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23人目……。

「やったな!」

「やったぁー」

「これで、もうアイツに追い掛けられる事も無い」

「本当に捕まえちゃったね!」

皆の口から、安堵と喜びの声が漏れる。

今まで緊張で硬直していた顔が自然と緩む。

「岸田の背後に、アイツの手が迫った時はどうなるかと思ったよ」

百武のその言葉を聞いて、岸田はゾッとした。自分の想像ではなく、本当にあの時に少年Xの手が迫っていたのだ。ーーとはいえ、今となれば笑い話だ。


「俺もクタクタだ。ーーとにかく、皆んなも今は少し休もう」

岸田が笑顔でそう言った時ーー。


……ギュン。


……ギュン。


……ギュン。


奇妙な音が聞こえる。

岸田達は音のする、大鳥居の方を見る。


少年Xが自らの、体を振り子のように揺らしている。


「……アイツ何してるんだ?」

松田が言う。

「苦しんでるのか?」

百武が言う。

苦しみもがいているようには見えない、アイツは何かを狙っている。

少年Xは腕を伸ばした。あと少しで鳥居の柱に指先が触れる。


「……そうかっ!?」


岸田は気付いた。

「何が、そうかなの?」

カニ子が訊く。

「アイツは鳥居の柱に掴まって、ワイヤーを緩め外そうとしているんだ。あんな状態で体を揺らせば、ワイヤーが首に喰い込むだろうに。化け物がーー」

「岸田、大丈夫だよな?」

松田は恐怖にヒク付いた笑いを浮かべ訊く。

「……。」

岸田はなんとも答えようが無い。


しばらくすると、

少年Xは体を振るのを止めて、自らを吊るすワイヤーを片手で掴んだ。

そして、ゆっくり手だけの力で自分の体を持ち上げると、もう片方の手で掴みまた体を持ち上げる。

そうすると、簡単に大鳥居の滑車の結い付けられた柱に手が届いた。


「……もうダメだ。」

皆んなの気持ちを代弁するように百武が言う。


もう戦う力は皆に残って居ない。それは、肉体的に力が出無いというより、精神が折れてしまったのだ。命を掛けて此処までやったのに、アイツはいとも簡単に罠から抜け出ようとしてる。


少年Xは首に喰い込んだワイヤーが上手く外れずもがいている。

逃げるなら今しかない。岸田が皆にそれを告げようとした時ーー


「ーーうっ!?」


小さく、後ろからそんな声が聞こえた。


振り返ると、サユリの服が血に染まっている。

体の前で握られたサユリの手には、図工で使う小刀がーー。

血はサユリの物ではない。


ーードサッ!?


音を立てて、松田が膝から崩れ落ちる。


「……どうしてだ。」

松田が手で腹を押さえ、呟くように言う。

松田の手は、自分の腹から溢れ出る血で見る見る赤く染まる。

指の間から、血が流れ出ている。


「……松田くんが死ねば、アイツも消えるよ」

サユリは張り詰めるような冷たい声で言った。

「なんだよ?それ……」

松田は苦しそうに息を吐くような声で訊く。

「この中かで、シモキンを直接虐めてたのは、もう松田くんだけだもの。松田くんが死んでくれたら、きっとアイツも消えて皆んな助かるよ。松田くんは全然覚えてないじゃない。シモキンが虐められる前は、私や他の子がアンタ達にイジメられてたのよ? 私は太ってたし、行動も遅かった。それだけで、イジメの的にされた。そんな事、みんな忘れて大人になって、良い人のフリしないでよっ!!何、皆んなの為に頑張ってるのよ!? ニコニコ話し掛けないでよっ! 昔、私に迷惑掛けたんだから、此処で死んでよ?


ーーお願いだからッ!!!!!」


サユリはもう一度、松田を小刀で刺そうとして皆んなに押さえ付けられ止められる。


「止めろっ! サユリ!!」

「放してっ!! こうすれば皆んな助かるのよっ!!」


ーードサッ!


松田は、力尽きその場に倒れ込む。

カニ子が急いで松田に駆け寄る。


「……すまない、サユリ。俺、でも、本当に全然覚えて無いんだよ。勝手だけど……。」

松田はそう言うと、ガクンと首を垂れた。

「ーーカニ子、松田はっ!?」

岸田が訊く。

カニ子は何も言わずに首を横に振った。


少年Xはーー

当然消える事は無い。

今にもワイヤーを外そうとしている。


「どうしてよっ! なんで、消えないのっ!!」

サユリは少年Xが消えない事に、半狂乱になり取り乱す。

目を剥き、頭を掻き毟り、何かブツブツ言っている。

普通の状態ではない。

「サユリ、落ち着けよーー」

佐々木が近寄ると、

「うわっ!?」

サユリに小刀で斬り付けられ、防ごうとした左腕を切られる。

「大事かっ!?」

百武が佐々木に駆け寄る。


「もう、ダメよ。みんな死ぬのよっ!?」

サユリは叫ぶ。

「サユリ、落ち着けよ!」

という岸田の声も、サユリにはもう聴こえていない。

近寄ろうとすると、小刀を振り回すので、誰も近付く事も出来ない。

「こんな所で、死ぬのは嫌っ!! 逃げるのよっ!」

サユリはそう叫ぶと、階段に飛び降りて一目散に走り出した。

階段を下り、元来た方向へ曲がった時ーー。


ーードンッ!


という、鈍い衝突音が聞こえる。


皆はサユリの後を追う。

階段を下り、角を曲がると、そこには一台の白い乗用車が。


車から降りて来たのは、平良希だった。

希は焦ったように、車の下を見る。

車の下には、人の足が見える。


……それは、サユリの足だった。


岸田は死んで教室に居る筈の希が、何で此処に? とは思ったが

それより、まずーー


「早く引きずり出せ!」


岸田の声で、皆んなでサユリを車の下から引き出す。

サユリの服には黒いタイヤ痕が付いている。道が道だから、スピードは出ていなかったろうが、上に乗り上げてしまっている。口にはゴボゴボと血の泡が溢れる。

華菜の最後の姿が思わず岸田の頭に過る。


最後の最後で、予期せぬアクシデントで松田に続き、サユリも失うのか……。

なんて事だ。岸田は歯みした。


苦悩する中、岸田はハッ!? と、ある事をひらめく。

「カニ子、サユリを頼むぞ!!」

岸田はそう言い、それから

「希! 車を前に出せ!!」と告げる。


岸田は希に階段の前で車を止めさせる。

そして、最初に車に繋ぐ予定だった両側にフックの付いたワイヤーを引っ張り出すと、フックの片側を階段の前まで出した希が乗って来た車の後ろのバンパーに、もう片方をワイヤーにフックを掛けて輪を作る。

岸田はその輪を、少年Xの片足に潜らせて引いた。輪は閉まり、少年Xの足首を捉える。

少年Xは、首に巻き付いたワイヤーに夢中で気付いていない。


「希! 全快で走れ!!」

岸田は車の側まで避難して来て叫ぶ。

希は言われた通りアクセルを踏むが、直ぐに少年Xに付けられたワイヤーに引かれ止まる。

少年Xは必死に両手で、柱を掴んでいる。

「そのまま、アクセルを踏み続けろ!!」

岸田はまた叫ぶ!


タイヤはキュルキュルと音を上げ、マフラーからは黒い煙を吐き、タイヤからも煙が立ち登っている。


それでも、岸田から停止の言葉は出ない。

少年Xの手は、ついに大鳥居の柱から外れる。


もう1本のワイヤーだけで、少年Xの首を大鳥居に縛り付けているだけだ。


首と片足を括られ

まるで、捕まった巨大ワニのようにもがく少年X。


ブオッ! キュルルーーーッ!!


希はアクセルを全開にする。

タイヤからは白煙と共に、ゴムの焦げる臭いが辺りに立ち込める。


ミシミシミシミシとーー


少年Xの骨が軋み、皮膚が引き攣る音が聞こえる。


ブチッブチブチッ!!


少年Xの体の中で筋肉が引き千切れる。


少年Xを綱と見立てた、大鳥居と車の綱引きが始まる。


頭の部分の少年が、宙を泳ぐようにグルグルと両手をバタつかせ苦しんでいる。


ウォー

ウォー

ウォー


と喉の奥から捻り出したような不気味な悲鳴が闇の中に響く。

カニ子は思わず恐怖で耳を塞ぐ。


少年Xの首がーー

あり得ない長さに伸びる。

首に喰い込んだワイヤーに、ドクドクと赤い血が伝う。


ブチッブチッ


プシューー


首元から血が噴き出す。



そしてーー


ーーーーーバンッ!!


破裂音にも似た、まるでゴムタイヤでも引き千切れたような轟音が響く。


次の瞬間ーー。


ーーーーードシンッ!! と


大鳥居の下に音を立てて、少年Xの巨体が転がる。


石段は砕け、地面が大きく揺れる。


巨大な手足がバタバタともがいている。



その首からは、大量の血が噴き出していた。


ーー頭は無い。



とうとう、宿敵少年Xの首がワイヤーにより切断されたのだ。


岸田は少年Xの生死を確認するより先に、サユリの元へ向かった。

サユリは既に、皆に見守られながら、息絶えて居た。


小刀はシモキンの家から持って来たのだろう。

サユリはこの計画が失敗した時には、松田を殺そうと思っていたのだろう。

そうすれば、この恐怖から逃げられると信じてーー。

あと少し、恐怖を堪えて居れば助かったのに……。

あまりに、呆気ない最後じゃないか。


サユリはずっと自分のされたイジメを覚えていたのに、やった側の松田は悪気も無くすっかり忘れていた。


岸田の背中に、不意にゾッとする物が走った。


自分も誰かに酷い事をしていて、その事をすっかり忘れてしまっていたらーー?

やられた本人は何十年。もしかしたら一生恨んで居たら?

そういう事は、きっと世の中の何処にでもあるんだ。

自分もそういう身勝手な加害者であるかも知れないのだ。


そしてサユリ自身も、シモキン虐めに、自分も傍観するという形で、加担していた事を忘れている。シモキンは傍観者も、手を差し伸べた者さえも、クラスメイトは全て加害者と見なしている。

そういう意味では、サユリも加害者であるのだ。

みんな加害者側なんだ。


俺達は一体どんな子供だったんだ?

どうしようもない奴しか居ないじゃないか。

俺達だけじゃない。世の中、どの人間だって1回位はこんなクラスに居た経験がある筈だ。

みんな大人になるとそういう事を忘れてしまう。

被害者以外はーー。


いや、でも俺達はシモキンに5年生までは支配されて、仕方なくやっていたんだ。あの時、シモキンを倒せて、今だって少年Xという化け物を皆んなで倒せたじゃないか。


「……どうしよう。私サユリ殺しちゃったよ」

今にも泣き出しそうに車から出て来た希が言う。

「事故だ。それに今は悔やんでる余裕は無いんだ。お前は悪く無いさ」

岸田がそう言った時ーー


「大丈夫さ。安田は生き返る」


どこからとも無く、そう言う声が聞こえる。

しゃがれた声だ。

岸田は辺りを見回す。


「ーーコイツだよ!」


希が階段の上を指差し震える声で言った。

それは、体から引き千切られた少年Xの頭の部分だった。



階段上に上がり、皆で少年Xの頭の部分を囲む。

体の部分は、もうほとんど動かなくなっていた。

こうなってしまうと、ただのXと書かれた布を被った小さな少年だ。

頭に刺さっていた牛刀は、いつの間にか抜けていた。

「布を取ってみよう」

岸田は言った。

「……え?」

佐々木が嫌な顔をするが、岸田は構わずに布に手を伸ばす。

何か脱出に繋がる秘密が分かるかも知れない。

ゆっくり下からめくるように、布を剥がす。


布の下の顔を見て、皆言葉を失う。

誰かがゴクリと唾を呑んだ音が聞こえる。

その顔は、ケロイドに覆われ髪は無い。

目蓋に当たる部分も、皮膚と同化してしまっている。だから、指先に目が必要だったのか。

鼻と口は、一応ある。そのおかげで熊除けスプレーが効いた訳だ。


「……さすがだよ、岸田くん。君はいつもは皆んなと距離を置いているが、こういう時には皆んなを引っ張って行く才能がある。あの時も同じだった」

少年Xがそう言った。


言われた岸田は驚く、声こそしゃがれているが、その口調は優しい。まるで諭すようだ。これが、あの恐ろしい少年Xなのか?


「誰だお前! 岸田を知ってるのか?」

百武が驚き訊く。

「まさか、23人目? 皆んなが知ってるのに、クラスに存在しなかったシモキンに続き、皆んなが知らないのに存在してた23人目のクラスメイトとか言うんじゃねえだろうな!?」

佐々木が言う。


「……みんな、僕だよ」

少年Xは息絶え絶えに言った。

その口調は、確かにここに居るクラスメイト達を知ってる口ぶりだった。


考えて居た岸田は、少年Xの正体が分かった。

「この人は、同窓会に呼ばれた23人目だ。ただクラスメイトじゃない。みんなも知っている。ーーあなたは、野澤先生ですよね?」


皆は岸田の発言に色めき立つ。

それに、追い討ちを掛けるようにーー


「そうだ。ずっと僕は志茂木マリ子に捕らえられていた。アイツの僕達への復讐だ」

と少年Xーー、いや、野澤は答えた。

そして続けた。

「この世界に死はない。死んでも生き返る。リセットさ。まさにゲームだよ。だが、死ねない事こそ、真の恐怖だとすぐに分かる。何度も恐ろしい目にあい、何度も苦痛を受けて殺される。無限地獄だよ。じきに死にたいと願うようになる。ーーどれくらい前だろう? 僕は志茂木マリ子に捕まった。それから、下らない拷問ゲームに付き合わされ、最終的に君達を襲う化け物にされた。意思はあったが、自由は利かなかった。……すまない」


「野澤先生って!? 子供の姿じゃねか!!」

百武が驚き言う。

「何言ってんだよ。俺達だって元は大人だろ」

佐々木が言う。


皆は沢山聞きたい事があったが、野澤の先がもう長くないのを感じ、質問は多くは出来無いと思った。


「先生、聞きたい事があります! シモキンは居なかったんですか!?」

佐々木が訊いた。

「……居なかった。いや、居ないと僕達は思っていた。アイツは志茂木マリ子の悪霊なのか、それとももっと古代からいる怪物なのか。ただ、僕達は大きなミスを犯した……」

「この世界は何なんですか?」

カニ子が訊く。


「分からない。たぶん、あの世とこの世の境目みたいな物だろう。此処には君らみたいに現実的に生きている人間も居るが、死んだ人間も居る。志茂木マリ子が、この世界を作ったのか、それとも元々在ったのか……」

「私、お父さんに会いましたっ!! お父さんも此処に囚われているのですかっ?」

希が訊いた。

「平良先生は死後に自ら此処に来た。君らを守ろうと。志茂木マリ子の実在を、死の淵で知ってね。だが、何も出来なかった。でも志茂木マリ子も霊体には、簡単に攻撃が出来ないから、平良先生はいずれ来る君達の為に此処に残った」

「僕達への復讐ってなんなんですかっ!? 私達だけじゃなく、先生達も何かしたんですか?」

カニ子が訊いた。

「 シモキンの正体は!? 大きなミスを犯したとは何ですかっ!?」

岸田も訊く。


「……すまない。全てに答えている時間はもう無いようだ。やっとこれで解放される」


そう言うと、野澤は光に包まれ消えた。


「糞っ!!」

岸田は自らの足を叩き言う。

皆も、真相にあと一歩で迫れる所だったのにと落胆した。


「ーー後は、私が話すわ」


希はそう言って、服の下から隠していた父に託された日記を出した。


希は日記を皆に渡し、話し出す。

「私が来る前、皆んなが入学してから5年生までの間。クラスは完全に学級崩壊してたの。悪質で暴力的なイジメや度を超えた悪戯が毎日あった。それは年々成長と共に悪化していった。そして、皆んなは大人達に叱られる度に志茂木マリ子の命令だと言った。ーーところで今、皆んなが戦ってたのは少年Xでしょ?」

「ああ、シモキンが描いた……」

と言い掛けて、岸田に疑問が生まれる。

シモキンは今まで分かった事によると、実体の無いモノらしい。少なくとも、小学校時代は、自分達だけにしか見えない存在だった。となると、絵を描く事などできるだろうか?

「描いたのは、松田くんよ」

岸田の疑問に答えるように、希が言った。

「え? 松田は自分がシモキンから絵を奪い、黒板に貼ったってーー」

「野澤先生に怒られた松田くんは、シモキンが描いたと言ったらしいけど、描いたスケッチブックも色鉛筆も全部松田くんの物だった。異常な少年犯罪への興味を煽る行動、それに同調するクラスメイト、野澤先生もその事を危惧しているわ」

「自分では描けないから、シモキンが松田に描かせたのか?」

「それは分からないけど、描いたのは松田君と日記にあるわ。教師達は、そういう問題行動を生徒の心の問題だと考えたけど、村人はそうじゃなかった。シモキンの悪霊の影響だと考えた。でも、それには訳があった。村で生まれた赤ん坊に物心が付く頃、ある不思議な現象が起き始めたの。志茂木マリ子の事を話し出したの。大人も教えて居ない存在をどうやって知ったのか? 村人は不思議がった。そして、その現象が起きるのは、志茂木マリ子と同学年生まれの子にだけ。しかも、子供達の話では目に見えぬマリ子も、子供達と一緒に成長している。村人はそれに言い知れぬ不安を感じていた。それで、シモキンの父親から遠ざけ、幼い頃から、何度もこの赤鷺神社で除霊術を行った。そう思われたのは、シモキンの父親にも原因があったの、シモキンの父親は死んだ娘の人形を作り、まるで生きているように乳母車に乗せて歩き暮らしていた。そして言動も年を追うごとにおかしくなった」

「シモキンや父親以外はどうなったんだ? 死んでいるのか?」

岸田が訊く。


「ええ。シモキンが産まれてすぐに死んでる。町の病院でシモキンは産まれたの。そして、退院の日、家族で迎えに行った。でも帰りにゲリラ豪雨に襲われて、父親は車のハンドル操作を誤り、家族もろとも赤鷺川の濁流の中に転落した。助かったのは父親だけだったーー。除霊をしても、悪くなる事はあっても、良くなる事は無かった。そして、6年の時に呼ばれたのが私の父。父は過去に修復不可能と言われる学級崩壊のクラスをいくつも救った実績から、若くして教頭になり、社会的にも認知される存在だった。父はその時に、後輩の野澤先生を呼んだの。野澤先生は教員免許を持つ児童心理学者だった。今までの教師達はシモキンの存在を否定する方法を取ったけど、野澤先生は違った。シモキンを存在するものとして、生徒の心から切り離す事にした。勿論、先生は存在を信じては居なかったけど、存在すると思っている生徒達には実在していると捉えたの。それから、少しずつ生徒とシモキンの距離を離す事にした。それに、加担したのは転校して来た私。転校当時の私には、シモキンは見えていなかったから。私は父に言われて、シモキンが見える物として皆んなに接し、シモキンへ悪意が向くように仕向けた。そんな中、私に協力してくれたのは岸田くん」

「ーー俺が?」

「そう。岸田くんはクラスから少し距離を置いていたから、言い方は良くないけど、こっち側に引きずり込み易かった。シモキンの悪影響を話し、皆んなから離すように説得した。実は子供にしか見えない悪霊だとか、クラスを支配してるとか滅茶苦茶な事を言って。それで、最終的にあの事件に繋がるーー。シモキンと決定的な決別をする為に、ある計画を立てる。それは、シモキンを殺す事。岸田くんはシモキンの家から、父親が目を離した隙にシモキン人形を盗み出して、首にワイヤーを掛けて屋上から吊るした。架空のシモキンに形を持たせ、決別の象徴として処刑したの。皆んなの記憶にある、あの事件」

「それで、皆んなに無かったシモキンの家の記憶が俺にはあったのか……」

「クラスメイトだけでやった事になってるけど、実は教師達が密かに裏で計画に協力したの。勿論、生徒にバレ無いようにね。屋上の鍵の場所を教えたり、給食中抜ける事を黙認したり。そして、シモキンの父親への非道な行為を子供の為という大義名分で、村人を含めた全ての大人達は見ぬフリをした。当時のシモキンの父親には、訴えるような能力も無かったから。私がシモキンの葬儀に出た記憶だと思っていたのは、首を斬られたシモキン人形を父達がシモキンの父親に返しに行ったのを見た記憶だった。私はこっそり、放課後回収したシモキン人形を野澤先生達が返しに行くのを付けた。私の協力した計画の結末を見る為に。そして、その光景をシモキンの家の庭の隅に隠れて、見ていた。私の父も校長先生も居た。子供の悪戯を謝りに行くのに、キチッと黒いスーツを着て居た。言葉には出さなかったけど、教師達には人形が父親にとっては、生きた娘と同じなのが分かっていたんだと思う。シモキンの父親は、首の切れた人形を抱き、膝を着いて嗚咽を漏らして泣いていた。父達は直しますと言った。たぶん首が取れただけだから、簡単に直ると思ったんだと思うわ。そしたら、シモキンの父親は死んだ子が直せるかっ!! って、凄い剣幕で父達を追い払ったわ。その後、人形を抱いて家に入って行った。翌日気になって、もう一度シモキンの家に行ったら、シモキンの父親が小さな木箱を庭で燃していた。しばらく見てたら、箱が焼けて崩れ中から人形の燃えた頭が転がった。あれはただの木箱じゃなくて、シモキンのお棺だったのね。私はあの時、人形ーー、いえシモキンと目が合った。真っ黒に燃えた毛の無い頭に、黒い目が2つ、じっとこっちを見ていた。私はその時に気付いたの、シモキンの父親が私を見ている事に。そしたらいきなり、マリ子ォォォーーーッ!! って、叫んで私の方に走って来た。私は捕まったら、きっと家に帰れないと思い、怖くて必死に家まで走った。それ切り、私は2度とシモキンの家にも、シモキンの父親にも近づく事は無かった。 ーーー結果として、クラスは普通になった。でも、大人達が想像しなかった事が起きた。それは、生徒達の記憶の改ざん。教師達もシモキンを生きているクラスメイトとして扱った事で、皆の意識の中に強くシモキンを殺したという念が残った。それをイジメによる、シモキンの自殺と置き換えたの。それの辻褄を合わせる為に、記憶が滅茶苦茶になった。そう野澤先生は考えた。そして、シモキンが見えて居なかった私も、まるでシモキンが居たように話すようになった。野澤先生は記憶を修正する事が、生徒のさらなる混乱を招く事になると思い行わなかった。いずれ、大人になり、自ら真実を理解する力を持つ事に希望を繋いだ。ーー全てその教師達が書き記した日記の中にあるわ」

「つまり、大人が架空の存在だと思っていたシモキンが存在し俺達を支配していて、今再び復活し復讐をしに戻って来たって訳か……」


「あんた達は相変わらず、自分勝手ね」


皆が声の方を振り返ると、そこにはシモキンが居た。


「自分勝手とは、どういう意味だ!」

岸田は息を荒くして問う。

「一応、あなた達の勝ちだから色々話してあげるわ。少年Xを倒したから第1のゲームは終了よ。さすが岸田君ね、5人も生き残ったのね。希ちゃんは教頭先生の力を借りてズルしたけど、まあいいわ、裏技って事で。まさか私の呪縛から逃れるなんてね。ーー話す前に場合を移しましょう」


シモキンがそういうと、月明かりに満ちていた世界は暗転する……。



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