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攻防!!

気付くと開け開かれている志茂木家の玄関。


先程まで中から聞こえていた、騒がしい音も聞こえない。


不自然な程に静まり返っている。


少年Xはゆっくりと玄関に近付き、中を覗く。


…………………………



………………。



「ーー喰らえっ!!?」


突如、壁際の闇から現れた岸田が、熊除けスプレーを、至近距離から少年Xに見舞う。


プシューーーーーッ!!


少年Xは面喰らう。


ーーーーッ!!!!!!!!???


「ーーグアアッ!!?」


と声を上げ、Xと書かれた布で覆われた顔を押さえる。

此処へ来て初めて聞く、少年Xの悲鳴。

頭の部分は、少年のような成りとは違い、声は潰れシャガレている。


顔に被った布が仇となったようだ。

熊除けスプレーが染み込んでいるのだろう。少年Xは必死に顔を拭おうとしている。


「今だッ!!」

岸田の掛け声と共に、廊下側の雨戸が破られ、百武、カニ子、サユリが飛び出す。

3人は一輪車を押している。その上には、作った滑車とワイヤーと設置する為の工具箱が乗っている。

3人は、事前の打ち合わせ通り、岸田達が少年Xの注意を引いている間に、軽トラを一目散に目指す。


少年Xはそれに気付き、追おうとするがーー

「行かせるかっ!」

佐々木がそう叫び、パンパンと2発散弾銃を浴びせ掛ける。

散弾銃の装弾数は2発、新たに装弾しなくてはならない。


佐々木が装弾している間に、岸田と松田は火炎瓶を投げ付ける。

少年Xは自分達を捕まえる為に、しゃがんで居るから、腕以外の動きはそこまで早く無い。

少年Xの体に火炎瓶がぶつかり割れ、炎がパッと這うように広がった。


闇の中で、もがき苦しむ少年Xの姿が照らし出される。


苦しんでいるように見えるが、実際どこまで効いているのか分からない。


ーー油断は出来ない。


そう、岸田が自分を戒めた瞬間ーー!!?


炎の中から、少年Xの巨大な手が岸田を捕らえようとする。

その手を、弾を装填し終わった佐々木が、間一髪で撃ち払う。


油断も隙もない!


松田が少年Xの背後から包丁を投げ、すかさず後方援護する。

包丁は、少年Xの背中に刺さる。


ライフルと違い、1発で大量の弾が散弾するから、散弾銃の近距離での命中率は高いが、その分弾1発の大きさはBB弾以下だ。


散弾銃の弾は、用途により幾種類か弾のサイズがあるが、シモキンの父親の散弾銃の弾は主に鳥の狩猟用に使われる物で、2.5mm程度の弾が、薬莢に約500発入っている。

やはり、当たっても致命傷には程遠い。

少年Xにとっては、悪戯する子が手を叩かれた程度だろう。


背中に刺さった包丁を抜こうともせず、少年Xは振り返り、今度は松田を狙う。


ーー1人ずつではダメだッ!!


3人揃い、散弾銃、火炎瓶、包丁の波状攻撃に入る。


此処で武器の出し惜しみはしない。

全て使って、出来るだけダメージを与え、出来るだけ足留めをして置かなきゃいけない!


目の前で、巨大な怪物が炎の中暴れ狂う。

怪獣映画さながらの光景だ。

少年Xが大きく動く度に、地面が揺れる。

ウルトラマンでも居てくれたらと願うが、自分達でどうにかするしか無いのだ。


「百武達は、もう軽トラに積み込んだろう。俺達も行こうっ!!」


岸田は叫ぶ。

そして、最後の仕上げに入る。

火炎瓶を志茂木の屋敷に投げ付けた。

火は瞬く間に、古い木造家屋に広がった。

すぐさまパチパチと音を立てて、火柱を上げ出す。


少年Xの行動に、異変が起きる。

少年Xは急に、体の向きを変える。燃え盛る屋敷を見たと思うと、屋敷へ駆け寄り火を消そうとする。


思った通りだ。

岸田達は、その隙に軽トラに向かい走り出した。


「岸田の言った通りだな」

走りながら、松田が言う。

「確証は無かったが、火を放てばアイツは屋敷を守りに行くと思ったよ。あそこが、シモキンの原点だからな」

岸田が答える。

「でも、あそこで武器を使い切っちまって、本当に良かったのか?」

佐々木が言う。

「仕方ないさ。出し惜しみして、どうにか出来る相手じゃない。もう武器は無いから、次の作戦に全てを賭ける」

岸田が答える。

「そうだな。アイツが火を消している間に、さっさと罠を仕掛けちまおう」

佐々木が言う。

「でも、少年Xはちゃんと大鳥居まで来るかな?」

松田が言う。

「アイツは必ず来るさ。理由は簡単だ。俺達が居るからだ」

岸田が答える。


皆、それを聞き黙った。


そうなのだ。

アイツの行動原理は、自分達を狩る事だ。自分達が居る所には、必ずやって来るだろう。

改めてそれを再認識した時、皆の背中にゾッと冷たい物が走った。


急がねば成らない!


皆、心にそう思った。

追い付かれる事は、すなわち死に捕まるという事だ。


門を出ると、百武達はまだ一輪車の側に居る。


「何をやって居るんだっ!」

思わず、岸田の声が荒くなる。

「……軽トラが無いんだ」

百武は呆然とした声で言う。

「えっ!? 無いって、誰かが乗って行ったのか? 俺らの他に誰かがーー」

岸田のその問いに、カニ子が指を指して答える。力無く指された指の先は、シモキンの家の前の斜面に向かっている。

岸田が道の際まで歩み寄り、斜面の下を見ると、はるか数十m下に燃えている物がある。よく見ると車輪らしき物が見える。


……軽トラだ。


少年Xの方が一枚上手だった。

逃げられないように、あらかじめ軽トラを破壊していたのだ。

どうしようもない絶望感が岸田を襲う。


「……………。」


「どうするんだっ!?」

軽トラを見つめたまま黙っている岸田に、松田が訊く。


どうするか?

此処で作戦を中止するか?

確かに生き延びる事は出来るが、一時しのぎに過ぎないのは確実だ。

それに、今のような立ち向かう勇気を、もう一度皆に奮い起こさせる事が出来るだろうか?


皆の顔を見る。


今自分を襲っている程の絶望感を、まだ皆はそこまで感じて居ないように見えた。

それは多分、自分の存在が精神的な壁となり防いでいるに違いない。自分が折れるか、それでも戦う意思を見せるかで、皆の心も決まる。


岸田はもう一度深く考えるがーー。


長くは悩んでる暇は無い。

門の向こうの少年Xの動向も気になる。

早くせねば、追い付かれてしまう。


岸田は決断する。


「ーー行こうっ!」


精一杯の気持ちを込めて、強く言った。

もう、このまま行くしか無い。


その勢いとは裏腹に岸田の心は、不安に満ちていたが、反対の声は一つとして出なかった。

その代わり、皆黙って深く頷いた。


成功するか、失敗するか、それは何とも言えない。

ーーいや、失敗する確率が大きいだろう。それは、深く考えるまでも無かった。

だが、今は此処まで引っ張って来た岸田に、付いて行く事を皆は決めたのだ。


「ひぃっ!?」

松田が急に、悲鳴に似た驚きの声を上げる。


……門の影に誰か居る?


「華菜ちゃんだよ」

サユリが言った。


「えっ!?」

岸田が良く見ると、確かにさっき死んだ華菜だ。

荷台に横たわって居た筈だ。

どうやら、軽トラと一緒に落ち無かったらしい。

まるで、ただよう風船のように、ユラユラ動きながら、門に向かいゆっくり前進している。


教室で死んだヤツらと同じだ。

一体どういう状態なのだ?

確実に死んでは居るが、自立し動いている。襲って来るわけでもない。意思も感じない。


一輪を交代で持ち、赤鷺神社を目指す。


実は徒歩なら逆に、近道を使えば、車が走れる道を行くより、赤鷺神社までの距離は近いのだ。子供の足でも、走れば10分もあれば余裕で着く。


来た道を戻ると50m程で、二車線の道路に出る。そこを下り進むと、右にすぐ斜面を下る階段がある。階段は山の中へと進み、10m程下りると遊歩道にぶつかる。

そこからさらに、右に300m程蛇行しながら道を下ると、車が何とかすれ違える舗装道路に出る。

そこを右に曲がり、また程50m行った右側に赤鷺神社はある。


遊歩道内は幾重にも分かれている。

昔、良く此処で皆んなで探検ごっこをした。頭で考え思い出すより、体が覚えている記憶の方が早い。


岸田達は何も考えず、ひたすら走った。

道筋は体が教えてくれる。

藪で腕をすり切り、ぬかるみに足を突っ込んでも、気になどしている余裕は無かった。

命が掛かっているのだ。

本当の必死だ。


ーー気が付けば、もう二車線の舗装道路に出ていた。


後、50mだ!


岸田達は着くなり、休む事無く、直ぐ罠の準備を始める。


大鳥居は、十数段の短い階段を登ると直ぐにある。

本殿はさらに、大鳥居のある30m程の短い参道を歩き、10m程の急な階段を登ると在る。


先ず神社の本殿まで行き、皆でハシゴを持って来る。

祭りの時などに、紙垂の付いた、しめ縄を、大鳥居に掛けるのに使っていた物だ。村の子供なら、ほとんど有る場所を知っている。ハシゴは、本殿の右脇に倒してある。


ハシゴを大鳥居に掛け、ロープを引くと、二段になったハシゴが伸び、倍近くになった。余裕で2番目の柱までは届く。


佐々木は、滑車、ワイヤー、工具を、Tシャツの上に着ていたチェックのシャツを脱いで、器用に包み結んだ。そして、持って来たロープを腰に結び、手頃な長さで切り命綱とする。

佐々木は命綱に使って、余ったロープを持ち、慣れた動きで、ハシゴを登り、大鳥居の上から二番目の柱に跨ると、命綱の反対側を1番上の柱に結ぶ。


そして、持って来たロープを、自分が乗る柱に跨るように下ろす。

その片方に、滑車の入ったシャツを結び付けて、もう片方を岸田達が引っ張る。全て鉄で出来た滑車やワイヤーや工具を、佐々木が1人では持って上がれないのだ。体も今は子供である。


佐々木は不安無く、設置を終え、岸田達に完了を告げる。


「1回くらい試すか?」

佐々木が言う。

「いや、いつアイツが来るか分からない。お前の腕を信じるよ」

岸田は言った。


佐々木はそのまま残り、少年Xにワイヤーを掛ける役目を担う。


岸田は赤鷺神社の前の道に出る。


さっき出て来た横道から、大鳥居まで直線50m。

それが勝負所だ。

捕まらず、だがギリギリの距離で、少年Xを誘導しなくていけない。出来るだけ少年Xの頭に血を登らせ、判断能力を麻痺させて置かなきゃいけない。

そうして、まんまと罠に掛ける。


今岸田の居る横道の出口から、50mと逆に更に30m程直線があり、先が直角に曲がっている。その反対側は、行き止まりだ。

来るなら、こちらしか無い。直角から見えたら、ギリギリまで寄せて走り出す。


岸田は頭の中で、シミュレーションを繰り返す。


失敗したら死ぬ、デスレースだ。

2度目は無い!

気休めに過ぎない柔軟運動を繰り返しながら思う。

岸田はふと気付く、自分が柔軟運動でほぐそうとしているのは、筋肉ではなく緊張と恐怖なのに。足が小刻みに震えている。

いや、違う!? 地面が揺れている。そう思った瞬間


ーー遠くから、地鳴りが聞こえた。

音は瞬く間に大きくなる。

地響きを轟かせて、破壊音が近付いて来る。


来た!


角からぬっとアイツが顔を出した。

少年Xだ!


動きを止め、じっとこちらを見ている。

うかがっているのだ。

襲い掛かるタイミングをーー。


少年Xの体からは、煙りが登り、黒く焦げている。もう敢えて、怒らせる事も無さそうだ。少年Xは、肩で大きく荒い息をしている。

あれだけ、静かに俊敏に動けるアイツが、まるで気配に気を使う事無くあれだけ音を立てて来た。まるで感情を露にしているようだ。

屋敷に火を放たれた事が、よほど腹に据えかねたのだろう。

あの布の下の素顔は怒りに満ちているんだろうか?


アイツが動き出した瞬間が、スタートの合図だ。

1人と1匹の間に、長いのか、短いのか、分からない時間が流れる。



少年Xが一瞬、低く腰を落としたと思った。


(ーー用意)


少年Xは、体を起こす動きから、そのままダッシュに動きを繋ぐ。


(スタート!!)


岸田は走り出す!!

デスレースのスタートだ!


岸田は夢中で走った。

背後に轟音と共に、凄まじい恐怖が迫る。

少年Xの伸びゆる手を感じる。振り返る余裕など無いから、そんな物が実際あるのかは分からない。だが、とても現実味を帯びた手の存在を感じる。

これは、恐怖が見せる想像だ。


自分の想像力に囚われるな!


岸田は気を奮い立たせる。

階段の入り口の高くなっている所に、百武が見える。

百武が手を挙げる。佐々木への少年Xが、大鳥居の入り口まで来たという合図だ。


あと少しだ!

大事なのは、階段へ入る時の直角の方向変換だ。

そこは、減速とバランスの崩れという2つのリスクがある。

ちょっとした失敗が死を招く。


だが、それは少年Xも同じだろう。

しかも、アイツは体がデカイ。いくら俊敏に動けても、大きさの分、狭い場所では小回りは万能には効かない。

下らないミスさえ無ければ、大丈夫だ。問題無い!


岸田はスピードをなるたけ殺さずに、細心の注意を払い、最小角度で方向を変える。

体が、曲がる方向の内側に倒れ込む。

岸田は曲がり終えると、直ぐに体勢を直し、落ちたスピードをまた戻す。


絶対に、追い付かれる訳にはいかない。

俺に着いて来てくれた皆んなの為に。そして、死んでいったクラスメイト達の為にーー。


背後で、大きな破壊音が聞こえる。

少年Xは曲がり切れずに、階段の前で転び転がったようだ。

ざまあみろ。

だが油断はできない。もう体勢を立て直し、こちらを追い始めている。

すぐ背後に迫る気配を感じる。

少年Xよ、出来るだけ怒れ。目の前のワイヤーに気付かぬくらいに。


頭上の大鳥居の2番目の柱の上に、闇に紛れたワイヤーを持った佐々木が見える。


岸田が階段を登り終えた瞬間ーー。


ズドンッ!!!!!!!!!!!


と凄まじい音がして、地面が大きく揺れた。

岸田はその衝撃で、30mの参道を20mほど走った所で転び転がった。


岸田は体を起こし、後ろを振り返る。


大鳥居の柱に掛けられた滑車のワイヤーに、少年Xが繋がれもがいていた。


成功だ!


皆は大鳥居の前の階段脇にある、高くなった場所からワイヤーをひている。

佐々木も滑車を大鳥居の上まで引き上げたロープを使い、下に降りて滑車に繋がったワイヤーを皆んなと一緒に引いている。


岸田もよろけそうになる両足に喝を入れて、皆の場所を目指す。

大鳥居の前を横切る時少年Xの手が伸びるが、岸田までは届かない。

少年Xの手の及ばぬ範囲を通り、岸田も合流し、皆とワイヤーを引く。


重さだけでなく、想像していたより暴れる反動が凄い、それでもゆっくりゆっくりとワイヤーは引かれた。


オーエス!


オーエス!


いつに間にか、皆はそう掛け声を上げていた。

太く見えたワイヤーも、巨大な少年Xを目の前にすると、細く見えて心許ない。

持つだろうか?

手には血が滲む。それでも、決して放すまいと皆は必死に引いた。


しばらくの攻防が続き。

ーーそして、ついに少年Xのつま先が僅かに浮く。

体が浮いてしまえば、自分の重さに少年Xは縛られる事になる。


「ヨシッ! 百武、今だっ!!」


岸田の呼びかけで、百武はワイヤーの先のフックを掛ける為に輪した部分を、自分達が居る場所を囲う、玉垣の一本に数回巻き付けピンと張り、引っ掛ける。輪の結び目に当たる部分は、ワイヤーに鉄板を巻き付けて溶接してある。簡単に解ける事はない。


玉垣とは神社仏閣に有る、石で出来た柵の事だ。1本の太さは大人の太もも程もある。十分、滑車で軽減された少年Xの重さに耐えられるだろう。


やったあーッ! と皆から一斉に声が漏れる。

ついに少年Xを捕らえた。



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