携帯型無線機は海軍において盛んに活用されたようです。


 横須賀などの鎮守府に相当数支給された他、主だった戦闘艦と哨戒艦には当然配備され、島嶼に特別に配備された分遣隊にも配備されたようです。

 このため史実で有名な海軍徴用船信濃丸の「テキカンミユ」は、三六式電信装置ではなく、宮古島の漁師が沖合で見た情報を宮古島分遣隊に配分された携帯電話により、宮古島、沖縄本島、奄美大島、鹿児島、熊本を経て佐世保鎮守府へと伝えられ、その翌日には信濃丸ら徴用船三隻から五島列島上五島(かみごとう)番岳(ばんだけ)山頂(標高439m)に設置された気球型中継装置(係留索長2000m)を経由して佐世保鎮守府へ口頭で詳細に伝えられ、その有用性が大いに確認されたのです。


 因みに海軍に働きかけて気球型中継装置を台湾及び石垣島を含む南西諸島、五島列島等の島嶼部に設置し、同設置箇所の在郷軍人会若しくは分遣隊に中継装置と携帯型無線装置の貸与を進言したのは父宏恭王でしたが、その元々の提言案は私が父宏恭王に成したものでした。

 気球型中継装置を実現するために、松やに樹脂から抽出した高分子繊維で気球(のう)を製造し、新潟県北蒲原郡(きたかんばらぐん)中条村でガス油田を開発、そこから得られた天然ガスからヘリウムガスを抽出し、危険な水素に変えてヘリウムによる気球を世界で初めて製造し、海軍に納品したのです。


 当然のごとくこれも軍機扱いとなり、回収装置を含むヘリウム利用の気球型中継装置一式当たり8000円で海軍に納品しました。

 因みに明治38年末までに納品した気球型中継装置は、総数で36基に及び、その代金として総額で28万8千円が帝国海軍経理部門から私の口座に振り込まれています。


 未成年の私なのですが、私のお得意様は海軍なのであり、経理部門の主計士官とも何とはなしに顔見知りになってしまいました。

 正直なところ、父宏恭王よりは主計将官や海軍艦政本部将官との顔つなぎができているのではないかと思うのです。


 気球に使用するヘリウムを採掘するための新潟県中条村でのガス田は、ガスの採掘が終われば産出量は少ないけれど油田として機能するはずであり、それに向けての準備も鋭意進めています。

 現地に新潟県の地元有力者を取り込んだ会社を設立、古来この周辺では臭水(くさみず)と呼ばれた原油を採掘し、その精製までを(にら)んだ施設整備を行っているところなのです。


 新潟県での原油産油量はごく少量ではあるものの、ここで得られる技術と知識は後々サハリン沖油田を開発した時の下支えになるはずと思っているのです。

 また一方でこのガス田掘削のための技術は、そのまま富士野宮家の敷地で温泉掘りに流用できました。


 父宏恭王に許しをもらって、明治39年に敷地の東南域で試掘を行い、600mまで掘り下げたところで湯温45度の温泉を見事に掘り当てたのです。

 無論、そこに温泉の溜まりがあると知って掘らせたのですから掘り当てないわけがないのですが、父宏恭王を始め家族の者や富士野宮邸で(かしづ)く者達皆が驚いていました。


 確かにここ掘れワンワンでもないでしょうけれど、私がここと定めたポイントから紛うことなき温泉が吹き出れば驚きしかないのでしょうね。

 いずれにせよ、噴出する豊富な湯量を放置する手はなく、すぐに湯殿を作ってかけ流しの温泉を作りました。


 これにより富士宮家では何時でも温泉に入ることができるようになりましたが、湯量がかなり豊富なために父宏恭王とも話し合って、弁慶橋のたもと付近に大きめの湯屋を作り、東京市民にも安価な料金設定で開放することにしました。

 ために赤坂から赤坂見附さらに四谷周辺の住民達には、この湯屋が『紀尾井温泉』として知られており、至って好評なのです。


 無論セキュリティのために敷地の境界には大きな塀を作って、一般人が富士宮家の敷地には入れないように分離していますし、湯排水がお堀や溜池に流れ込まないように皆には内緒で特別の地下排水路を設置しましたが、正直なところ誰も排水のことまでは気にはしていないようですね。


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