表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/25

夢路丸良子

仕事終わりに祐を呼び付けた。

やって来た祐の車に、人目もはばからずカニ子は乗り込んだ。


「おいおい! 何なんだよ」

「見つけたんでしょ? 夢路丸良子」

今朝、祐からのLINEが入っていた。夢路丸の居場所が分かったらしい。

「そうだけど。いきなり何なんだって。呼び付けて、人目もはばからず俺の車に乗り込むし、誰に見られてるか分からねえだろ? 今のご時世スマホで撮って、すぐネットにUP出来んだから」

焦ったようにそういう祐の声は、カニ子の耳には届いていなかった。

カニ子は他の事で頭がいっぱいだった。


それは、一昨日あった希からの電話だーー。

あの黒いノートの届いた翌日の深夜だった。

電話の向こうの希の声は、とにかく焦っていた。落ち着かせて、訳を訊くと。

あのシモキンの大叔母三姉妹の幽霊が、希の元に現れたというのだ。

夢では無く、起きている時に部屋に現れて


「シモキンは門を開けようとしている。止めてーー」


とだけ言って、何かに追い立てられるように消えたらしい。


ーー門とはなんだ? 想像出来るのは、現実世界に来る門の事だろうか?

それを開けるとはどういう事なんだろう?

何だか分からないが、自分の知らない所で急に事態が進み始めた気がする。

漠然とした不安が、カニ子に後先を考えない行動を取らせる。


キキィーーッ!!


と音を鳴らしブレーキを踏み、車を道の端に祐は停めた。

「お前、ちゃんと理由を話せ! これから霊能者に会いに行くんだろ? ちゃんとお前が話さないなら、俺ももうこれ以上付き合わないし、何も教えねえぞ!!」


カニ子は暫く考え、はぁーーと肩で大きく溜息を吐き

「分かったわよ……。」

と言い「信じれ無いでしょうけど」と前置きしてから、今までの事を話した。

そして、その危機は今も続いている事をーー。


「なんだよ。そりゃ? 嘘にしてももう少しマシなーー」

と祐が言い掛けて

「だから言うの嫌だったのよ!! こんな嘘なんの為に吐くわけ?」

確かに、という顔で祐は暫く考え、再び車を発進させる。

「ーー分かった。とにかく、今はお前を信じる。確かにお前がこんな嘘を吐いて、俺を振り回す理由は無いもんな」

「……ありがとう」

「夢路丸良子は大阪だ」

「え?」

「大阪に居る。夢路丸がテレビに出てた時の、ディレクターを見つけ出して居場所を聞いた。今から向かうぞ」

「うん!」


大阪に着き、現在の夢路丸良子の自宅に向かう。

自宅は大阪市の外れにある古い雑居ビルだった。


「本当に此処? 廃墟じゃん?」

5階建ての小さなビルだ。壁の塗装は剥がれ、コンクリートはヒビが入り、一部剥がれて赤茶けた錆びた鉄筋が見えている。裂けた人の肉の中に見える、骨のようだ。そう感じた時に、思わず夢の世界で経験した惨劇がフラッシュバックする。


「ーー電気点いてるじゃん」


祐の言葉にハッと現実に戻される。

もう過ぎた事だと思っていた事が未だトラウマのように心に傷となっている事を今更実感する。


「ホントだね」


そう言ったカニ子の声は乾いていた。


確かに最上階の部屋から灯りが漏れている。

エレベーターは無く、階段を5階まで登った。どうやら、最上階以外は他の階は誰も入っていないらしい。踊り場に椅子などの荷物が積まれていたりした。


黒いドアがある。


ピンポーン!


ドアの側のチャイムを押す。

暫く待つが反応は無い。


ピンポーン!


もう一度、押すがやはり反応は無い。

此処で、夢路丸良子に会えなければ、この先シモキンを倒せる可能性は無いかも知れない。カニ子は焦りを覚える。


ドンドン!


カニ子はドアを叩き言う。

「夢と心霊について聞きにきましたっ!!?」


チャイムと一緒についたスピーカーから声が発せられる。

「悪いけど、もう霊能はやめたよ。他に行きな」

スピーカーの声は、冷たく言った。

しゃがれた老婆という感じの声だ。


「野澤栄光を覚えてませんかっ! 赤鷺小の元生徒です!! 私はーー」


と、カニ子が次の言葉を言い掛けた時……。


ドアがゆっくりと開く。


「志茂木マリ子が現れたのかい……?」


ドアの向こう。

闇の中で、オレンジ色の玄関灯に照らされて小さな老婆が立っていた。


140cmあるか無いかの着物を着た、小さな老婆が丸い黒い眼鏡を掛けて立っている。

白髪の頭は、上でお団子にまとめてある。

テレビで見たより、随分小さい。150cmくらいはあるかと思っていた。

当然、過去のテレビ出演時の動画より老けてるのは当然だが、それにしても年老い過ぎてないか?

皺くちゃで、少し腰の曲がった姿は、まるで猿のようだ。


「志茂木マリ子は、お前の所に現れたか」


夢路丸はもう一度言ったが、今度は疑問符は付かない言い方だ。

断定的に言っている。


「まあいい。奥に入れ!」

夢路丸はそう言って踵を返すと、奥に引っ込んで言った。


カニ子は思わず、祐の顔を見る。

此処に来て、夢路丸良子の醸し出す異様な雰囲気に、思わず腰が引ける。

全身に黒いオーラをまとっているようだ。

「何してんだよ。行くぞ? その為に来たんだろ!」

腹を決めた祐に、恐れは無かった。その言葉は、弱腰になったカニ子の背を押す。

「……う、うん!」

カニ子達は靴を脱ぎ、玄関を上がると夢路丸の後を追い掛けた。



灯は有るものの、洞窟のように薄暗い廊下を進む。

間接照明くらいの灯しかない。

目を凝らさ無いと、先を歩く小さな夢路丸を見失いそうだ。

雑居ビルのワンフロアの筈なのに、中は一軒家のように細かく間仕切りされている。

おかしな作りだ。


突然、夢路丸の姿が消えた!?


「あれっ!? 何処行ったの?」


カニ子と祐は早足で廊下を進む。

居ない??

辺りをキョロキョロ見回す。


「こっちだ」


左から夢路丸の声がする。そこは壁だ。

カニ子が手を伸ばす。

「あっ!? これドアだ」

暗くてドアがあるのに気が付かなかった。

カニ子はドアノブを捻り中に入る。


蝋燭に溢れた部屋。

その中心の座布団に、夢路丸は正座し座っていた。

此処が、外から見えた部屋だろうか? 外から見たらもっと明るく見えたが。


「座りな。悪いけど、お茶なんて出ないよ」

カニ子達は、言われた通りにその場に腰を下ろした。

座布団がちゃんと2枚敷かれていた。

カニ子は見るともなく、夢路丸の顔を上目遣いで見る。

皺くちゃの顔に掛けられた黒い丸い眼鏡に、蝋燭の火が映っている。

この暗いのに、サングラス? そうカニ子が思った時ーー。


「これかい?」

夢路丸は黒い眼鏡を触りながら、笑って言って、眼鏡を外した。


「ーーはっ!?」


カニ子は息を短く吸うようにそう言って、声が出ないように両手で口を塞いだ。

祐がカニ子を守るように、抱き寄せる。


夢路丸の両目に、目玉はなく、黒い穴が2つ空いていた。


「夢は目で見るものでは無いが、やはり力は目玉に宿る。悪い物が目から入って来ぬように、目玉をくり抜いた。その代償にワシは力を失った」


この家が暗い訳が分かった。もう夢路丸には生活する為の灯は必要無いんだ。

見えない両目に、光などあっても無駄なだけだ。


夢路丸は再び眼鏡を掛けると言う。

「話してみろ? 何があったか全てーー」

カニ子は今までの事を、全て話した。

「ーーなるほどな」

「夢路丸さんはシモキンを倒す方法を見つけたんですか! 教えて下さい!!」

「無理だ。分かった所で、無理だよ。ワシのこの目を見てみろ。志茂木マリ子に引き込まれないように、夢の世界への入り口を自ら塞いだのだ。こうするしか無かった」

「……私も目を潰せば?」

「あんた達は違う。元々志茂木マリ子と繋がっている。目を潰した所で意味はない」

「野澤先生はどうして? シモキンは私達から生まれたから分かるけどーー」

「アレは、ワシの所為だ。野澤の夢を通して、志茂木マリ子と関わっている内に、取り憑かせてしまった。ワシが野澤の中に、志茂木マリ子を招き入れてしまった。その事に、気付いた時にはワシは力を失っていた。それでも、たまに見えぬ闇の中にアヤツの存在を感じ、身震いが出る時がある。今でも、アイツはワシを狙っている」

「……シモキンを倒す方法を見つけたから?」

「……。」

夢路丸は黙り込んだ。

「どうか、教えて下さい!! 無理でも、なんでも、やり方だけでも教えて下さいっ!!」


暫く考え、夢路丸は喋り出す。

シモキンを倒す方法をーー。


「そんなっ!? そんなの無理です!!」

その方法を聞いて、カニ子はショックを受ける。

「それが、唯一の方法だ。もし昔の力が戻ってもワシやお前らでは、シモキンは倒せない。そういうモノだとしか言いようが無いんじゃ」

「……。」

「段取りさえ整えば、志茂木マリ子のいる場所にワシが連れてってやる。ワシなら案内出来る」



その後、カニ子と祐は明日を考えて、夢路丸のビルを後にした。

今からまた東京に帰らなきゃいけない。

それに夢路丸の話じゃ、さっき聞いた方法以外、シモキンに勝てる方法は無いと言うし、これ以上長居する意味も今は無い。


「さすがにあの案は無理だろう。協力してくれる奴も居ないだろうし、俺達だけじゃ無理だよ」

ハンドルを握る祐が言う。

「……そうだね。でも、夢路丸がシモキンの居場所まで連れてってくれるなら助かるわ。ねえ、良かったら私達赤鷺小の元生徒達が集まる時に、来てくれない?」

「分かった。その時は連絡をくれ」

「うん。ありがとう。そう言えば、着いた時に部屋の灯りが外から見えたけど、さっきの部屋の灯りかな?」

「なんで?」

「帰りに外から見たら、暗かったけどさ。なんか、あの部屋の灯りだと暗すぎない? もっと煌々としてたよね?」

「言われればーー。家の中が入り組んでいて、どこの部屋に入ったか分から無いな。違う部屋なのかも? もしかしたら、同居人とかが居たのかもな。あんな目だし」


深夜3時過ぎには、カニ子のマンションに着いた。

人目を気にして、地下駐車場内で降ろされる。

「じゃあね。ほんと、ありがとう」

「叙々苑な」

「うん。食べ放題だよ」

そのまま、2人は別れた。


シャワーを浴びて、ベッドに潜り込む。

スタイル維持の為に、夜9時を過ぎたら朝まで、何も食べないから今日は夕飯抜きだ。

カニ子は空腹をミネラルウォーターで紛らわした。空腹は水だけで、結構紛れる。


布団の中で考える。

夢路丸に言われた事をーー。


それは、今のカニ子には不可能な事であり、クラスメイトの中にはその条件を満たす者が居るかも知れないが、それでも実行に移すにはハードルは高いだろう。


そもそも、それを出来たとしても

成功する確証は無く、リスクが大きい。

夢路丸の言葉だけでは、皆を説得出来ない。


希にも相談してみよう!


机の上に置いてある、充電中のスマホを取って


『相談がある』


と、希にLINEを送る。

当然、寝ているだろう。

しばらく待っても、返事は無く、既読も付かない。


ベッドの上に仰向けになって考えていると、疲れもあり、自然とウトウトと眠くなって行く。


部屋の中に気配を感じる。


ーー誰か居る!?


カニ子は、恐る恐る目を開ける。


「あっ! あなた達はっ!?」


そこに居たのは、シモキンの大伯母達だった。

希の所にも現れたという話だ。

彼女達は、きっと何か大事な事を伝えに来たに違いない。


そうだ!

希は門と言っていた。

シモキンは門を開けようとしていると。


「門とは何ですかっ!? シモキンは何をしようとーー」


大伯母達は何も答えず、悲しげな目をするばかりだった。


ーー。



気が付くと、カーテンの合間から朝日が差し込んでいた。

既に朝に成っていた。

カーテンの隙間からさす朝陽を、僅かな埃が反射し舞っている。

絵に描いたような平和な朝だ。


ーーあれも夢だったのか?


そう、カニ子が思った時に、手の中に違和感を感じた。

握られた拳を開くと、指の隙間から黒い物がピョンピョンと飛び出す。


「きゃッ!!」


カニ子は思わずそれを投げ出す。

黒い塊は、床にもそっと転がった。それは黒い髪の毛の束だった。

カニ子の物ではない。カニ子の髪は濃い目のブラウンに染められている。

やはり、夢であって、あれは夢ではないのだ。


きっと大伯母達は、今もシモキンの支配下にあるに違いない。

何かを残す事で、自分達の存在を伝えたかったのだ。

希の所にも来て、私の所にも来たという事は、何か余程伝えたい事があったに違いないのだ。


きっと門に付いてだ。


だが、それだってシモキンさえ倒せば、すべて解決する筈だ。

やはり、夢路丸の案を実行する方法を見つけ出すしかない。

カニ子は1人決心するようにそう思う。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ