摩訶不思議はお酒の力で抑え込んで
アーケード通りから少し外れたところにある建物がお姉さんのお店らしい。
「昼は喫茶店で、夜はお酒も出したりするのよ」
喫茶店と言われてみれば喫茶店に見えなくもないが、外観からははっきりと喫茶店だとは認識できない為、きっかけがなければ一生入ることのないだろうなと思いつつ店を眺める。
「ほら、入って」
ドアを開けてエスコートされたため仕方なく足を踏み入れると、やはり内装も喫茶店らしい喫茶店ではなかった。
お姉さんはバーカウンターの中に入り、私に席に着くよう促す。
店内は甘いとも苦いとも言えない、少し不思議な香りがした。
いや、不思議なのは香りだけではない。
カウンターの奥には一つドアがあり、その壁に時計が二つ掛かっている。そしてその前に大きなアンティーク風な置時計が置いてある。時計の数も不思議を助長させる要因ではあるが、全て時計の時刻がずれているのが不思議を通り越して、少し気味が悪い。
ボックス席やソファー席など座るところが沢山あるのだが、何故か机や椅子に統一感がなく落ち着かない。
しかも、間取りも変わっていて、入口付近に大きな階段がある。階段にはなんの法則があるか、植物や楽器、本などが一定間隔に置いてあり、オシャレなのか不気味なのか、ただの横着なのかわからない。
そして、外観からはあまり感じとれなかった店の広さに驚く。
「お酒は飲めるのかしら」
あまりにも店内をキョロキョロと眺める私がおかしかったのか、クスっと笑いながら話しかけられた。
そうか、夜だからお酒を頼まないといけないのか。時刻を確認するために時計を見る。
『あの…。今、何時ですか…。お店の時計がずれているみたいで』
「あなたの時計は何時になっているの」
自分の左腕を見る。
『えっと、その置時計と同じくらいの時間です』
「この置時計と同じ時間ね、じゃあ夜よ」
『あっ…。ハイボールでお願いします』
にっこりと笑って下を向き、お酒を作り始めた。
『あの、私どうやったら帰れるんでしょうか』
お酒を渡される前に核心に触れる質問をする。
「店長」
顔を上げしっかりと私の目を見てはっきりと答えた。私の質問とは違うことを。
「私のことは店長と呼んでね」
『あっ…。はい。じゃあ、おつまみもお願いします』
店長はにっこりと笑って、また下を向いた。
とりあえず私は、お酒が来るのを待つことにした。