暖簾で揺れるツインテール
スマートフォンを眺めフンフンと鼻息を鳴らす彼女に対し、小さく咳払いをした。
『ご依頼いただいていました、パンフレットが完成したのでお届けに参ったのですが…』
ちらっとパンフレットを差し出す。
ガサッという音につられるようにスマートフォンから目を離した。そして、あっという表情を浮かべた。
「あっ、そうだそうだ。そうだった。そうですよね、ごめんなさい。少々お待ちください」
ヘラヘラと笑いながらパンフレットを受け取った彼女は、再び暖簾の向こう側へ戻って行った。
しかし、何秒後かには暖簾から半分ひょこっと顔を覗け
「これ、おもちゃ屋の?呉服屋の?」と尋ねてきた。
『どちらにもございます』
パンフレットをもう一冊手渡す。
彼女はニンマリと笑い、パンフレットを二、三ページペラペラとめくった。
そして、暖簾から出た半分の顔をしまい、私は無数のおもちゃと二人っきりになった。
奥に確認しに行ったけど誰かいるのかな、と思ったのも束の間。
応援団の声出し練習と同じくらいの声量が店中に響いた。
【お父さん、七福さんがパンフレット届けてくれたよ】
【ほんまか!はー、ようやくですか!でも楽しみにしとったんよ!今日も寄合に参加できんかったけんな!】
【台所に置いとくからね】
【いやいや、そこに置かれたらお父さん見られんがな!持ってきてや!】
【面倒やから無理よ、こう見えても私忙しいんやから!】
【お父さんは、あれやぞ!痛いんやぞ!】
独特な喋り方の父親が奥の部屋か二階にいることは、この大きな声での会話で分かった。
大方、腰か足を痛めて動けないから娘が店番をしているのだろう。
大きな声での会話が止み、パタパタとスリッパが離れていく音が聞こえた。
カップラーメンができる程度の空白の時間が経ち、今度はスリッパの音が近づいてきた。
結局娘は父親へ持って行ってあげたのだろう。
束ねた髪を揺らしながら戻ってきた彼女は、さっきまでパンフレットを持っていたはずの手に、見慣れない木板をぶら下げていた。
「父が喜んでいました。ありがとうございます」
いえいえ、とテンプレートの返事をし、後日連絡することを伝えて一礼をした。
ようやく帰れる。今日は頑張った。自分偉いぞ。
彼女に背を向けて、では失礼しましたと挨拶をしたところ肩を叩かれた。
「父からの伝言です」
寝違えた時のように首は回らない。
「申し訳ないけど、この木板をいつものところへお願いするわ、とのことでした」
私はパンフレットを手放した途端、謎の木板を手に入れたのであった。
ピロンと脳内でアイテムをゲットした時の音がした。
勿論、例えの話である。