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クラインの壺  作者: 謝謝飯西
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夏休みのラジオ体操は死語ですか


グダグダと建前と本音を使い分けてくれた中学生のお願いというのはいたってシンプルであった。


先程渡された木板は神社の掃除当番表らしい。それを神社の裏口へ返してきてほしいというものだった。

そんな簡単なことを、あの手この手で手伝わせようとしていたのかと驚いたが理由を聞けば中学生らしく、納得してしまった。


「絶対に馬鹿にしているじゃないですか」

 私の時代にも流行っていた怪談話が、どうやら一回り以上違うこの子たちを未だに怖がらせているらしい。

「もう。真剣に聞いて下さいよ。最近も出たんですよ。本当に友達が見たって言っているんです」

 お化けが出るという告白をしてからは賢い商売人の仮面を完全に剥がし、怪談話に怯える中学生になった。


『お化け怖いよね。私もその話聞いたとき怖かったもん。毎日ある夏休みのラジオ体操行きたくなかったよ』

「え、夏休みのラジオ体操ってなんですか」


 なるほど。

私はお化けよりも、そのジェネレーションギャップの方が怖いよ。


「毎日夏休みに神社に行くんですか。夏休みって旅行に行ったりするじゃないですか。そういうときは免除になるんですか。ラジオ体操って学校が指示して行っていたんですか。休みたいときはどこに電話するんですか」

『ラジオ体操カードがあって班長がスタンプやシールをくれるのよ。それを夏休みの課題として一緒に提出していたはず…。休みたいときは、黙って休んでいたかな、ごめん。あんまり人生において重要ではない記憶だからすぐには思い出せない』


「班長はシール貼りの義務があるから休めないのはおかしいですね。後、そのシールは学校から配布されるんですか。それとも経費扱いで課題と一緒に請求ですか。じゃないと班長は損ばかりですよね。それにいくら田舎だからといって、朝から音楽を流すのもどうなんでしょうか。幸い神社は小高いところあるため、そこは考慮されているんですよね。うーん、休む時に連絡しないというのも大雑把すぎる気がします。来なかったら心配になるし、かといって朝から家を訪ねるのも…」


『わかったわかった、ごめんって。だから廃止になったんだと思うよ』


 彼女をなだめるふりをして腕時計をちらっと見る。


お化けに怯え、からかわれて怒り、ラジオ体操一つでこんなに悩めるなんて、ある意味うらやましくなってくる。


 大人になって色々なことが平気になったように感じているけど、本当はただ、考える時間が減っただけなのかもしれない。


 大きな流れに逆らわないように。時間が私たちを少しずつ殺していく。




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