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クラインの壺  作者: 謝謝飯西
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マグカップとスピーカー

 悪気とは実際なんなんだろう。

 近藤さんの朝の台詞を借りれば、「根本が悪い人ってわけじゃないから憎めないわよね。昔からああいう感じだからねぇ。無意識なのよ」という事だが、どうだろうか。

 悪い気持ちが無いことを悪気がないというだと仮定したら、部長は純真無垢な存在ということになる。


そんなはずはない。


部長を悪気がないと認定する近藤さんにも、もちろん部長にも共感出来ないし、全く納得がいかない。三人しかいない総務部の中で、こんなにピンポイントで攻撃しているにも関わらず本当に悪くないのだろうか。


 もし私が法律であり、裁く権利があるなら迷いなく有罪にするのに。

 毎日毎日飽きもせず、部長を誘導し私を傷つけることに喜びを見出している近藤さんも、それに引っかかった自覚もなく気分よく人を不快にする部長は杜若法律では裁かれる対象である。


 ただ一つ近藤さんの誤算があるとすれば、私は望んで派遣社員として働いているため傷ついていないということである。残念だったな。


 私は壁に掛かった時計を見る。定時の五分前に針が止まっていた。


 私は一刻もこの場に居たくないため、全く悩んでいないが、うーんと悩まし気な声を上げ

『営業部長と正丸さんがお話されているなら、営業部のマグカップ回収はやめた方がいいですよね。とりあえず総務部のだけ片づけてきますね』

と二人に言い残し、少し離れた給湯室に向かった。


 傷つかないにしろ悪意が充満したフロアにいると体調が悪くなるため、逃げるのが一番である。

 腕時計を外し、手早くスポンジで三つのマグカップを洗い、食器置き場に伏せて置く。

 一息つく間もなく、再び腕時計を左手に着け、時計を確認する。針は定時を指し示していた。

 やっと解放されると脳内小躍りを決め込んだ後、自分のデスクに戻る。


「あっ。杜若さん、営業部のマグカップをあなたの代わりに回収しといたよ」

 時計は定時を指し示しているが、私の机の上には無数のマグカップが置かれていた。

正社員の近藤さんは、後三十分は業務時間のはずなのにお尻が糊で引っ付いてしまったのか全く動かない。


「それでね、ぺけ丸がなんで怒られていたかといるとね…」

 マグカップを片づけてあげようという気持ちは毛頭無く、営業部での騒ぎを面白おかしく広めてやろうと思って、マグカップを口実にわざわざ営業部に行き、私の仕事を増やしたのかと思うと信じられないほど腹が立った。

それでそれで、と言わんばかりに食い気味に相槌をする部長にも腹が立つ。


「本当あんなに仕事が出来ないのに、正丸大将って名前とか可哀想すぎるわぁ。何も正しくないからぺけ丸って呼ばれているのよくわかるもんね。営業部の人みんな、陰でそう呼んでいるもの。そのうち、ぺけ丸打ち首とか呼ばれちゃうんじゃないの」


 近藤さんは、自分の息子と年齢も変わらないであろう若手社員を陥れるような、品のない悪口を意気揚々と広める。

 そもそも近藤さんだって、全く誠実ではないくせに、近藤誠子だなんておこがましいでしょ。

あんたなんて、あることないこと広めるんだから、スピーカーのスピ子で十分だ。

実際、口に出すことはないが、ぴったりなあだ名をつけてニンマリする。


私は、スピ子を後目にわざわざ増やされたマグカップをお盆に乗せ給湯室へ再び足を運んだ。


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