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クラインの壺  作者: 謝謝飯西
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判断基準に損得がない人は

 一回だけだ、一回しか手伝わないと心に決め給湯室で二人だけの会議を始めた。

「本当にすみません…。僕のミスなのに…」


 謝罪をスルーしパンフレットが大量に入った紙袋から一冊取り出す。


 会社の規模を考えるとこれは小さな案件だとは思う。

 だからと言って営業担当も責任者も蔑ろにしていいというわけでは断じてない。むしろ絶対に逃してはいけない案件だと畑違いな私ですら感じていた。


 正丸くんより少しだけ長く勤めている私は、この商店街に営業に行った人を何人も見てきた。

 営業部に配属されている人は部長を除き、全員アプローチを行った先である。


 しかしながら、もれなく全員惨敗と聞いている。口を揃えて、お金がないんだと断られると言っていた。


 営業だって人間だ。足繫く通って蔑ろにされ、結局案件に繋がらなかったら腹も立つし心も折れる。

 だから、彼がここの案件を取ってきたとき、小さな案件だとしても嫉妬の炎が総務部まで届いていた。


 こんなに綺麗で大きなオフィスに勤めていても一緒に火消に回ってくれる上司もフォローしてくれる仲間もいない。

 むしろ何故今更このぽやぽやした営業に託したんだろうか。


『まず今回配り忘れていたパンフレットは商店街と近隣観光地に訪れたお客さんに配る無償の観光マップに類するパンフレットだよね。中にイベント内容を記載していると思うんだけどイベント日などが過ぎてしまっているものがないか確認しよう』

「それは確認済みです。長く使ってもらえるように時限があるものは掲載していないので。ただ、毎年行われているお祭りとかは載せていて…」

『それはいつ行われるの』

「今週です、満福祭りという小規模な祭りがあります。商店街始まって以来駄菓子屋さんが主体となって行っている、祭りというよりは夜市とフリーマーケットが一つになったような子供に人気のある催しです」

『あっ…。懐かしい、私も行ったことある』

「親子三代で来てくれるのが自慢だと駄菓子屋の斎藤さんが言っていました」


 なんとなくぼやぼやと懐かしい風景が脳内に映し出される。


『あっ…。先方には既に連絡済なんだよね、なんて連絡したの』

「取り纏めをして下さっている斎藤さんに連絡しています。パンフレットは少し前に出来上がっていたのだが、バタバタしていて遅くなったことを謝罪し、今日持って行かせてほしいと伝えました」


 私は頭を抱えてしまった。


 何故もっと自分の立場が悪くならないように伝えることが出来ないのだろうか。


  電話では、パンフレットが出来上がったこと、納期が遅れたこと、今日直接渡したいことを伝えればいいだけなのに。

 むしろ期日を意識していない可能性もあるため出来上がったことを伝えて反応を伺えばいいものを…。


 悪気がないことはわかるが、要領の悪さと誠実さのせいで損をしていることが一目瞭然である。


『何時に来てって言われたの』

「今日は商店街で十九時から満福祭りの会議があると言われたので、それまで待たせてもらう約束をしました」


 腕時計を見ると針は十八時を少しばかり過ぎた時間を指し示していた。


『営業車の鍵持ってるよね、早くパンフレットの紙袋持って、行くよ』

「どこにですか」

『今から商店街に行くのよ』


 正丸くんに、社員通用口の前に車をもって来るよう指示をし、更衣室に走った。


  意気揚々とさっき知り得たゴシップをいろんな部署の女性たちに披露しているスピ子を後目に、着替えもままならないまま鞄を持ち、

『お疲れ様です』と言い捨て、一つに束ねた髪の毛がほどけることも厭わず会社を飛び出したのであった。


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