今度は、岡田と吉田が鬼の番
「えー、本当はこれから仕切り直して本来の予定通りクジをするつもりでしたが、ルール違反が起きました」
というシモキンの声で希は意識を取り戻した。自分はあの後どうなったんだろう?
さっきと同じ教室が目の前に見えるが、なんか変な感じだ。
まるで体という暗く小さな部屋の中で、目という2つの覗き穴から覗いている感じだ。
体はもう自由にならない。
先に死んだ堀内の姿が見える。自分も死んだのか?
いやでも、意識だけはある。
堀内も今こんな状態なんだろうか?
シモキンは希がそんな事を考えてる間も、しゃべっていた。
「イジメる側は、あくまでイジメなので、殺しては行けません。知りませんでしたか? そりゃ、言い忘れましたからね。すいません。今回は微妙ですが、難しい言葉で言うとーーかちつちち? なんでしたっけ? 皆さんと違い私は大人になれなかったんで、難しい大人の言葉は分かりません。なんでしたっけ? 奧野さん」
奧野雅子はクラスで男女含め1番小さい子だけど、勉強は1番出来た。
オカッパで、まさにガリ勉という感じの分厚いメガネを掛けていた。だから、メガネを通すと目がレンズの効果で小さく見えて、カニ子と良くからかわれていた。
なんか男子が言うには、村で良く見る沢カニに似てるらしい。
奧野も本来は大人になっている筈だが、今は昔のままのチビのカニ子だった。
「……過失致死?」と奧野は言った。
「そうそう。それです。という事で、私のミスなのでクジを引くのはもう一回パスして差し上げます。その代わり、次の鬼はルール違反を犯したので岡田くんと吉田くんです」
「えっ!?」
「えっ!?」
岡田と吉田の声が揃う。
「今度は、画鋲椅子の刑です。皆さん用意してください」
微笑んでいるが、シモキンの言葉は冷たい。
気付くと教室の中心に椅子が2つ在る。
その椅子には画鋲が敷き詰められていた。
「さあ皆んな、岡田くんと吉田くんを椅子へ」
シモキンが言う。
「いい! 自分で座る!! これに耐えれば良いんだろ! それで終わりだ」
岡田が言った。
「おっおう」と吉田もそれに続く。
2人は自ら椅子の前に歩み、振り返ると腰を下ろす。
……うっ!? と、痛みで2人の顔は歪む。
だが、2人は耐えた。
「いつまで、やればいい! こんなの屁でもない。シモキンお前がされてた事なんてこんなもんなんだよ!! 被害者ぶりやがって」
岡田は言った。
「良いわ。じゃあ、次ね」
「次っ!?」
「覚えてる? 私が無理矢理座らされて痛くて腰を浮かせてた時、田辺くんが私の膝の上に乗ったの。お尻にいっぱい画鋲が突き刺さり私思わず悲鳴を上げたの」
「それは田辺だろ!」
「その時、皆んなも笑ってたわ。同罪よ。田辺くん出て来なさいよ」
クラスメイトの後ろから、田辺がおずおずと出て来た。
田辺和馬はクラス1のデブだ。小6にして身長153cmで100キロ近くもある。もはや肥満児ではなく、巨漢だ。
「田辺くん、まず生意気な岡田くんからね」
「田辺、やめろぉー!」
岡田は目を剥き言う。
「皆んな、岡田くんを押さえて」
シモキンの声で、岡田が立ち上がらないように、皆で肩や頭を押さえる。
人は頭を前にもたげ重心を移動しなければ、立ち上がれない。
簡単に椅子に押さえつける事が出来る。
ゆっくりと田辺は、座っている岡田に尻を向けると
「よいしょっ」と、座った。
椅子がミシッと悲鳴を上げたのと同時に
うっ、ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!??????
と岡田も悲鳴を上げた。
「やっぱ、お尻を浮かせてたのね。ズルして。さあ、次は吉田くんよ」
「嫌だ!」
吉田は立ち上がると、逃げ出した。
「皆んな捕まえて! イジメる奴が居なくなったら今度はあなた達よ!!」
皆で吉田を取り囲む。
「やめろよっ! やめろよ、皆んな。同じクラスメイトだろ?」
吉田は震える声で言った。
「私も同じクラスメイトだったわ」
シモキンは言う。
「……悪かったよ。本当に子供で遊びの一環だったんだよ。お前の葬式の時も俺泣いたんだぜ。なんて酷い事をしてたんだと思ったよ」
「お葬式で泣いた? 嘘つき。まあでも、そうね。子供だった。子供はとても残酷だものね。そして、私はあなた達と違ってもう大人にはなれない。ずっと子供のまま。ーー残酷なね!」
シモキンは今まで1番嬉しそうに笑った。
「さあ皆んな、田辺くんを連れて来て」
やめろよ! やめろよ! と騒ぐ吉田を皆んなで取り囲み、胴上げするみたいに担ぎ上げる。
「はいそこでストッぴ!」
そうシモキンが言うと、床が2枚の引き戸のようにスライドして両側に開く。
中にはまばゆい黄金ーー、ではなく画鋲の海が。
床下が小さな深いプールみたいな空洞になっていて、そこに大量の画鋲が敷き詰められていた。
「皆んな、まだ落としちゃダメよ。吉田くんの服を脱がせて」
やめろ! やめろ! と吉田が抵抗するがみるみる服を脱がされて、白いブリーフ一丁にされた。
「武士の情けね。パンツは許してあげるわ。上履きと靴下は脱がせて。さあ、そこに落として」
「やめろ! やめろ! やめてくれよ。こんなイジメはしてないだろ! お笑いウルトラクイズだってこれよりマシだ!!」
皆んなは、ロボットみたいな顔で、エイヤッ! と吉田を画鋲のプールに投げだ。
ギャァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!?
「さあ、みんな周りを囲んで、吉田くん逃したら今度は逃したら人が鬼よ」
みんなで吉田が逃げられないように、画鋲プールの周りを囲み、這い上がろうとする吉田を代わる代わる蹴落とした。
「助けてくれよ皆んな。痛いよぉ~痛いよぉ~」
中身は大人の筈なのに、吉田は本物の子供みたいに泣きじゃくりながら助けを懇願した。だが皆は氷のような目でそれを平然と無視した。
吉田の悲鳴と、ドカドカと吉田を蹴落とす音だけが教室に響く異様な光景が繰り広げられた。
吉田が這い上がろうとすれば、顔を蹴り、手を縁に掛ければ、それを踏み付ける。
最初は遠慮していたが、じきに皆も早く終わらないかと内心思い始め、吉田を蹴落とす足に自然に力が篭りだす。
1つは小さな針に過ぎない画鋲でも、万、億、兆、刺されば、すぐに全身血塗れになった。吉田は皆に蹴られ、止血と画鋲の痛みで、じきに倒れたまま起き上がらなくなった。
皆はじっと心配げにそれを見ていた。
それは、本当に吉田を心配してなのか、殺して次に鬼にされたくないからなのかーー。
動かなくなった吉田を残したまま、画鋲プールの扉は閉じられた。
シモキンが何も言わないから死んでは居ないのだろう。
「俺は耐えられた。帰してくれ!」
すっかり忘れられてた岡田が、足を引きずりながら出て来て言った。
「何言ってるの? 私が受けたイジメをクラス皆んなで全部こなして残った人だけ帰れるのよ。言ったでしょ。これからクジをして、また岡田くんが出たら鬼よ」
「……そんな」
「……そんな。じゃないわよ。私なんか1人で全部受けたんだからね」
「当時のイジメより、酷くなってるじゃないか!」
「そうかしら? こんなもんよ。心の痛みを加算すればね! 友達も居らず、誰も助けてくれない。次はどんな事をされるんだろって、怯えてた毎日を加算すれば、これ位安い値上げよ。まあ、少し休ませてあげるわ。時間はたっぷりあるものね」
そう言うと、シモキンは教室から出て行った。




