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クラインの壺  作者: 謝謝飯西
13/20

暖簾で揺れるツインテール


 

 スマートフォンを眺めフンフンと鼻息を鳴らす彼女に対し、小さく咳払いをした。


『ご依頼いただいていました、パンフレットが完成したのでお届けに参ったのですが…』

 ちらっとパンフレットを差し出す。

 ガサッという音につられるようにスマートフォンから目を離した。そして、あっという表情を浮かべた。


「あっ、そうだそうだ。そうだった。そうですよね、ごめんなさい。少々お待ちください」

 ヘラヘラと笑いながらパンフレットを受け取った彼女は、再び暖簾の向こう側へ戻って行った。


 しかし、何秒後かには暖簾から半分ひょこっと顔を覗け

「これ、おもちゃ屋の?呉服屋の?」と尋ねてきた。


『どちらにもございます』

 パンフレットをもう一冊手渡す。

 彼女はニンマリと笑い、パンフレットを二、三ページペラペラとめくった。

 そして、暖簾から出た半分の顔をしまい、私は無数のおもちゃと二人っきりになった。


 奥に確認しに行ったけど誰かいるのかな、と思ったのも束の間。

 応援団の声出し練習と同じくらいの声量が店中に響いた。


【お父さん、七福さんがパンフレット届けてくれたよ】

【ほんまか!はー、ようやくですか!でも楽しみにしとったんよ!今日も寄合に参加できんかったけんな!】

【台所に置いとくからね】

【いやいや、そこに置かれたらお父さん見られんがな!持ってきてや!】

【面倒やから無理よ、こう見えても私忙しいんやから!】

【お父さんは、あれやぞ!痛いんやぞ!】


 独特な喋り方の父親が奥の部屋か二階にいることは、この大きな声での会話で分かった。

 大方、腰か足を痛めて動けないから娘が店番をしているのだろう。


 大きな声での会話が止み、パタパタとスリッパが離れていく音が聞こえた。


 カップラーメンができる程度の空白の時間が経ち、今度はスリッパの音が近づいてきた。

 結局娘は父親へ持って行ってあげたのだろう。


 束ねた髪を揺らしながら戻ってきた彼女は、さっきまでパンフレットを持っていたはずの手に、見慣れない木板をぶら下げていた。


「父が喜んでいました。ありがとうございます」


 いえいえ、とテンプレートの返事をし、後日連絡することを伝えて一礼をした。

 ようやく帰れる。今日は頑張った。自分偉いぞ。


 彼女に背を向けて、では失礼しましたと挨拶をしたところ肩を叩かれた。


「父からの伝言です」


 寝違えた時のように首は回らない。


「申し訳ないけど、この木板をいつものところへお願いするわ、とのことでした」


 私はパンフレットを手放した途端、謎の木板を手に入れたのであった。


 ピロンと脳内でアイテムをゲットした時の音がした。



 勿論、例えの話である。





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