少年X
岡田は来なかった。
岸田に着いて来たのは、カニ子、宮田純恋、小寺高雄、松田信太、石田流星の5人だ。
外は暗いが、夜なのだろうか? 皆は話し合ったが回答は出ず。
取り合えず、6年の教室は2階なので、外に出る為に一階に行く事にした。
廊下はには、非常灯が点いていたので、その僅かな灯りを頼りに進み、
途中で一旦3階に行き、非常用の懐中電灯を手に入れた。
家庭科室に備えてあったのを、当時悪戯して怒られた小寺がおぼえていたのだ。
「俺も岸田に着いてくぜ。また誰かをイジメ殺すのなんて、夢でも気分が悪い」
小寺が眉をひそめ言う。
3階から下りて、2階の廊下を進み、吹き抜けから職員用の玄関を見た。
玄関部分の、1階と2階は吹き抜けになっている。
シモキンの気配はない。シモキンは何処へ行ったのか?
「あそこから出よう」岸田が玄関を指差し言った。
「岸田くんて変わったよね? リーダーシップ取るようなタイプじゃなかったよね?」
カニ子が言った。
「まあ、色々あったんだよ」
「色々って、まさか裏社会とかでーー」
「違う! なんだよ、裏社会ってーー。高校から山岳部に入って、今プロのアルピニスト目指してるんだ。登山は1人じゃ出来ない。チームワークが第2の命綱になる」
そう言ってるけど、今1人教室を抜けて来たけど……。カニ子は密かに呆れて笑った。
リーダーシップを取るようになったと思ったけど、少し違うかな?あはは。。
「そうなんだ。アタシなんか、大学卒業したのは良いけど就職浪人でーー」
カニ子は項垂れて言う。
「お前も変わったな」
「小学校の時は、頭良いと自分でも思ってたんだけどね。あはは。。」
「いや、そうじゃなくて、よく喋るようになった。良いよその方が」
「そうかな? リアルじゃレーシックしたから、もうメガネじゃないんだよ!」
「おいおい。そこマジの同窓会ムード出すのやめろよ」
松田が割って入る。
「お前、カニ子に気があったのか?」
小寺がからかった。
「ち、ちげーよ!」
「あははは。緊張感薄れるね。普通に同窓会したかったね……。」
純恋は言葉を濁す。
純恋は女子で1番モテた子だった。ショートカットだけど、ボーイッシュという感じは無い。女の子らしい、お淑やかな性格の所為もある。シモキンのイジメにも参加していなかったし、時には「やめなよ」などと言ったりもしていたが、それは結果としては言葉だけのものに過ぎなかった。イジメが、その言葉で止む事は無かったからだ。シモキンにとっては、やはり純恋も傍観者の1人であるだろう。
純恋の濁した言葉の後に続くのは、
……シモキンの事さえ無かったら
だと、カニ子は思った。
そして、皆んなも同じ事を思ったのだろう。
その証拠にみんな黙ってしまった。
1階に着いて、職員玄関を目指す。
どうして、イジメなんてしてたんだろう。
カニ子はふと思う。
今思えば、やってた人は何が面白かったんだろう。
自分はなんで、何も感じなかったんだろう。
大人になると、如何に子供時代は無駄な事に人生を費やしていたか分かる。
学校から家まで同じ石を蹴って帰る事に命を掛けてみたり、明らかに嘘な心霊番組で聞いたカシマさんの呪いをクラスみんなで信じたり、学校でウンコするのを異常に恐れたりもした。
そして、シモキンを仲間外れにして、虐めた。
家が貧乏なだけで。
「……? 」
あれ、それだけだったっけ?
なんか、もっと大きな事が初めにあった気がーー。
「おい、カニ子! また戻る気か?」
小寺にそう呼ばれて気付く、カニ子は自分だけ直進していて、皆んな止まっていた。
その左横には、職員玄関。
皆んな教職員用の玄関から、外に出為にカニ子を待っていた。
ああ、いけない行き過ぎた。
前方には、闇が広がっている。そのまま前進すれば階段が有り登れば1年の教室がある筈だ。でも、途中に生徒用の玄関と下駄箱もあるから、外に出れない事は無いのだけど。あえて、その事をカニ子は小寺に指摘しようとは思わなかった。
「ん?」
カニ子は何かに気付く、前方の闇の中に誰かいる……。
「誰? シモキンなの? 」カニ子は闇の中へ問う「あなた誰?」
闇の中から、半袖半ズボンの小さな男の子が出て来る。今の自分達より小さい。下級生だろうか?
少年はゆっくり出て来るが、歩いているというより、空中を浮いて進んでるような?
「君、それ何?」
少年の顔は覆面のように白い布で包まれ、顔の部分に大きく赤字で『X』と書かれていた。
だが、カニ子が指摘したのは、それじゃない。カニ子が訊いたのはーー。
少年の右手に持たれた巨大な牛刀……。
「そいつ少年Xだっ!? 逃げろカニ子!!」
カニ子は後ろを振り返る余裕が無かったが、声からすると言ったのは松田だった。
「少年X?」とカニ子が言った次の瞬間、闇から出て来たモノにギョッ!?とする。
少年の後ろから巨大な人間がーー!?
いや、人間なのか?
それは、しゃがまねば廊下に入らぬ程の巨体で、頭が無く、首が少年の背中に繋がっている。
または少年の背中から、巨人が生えているとも言える。
「何なの? これ……」
カニ子がそう言った瞬間、巨人の右手が素早く動く。
動けないカニ子。
だが巨人の手がカニ子に届くより早く、何かが腰に強くぶつかって来てカニ子を弾き飛ばした。カニ子はぶつかって来た物諸共倒れたが、それで難を逃れた。巨人の掌は、カニ子をかすめ空振る。
「何やってんだお前っ!」
腰にぶつかったのは小寺だった。
小寺が、身をていして守ってくれたのだ。
が……。
「ーーうわあッ!l」
代わりに小寺が捕まった。
巨大な掌が小寺を、強く握る。
「ぐはッ!!」
「小寺くん!!」
「助けてっ! ウッーーッ!!?」
小寺の頬が膨らみ、
グハッ!? ウォエッーーーーーーーーー!!!!
ゲロゲロゲロゲロゲロゲローーーーーーーーーーーー!!!!!?
口の中から轢かれたカエルのように内臓が飛び出す。
プシャーー!! と血が噴き出し、
尻を付け座りこんでいるカニ子はそれを頭から被った。
「きゃあ!きゃあーーー!!! きゃあーーー!!! きゃあーーーーーーーーーーーーー!!!!」
と、カニ子は発狂するんじゃないかと言うくらい叫んでいた。
「カニ子! 早くこっちへ来い!!」
岸田が叫んだ。
カニ子は我に返り、岸田たちの方へ這うようにして必死の形相で走る。
「カニ子大丈夫か!?」
「小寺くんがッ!?」
「小寺はもうダメだ。あれじゃ、助からない」
「岸田、玄関が開かない!」
松田が叫ぶ。
「え?」
岸田が見ると、松田玄関の扉を掴み格闘している。
岸田は玄関の扉に下駄箱の端に置いてあった。消化器を扉のガラスに投げ付ける。
だが、消化器の方が跳ね返される。
「ふざけんな! 消化器は鉄だぞ!!」
その時、
デンッ!!と何かが飛んできて、扉にぶつかって、跳ね返り床に転がった。扉はブルブルとその衝撃で震えている。
それは小寺だった。
ガラスが小寺の鮮血に染まる。
小寺はすでに生き絶えていた。力無く転がる血だるまのそれは、まさに肉であった。
人は死ねばただの肉とは、良く言ったものだ。
「ダメだ! 逃げよう」
岸田の声で、5人は来た道を走り戻った。
巨人は追ってくる。ズドン! ズドン! と破壊音が5人の後ろから、迫って来る。
体がデカすぎて壁中にぶつかっているのだ。
ズドンッ!!!!!!
と、一際デカイ音を立てて、巨人はぶつかった。
校舎が揺れる。まるで地震だ。
階段を登り終えた5人が振り返ると、巨人が階段の入り口でつかえて動けなくなっていた。
大き過ぎてつかえてしまい登って来れないのだ。
つかえてる癖に、力任せに前に進むから、身動きが取れなくなってしまったようだ。
デカイだけで、頭はあまり良くはないようだ。
巨人は苦し紛れに手を伸ばした。つかもうとしているのか? いや、違うようだ。
両手の人さし指を1本ずつ、カニ子達の方に向け立てて居る。指の先が、漫画とかアニメで描かれるカエルの指先のように丸く大きく膨らんでいる。その膨らみの真ん中が一文字に切れ開く。
ーー眼だ。
あんな所に眼が付いている。
それで、カニ子達を見ていた。
両の人差し指が、まるででんでん虫の目のようだ。カニ子は思った。
取り合えず2階まで戻り、そこで話し合った。
「あれは何なんだ!?」
岸田が荒い息を吐きながら言う。
それに松田が青い顔で言う。
「……少年Xだ。」
「少年X!? なんだそりゃ?」
「覚えてないか? 多分、小6になった頃だ。ガキがイジメて来る上級生を、家から持って来た果物ナイフでめった刺しにした話。顔も名前も分からないけど、割と近い小学校の事件だったから、変にみんな盛り上がってたろ? 花子さんとか、ひきこさんみたいに」
「そういや、そんな事件あったな」
「相手は一時意識不明の昏睡状態に陥ったけど、結局死ななかった。でも小学生の俺らには結構衝撃的な事件だったろ?」
「ああ、相手は死ぬと思ってたから、死ぬまでなんか変なイベントみたいに盛り上がってたな。正直、死ななくてみんな残念がってたもんな。今思えば、気味悪いな。自分達は刺される側なのにな。で、それとアレにどういう関係があんだよ?」
「シモキンが見せてくれたんだ。ある絵をーー」
「ある絵?」
「ああ。それが、あの化け物にそっくりだ。それは、シモキンが想像で書いた加害者の少年の姿で、それをシモキンは少年Xって言ってた。あいつ少年Xは自分の友達で、守ってくれるって言ってた。勿論、あいつの妄想だけど」
「少年Xって、アレ人間ですら無いだろ!」
「知らねえよ! 考えた本人に訊けよ!」
その時、
「あっ! 思い出した!」カニ子が言った「その絵、私も見たし、岸田君も見てるよ!! クラスのみんな見てる! あれ? なんで見たんだっけ?」
「私も見たよ。どこでだっけ?」
黙って聞いてた純恋もいった。
松田が言い辛そうに、口を開く。
「……俺が、シモキンから奪って、黒板に貼り付けたからな」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
みんな、沈黙したがその沈黙を黙っていた石田が破る。
「覚えてる。シモキンが必死に黒板の絵を取ろうとしてたけど、みんなでそれを邪魔して、笑ってた」
石田は身長は高いけど、痩せって電柱みたいだとクラスメイトに言われていた。
だが、別にイジメとか悪口では無く、単なるイメージを口に出していたに過ぎない。
そして、石田はボソボソと篭った喋り方をし、口数は少ない。と言うより、必要最小限にしか話さない。シモキンのイジメにも加担はしてない。でも、傍観はしていた。
「で、結局どうなったんだ?」
岸田が石田に聞く。
「授業が始まり先生が来て、剥がして捨てた」
「シモキンの泣き顔が眼に浮かぶわ。あいつ泣く時狂ったみたいに泣くからな」
松田が言った
「うううん。松田くん自分で貼ったのに覚えて無いんだ?」
「え?」
「まあ、席順的にみんなには見えなかったかも知れない。シモキン1番前の廊下側の一番端だったから。でも、僕は隣だったからよく覚えてる。って言うか、席に座わされた後のシモキンのあの顔を見たから、その時の席の場所を覚えてるんだと思う。ーー凄い顔で睨んでた」
「え?」
「その顔が、まるで人殺しみたいだったから、凄い覚えてる。本当の人殺しなんて見た事ないのに、なぜかあれは人殺しの顔だと思ったんだ。きっと血だよ」
「……血」
岸田は思わず口にする。
みんな、その言葉に同じく思い当たる物があった。それは村のタブーだった。
岸田は背筋が、ゾクリと冷える感じがした。
誰かが、ゴクリと唾を飲んだ音が闇の中に聞こえた。
松田が口を開く
「どうする? 下にはアレが居るし、玄関は開かねえ。あの締まり方は、鍵とかそういう感じじゃねえよ。実は俺いま、建具職人の見習いしてんだけど。あのタイプの両開きの扉は、鍵閉めてもアソビはある程度絶対に出来る。あんなにピシッと締まらねえ」
「いや、鍵だけじゃねえ。ガラスもまるで防弾ガラスだ。消化器打つけて割れないとか。常識外の力が働いてるとしか思えねえ。そうだ。廊下の窓も見てみよう」
岸田の提案で、2階の廊下の窓を調べるが、こちらもビクともしない。
「ーーあれ?」
純恋が指差し言った。
純恋の指す方向を皆んなで見た。
「月?」
カニ子が言う。
そこには空に浮かぶ満月が見えたが、様子がおかしい。
ふにゃふにゃと歪んでいる。蜃気楼のようにも見える。
「夜なのかな? やっぱ」純恋が言う
「なんなんだ。まったく分からない」と松田は頭を抱える。
「とにかく、一旦教室の奴らの様子を見に行ってみよう」岸田が言った。
「シモキンが居たら?」とカニ子が訊く。
「居たら逃げる」
「なんだよそりゃ」松田が呆れたように言った。
「お前、堀内の頭を手も使わず吹き飛ばした奴なんかと戦えるか?」
「ーーいや。それは……」と松田は言葉を濁す。
「所で松田、それなんだ?」
「ああ、夢中でなんか武器になりそうな物無いかって持って来ちまった」
「て、お前。それ俺が投げた消化器だろ?」
「投げたりとか、目潰しとか? あと密閉空間で使うと、相手を窒息させられるらしいぞ?」
「ーー絶対に使うなよ。俺らも死ぬじゃねーか」
「……ああ。投げるだけにするわ」




