【第二部 悪夢は続く】 restart
ーーあの悪夢から覚めた、5日後。
その週の日曜日に、希はカニ子と待ち合わせをした。
丁度、希の家とカニ子の家の、間に当たる新宿駅の西口を選んだ。
駅前の柵に寄り掛かり、スマホを見て居ると、希のスマホが震える。
ーー純恋からの着信だ。
希が覚えたのは、純恋の番号だった。
今日は純恋と、カニ子に連絡して来た田辺も来る。
純恋は華菜の番号を覚えて、田辺はカニ子の番号を覚えたが、田辺自身には他のクラスメイトからの連絡は無いという事だった。華菜も今日は予定があり来れない。
希がスマホに出ると、ちょうど駅から出て来たスマホを耳に当てた若い女の子と目が合う。
「希?」
「純恋?」
希は純恋に駆け寄る。
「久しぶりってのは変かーー。面影あるね?」
「当然だよ。本人だし。純恋も」
少し笑って、2人は沈黙した。
「やっぱり、あれは夢じゃ無いんだけね。夢だけどーー」
「うん」
「カニ子と田辺は?」
「一応、此処で待ち合わせる約束はしてるけど」
希はスマホを見る。14:03分。
待ち合わせの時間は14:00丁度だった。
プップッ! プーッ!!
突然けたたましく、クラクションが鳴り響く。
希と純恋は、クラクションの方を見る。何やらタクシーと乗用車が揉めているようだ。
「なんか、タクシー止める場所に車停めたんじゃ無い?」
「おしゃれなクラシックカーポイけど、ベンツだ。ヤクザかな?」
車にも詳しく無い希は、ベンツのイメージはヤクザしかない。
ブルルルッ!
希のスマホのバイブが震える。
表示を見ると
ーーカニ子だ。
「はい。今どこ、どこ?」
と希が聞くと
「こっち! 早く来てっ!!」と叫ぶ声が、スマホと明後日の方向からもする。
辺りを見回すと、ベンツの窓を開けて、真っ黒いサングラスをした女性が手を振っている。
「早くっ! ヤバイヤバイ!!」
どうやら、あれがカニ子のようだ。
とにかく、希と純恋はそのベンツに乗り込んだ。
「ゴメン! 免許取り立てで、どこに停めたら良いかとか全然分かんなくて」
ハンドルを握るカニ子が謝る。
走り出すベンツの中、希は気になる。
免許取り立てで、ベンツはどうなんだ? とかって事じゃなく、
サングラスを掛けていても分かる整った目鼻立ち、どこかで見た事がある。
服も自分達庶民とは、ワングレード、いやスリーグレードは違う。
なんか分からないが、時代の先頭を走ってる感じのオシャレ感だ。
勿論カニ子の顔は知っているけど、そう言うんじゃなく……。
うーん。
ビルに掛けられた、巨大な看板が目に入る。
みうてぃんだ。みうてぃんは相変わらず可愛いな。ーー ん?
「ああーーッ!? みうてぃんだっ!!?」
希は思わず、カニ子を指指して叫ぶ。
「ええーーッ!?」
と、後ろから純恋が顔を出して、カニ子を見る。
なんとなくつられるように、田辺も純恋の後ろから覗く。
「カニ子、就職浪人て言って無かったっけ!?」
「……ゴメン」
カニ子が純恋に謝る。どうやら、嘘を付いてたようだ。
カニ子は照れるような態度を見せ、サングラスを取る。
やはり、モデルのみうてぃんだ!!
みうてぃんはのAriaの専属モデルで、澪羽という名前以外は全部不明。
Ariaは10代後半から、20代前半の女性をターゲットとにしたファッション誌だ。
みうてぃんはそこのトップモデルで、ちょっとおしゃまなJCから、大人の階段を上り始めたJKJD達のカリスマだ。
「そんなみうてぃんが、どうしてカニ子なのっ!?」
希が訊く。
「……。軽くdisってるよね?」
カニ子は呆れたように、笑って言って
「どうしてって、奥野雅子じゃイケてないから事務所の社長が芸名を澪羽って付けたからよ。正体不明なのも、売り出す時の戦略よ」と続けた。
まだ希と純恋は目を丸くしている。
カニ子はさらに説明するように話を続ける。
「私、第二次性徴が遅かったみたいで、高校になってから卒業までに20cmも身長が伸びたの。見た目も全然変わっちゃって。で、大学受かってこっちに出て来て、たまたま今の事務所の社長にスカウトされたんだ。まあ、バイト探してたし良いかなって。でもね、当時はまだ分厚い眼鏡掛けてて、カッコもダサくって、良く社長もスカウトしたと思うわ」
「でも結果こうなんだから、社長先見の明あるわ!」
「うんうん!!」
「そうかな? でもまあ、仕事としては性には合ってるかもね?」
そうこうしている内に、渋谷のカニ子のマンションに着く。
想像した通りの高級マンションである。
車はそのまま、マンションの地下駐車場へ。
「いくら貰ってんの!? 良くこんな所に住めるわねっ!!」
希が訊く。
「事務所の持ち物よ。商品に変な虫が付かないように、目の届く範囲に置いときたいのよ」
「車も?」
「車は私の。ベンツW114。椎名林檎が好きだったから無理して買っちゃった。色違いよ。毎日、恋愛もせず頑張ってる自分へのご褒美」
オートロックの玄関を潜り、エレベーターでカニ子の部屋へ。
広いリビングに通される。思わずみんな芸能人の部屋はどんな物だ?と
キョロキョロと部屋を見渡す。
窓辺に大きな観葉植物。ローテーブルに大きなソファー。50インチ位のテレビ。
他は目立つ物の無い部屋だ。あえて置かない感じの贅沢だーー。
「さあ、みんなもう芸能人の観察は終わりよ。岸田くんの救出について話しましょう!」
お盆にジュースを乗せて来たカニ子が言った。
「ーーねえっ!?」
急に希が立ち上がり、真面目な顔をして、カニ子に言う。
「何?」
「本気で岸田くんを助けに行くつもり?」
「え?」
「これだけ、成功してるのに全てを失う可能性もあるのよ?」
カニ子は少し考え言う。
「ーー希ちゃん。モデルに必要な物って何か分かる?」
「え? 何、こんな時にーー」
「それは、まず努力と根性。それから1番大事なのが中途半端はしない事。此処で岸田くんだけ犠牲にして逃げたら、モデルとしてだって成功しないわ」
カニ子は真剣な顔で言った。
カニ子は自分が思っているより、ずっとしかっりしていた。
見た目は凄く華やかに変わったけど、中身に浮ついた所なんて無い。
ああ、なんだろ? この感じ。ーー気高さだ。そういう物を今のカニ子に感じる。
「ゴメン」
希は頭の上で手を合わせ、頭を下げる。
思わずそう希の口を突いて、謝罪の言葉が出る。
私はカニ子を見くびっていた。
「なんで、謝るの?」
カニ子は、もう良いよ。と言うように、笑って言った。
「ーーでも、他の皆んなは、どうするかな?」
田辺が言った。
その表情には、不安が浮かぶ。
……。
「大丈夫よ」
カニ子が言った。そして、続ける。
「みんなも夢を見るでしょう?」
カニ子が自分の首元を見せる。そこには紫の痣がーー。
カニ子の言葉に皆んな黙った。
返答出来なかった。
希はカニ子の言葉に思い当たる事があった。
多分、皆んなも見ているのだ。
ーーあの夢を。
あの夢とは、具体的に決まった夢というわけじゃ無い。
夢にシモキンが出て来るのだ。
どんな夢を見ていても、必ずシモキンが出て来て悪夢に変わる。
そして、夢の最後は必ず囚われの岸田が出て来て、拷問を受けている。
起きると腕や体に、夢で負った傷の跡が痣のように浮かんでいる。
痣は二晩も寝れば消えるが、毎晩そんな夢を見る苦痛は精神的に耐えられない。
安眠も全く出来ていない。
皆んなは、言葉で応える代わりに
自分の腕や足に出来た同じ痣を見せた。
「今日来てない他の皆んなも、きっと毎晩同じ夢を見てるわ。そしてーー」
カニ子は一旦部屋を出て、直ぐに帰って来て
「これーー」
とテーブルにあの招待状を出した。
そして、続ける。
「これは、現実のハガキよ。アイツは現実に影響出来るような、なんらかの力もを持ってるって事よ。今はハガキを出す位だけど、もし今以上の力を得る事が出来たなら、どうなるかは分からない。嫌でも、結局は皆んなもう一度シモキンと戦う事になるわ」
「で、どうするの?」
希が訊く。
「とりあえず全員と連絡を取らなくちゃ。あと今、ちょっと伝を頼って野澤先生と岸田くんが今現実世界でどうなってるか、調べて貰ってるわ」
「伝って?」
「こういう仕事してると、無駄に横の繋がりだけ広くなるのよ。浅く広くね。その中に、人探しとか調べ物が得意な人が居るのよ」
この日は、顔合わせという感じで、次回に会うまでに各自他のクラスメイトに連絡を取っておく事にして解散した。
カニ子には驚かされたが、人脈もかなりありそうなので、頼りになる。
田辺と純恋は大丈夫そうだけど、他のメンバーは協力してくれるだろうか?
希は帰りの電車の中で、スマホを上の空で弄りながら、自分に出来る事を考えていた。
ーーあっ!?
スマホが手から滑り落ち転がる。
「ーーはい、お姉ちゃん」
うつむく希の目に、小さな赤い靴が映る。
女の子がスマホを拾ってくれたようだ。
「ありがとう」
女の子から手渡された物を見て、希はギョッと目を剥く。
それは、血に塗れた岸田の頭だった。
両手の上に岸田の首が乗っている。
岸田の首はカッと目を見開き
「希、お前も早くこっちへ来てゲームに混ざれよ」と笑って言った。
「きゃあああああーーーーーーッ!!」
思わず悲鳴をあげる。
気付くと、希は立ち上がり電車の中で、1人悲鳴を上げていた。
乗客達がみんな此方を見ている。
ーー夢!?
私、寝てた??
電車が止まる。
希はそこがどこの駅か確認しないまま、転がったスマホを拾うと、電車から駆け下りた。とにかく逃げなくちゃと思った。
ーー気付くと改札を抜け、駅から外に出ていた。
希は改札の方を振り向く。
これから戻って、また電車に乗り帰る気はしなかった。結局、自宅まで一駅分歩いて帰った。




