忘れ物は
彼が校門の前に着いた頃には午後8時を回っていた。
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俺は今更ながら放課後マンガの立ち読みをして時間を潰してしまったことを後悔した。部屋や校舎に鍵がかかってるんじゃないだろうか?とか不法侵入の警報がなるんじゃないだろうかとか不安はあったが俺には行かねばならない理由があった。それが忘れ物である。ただの忘れ物ではなかった。その忘れ物はノートである。ただのノートではなかった。そのノートは黒歴史ノートなのだ。ただの忘れ物ではなかった。それは彼が中三の時に書いたものだ。当時彼は受験で追い詰められており若干やんでいた。その病が彼にあんなものを書かせたのだ!とってもイタイ小説なのだ。ただのノートではない。
俺は学校に着いた時にそれが教科書に挟まっていることに気づいた。おそらく本棚につめていたそれをそれと気づかずバックに詰めていたに違いない。朝バックから宿題を出そうとした時にすぐに気がついた。そのノートはデスノートみたいな真っ黒のノートだった(おそらくマジックペンて塗りつぶした)からだ。今更になってとんでもないものを復活させてしまった。誤って人を殺してしまったような動揺の後、自分に言い聞かせる。落ち着け、冷静になるんだ。とりあえずは誰にもバレないように持ち帰ればいいのだ。ノートをバックから出さなければなんの問題もないはずである。
しかし4限の授業の間、ノートのことが気になって仕方がなかった。もしかしてバレるんじゃないのか?いやもしかして中身は何も書いてないんじゃないか?なんか何冊か書いていた気がするしこれはハズレだったするかもしれない、何か書いたっけちょっと気になる…
俺はまず右の席の奴を見る。爆睡。左の席を見る。空席。後ろのやつを見る。内職。いける!!俺は意を決してノートを開く。タイトル、そして次の瞬間閉じた。『闇魔術、紫煙の書』。間違いなく黒歴史ノートだった。大きなため息をついた後俺はノートをしまおうとした。その時、
「オラぁ、そこなにやってんだ」
と教師がこちらを向いて言う。多分自分のことではないが慌ててノートを机にしまう。右のやつが起き、後ろのやつが内職をやめる。これではノートをしまうのはリスクがある。なんたってノートの表紙は黒のマジックペンで塗りつぶしてあるんだから後ろのめざとい西という男が「それ、なんなの?」といってくる可能性は大いにある。仕方ない、昼休みにこっそり移そう。そう決めた。