表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/25

志茂木家

「華菜は?」

佐々木が訊いた。

カニ子は辛い顔をし、首を横に振った。

華菜の容態は良く無かった。

はぁ…はぁ……と、華菜は荒く息をしている。

頭には大きな裂傷が、いくつも有り。体も血だらけで、もうどこが傷なのかも分からない。手当しようにも救急用具も無い。だが、もしあったとしてもーー。

シモキンの家の側まで着いたが、華菜はもう……。

息をしているだけで、動く事はおろか、言葉も発しない。

荷台に載せられた華菜を皆で囲み今最後を看取っていた。


「華菜ちゃん頑張って!」

サユリが血に塗れた華菜の手を握り言う。

「……サユリちゃん。…私……まだ…死にたくないよ……」

此処へ来て、華菜が初めて言葉を発した。小さく息を吐くような、か弱い声だった。

「大丈夫だよ。一緒に帰ろう」

サユリの目から大粒の涙が溢れた。

皆で華菜を見守った。

「ゴフッ!」

華菜は血を吐いた。

「きゃあ!」

サユリの顔に大量の血が掛かる。

内臓も破裂しているのだろう。腹に中に血が充満しているのだ。

華菜は最後の力でギュッとサユリの手を握り、少し体を仰け反らすと、間も無く息を引き取った。

「華菜ちゃんっ!」

サユリは叫び、華菜に縋り付き揺さぶる。

「そうだ。シモキンの家に、何か手当て出来る物が有るかも知れないよ!」

「……もうダメだよサユリ。……死んでるよ」

松田がサユリの肩に手を置き言う。

「なんでよ! なんで、こんな目にあわなきゃいけないの? 私も華菜ちゃんも見てただけっ! シモキンを直接イジメたりなんかしてない!! なのに、なんでこんな目にあわなきゃいけないの? 松田くん達じゃない。直接シモキンをイジメてたのは! 松田くんが死ねば良かったんだよ! イジメた人が皆んな死ねばきっと帰れるよ!! そうだよ! イジメた人が、みんな死ねばいいんだよ!!」

サユリは涙と共に、溢れる感情ぶちまけた。

松田は何も言えなかった。自分が田辺に言った事を思い出しているのだろう。

「やめろって、サユリお前の気持ちも分かるけど、今は揉めてる場合じゃない」

岸田は言う。

「そうだよ。サユリちゃん今から皆んなで此処に入らなきゃ行けないんだよ」

カニ子も言った。

そう言われてサユリは我に返ったように、カニ子の後ろを見上げるように見る。

そこは、シモキンの家の生け垣だった。

巨大な黒雲のような生け垣には、沢山の不気味な人形が吊るされていた……。


皆は華菜の遺体を荷台に寝かせたまま、次の一歩を踏み出す。

一応、まだいくらか残って居る熊除けスプレーもリュックごと持って行く。

いよいよ、志茂木家の屋敷の中へ、進まなければ行けないのだが……。


「嫌だよ。こんな中……」

サユリが、カニ子にしがみ付くようにして言う。

目の前には、巨大な森のような垣根がそびえ立っている。その真ん中に小さく入り口が口を開けている。左右の木が伸び過ぎて繋がり、トンネルのようになっているのだ。小さなトンネルに見えるが、子供の身長に成った岸田達の背から見ても、大人はゆうに入れる位はある。つまり生け垣自体が、伸びに伸び巨大な木の壁になってしまっているのだ。トンネルが大人の背丈くらいだとして、4mくらいは有るのでは無いか?

そして、トンネルの奥は、深いのか浅いのかも分からない漆黒の闇だった。

この奥に進むのは、簡単な勇気ではない。


更に不気味なのは、生け垣に吊るされた人形だ。人形自体は特別なものでは無い。玩具のキャラクター人形から、フランス人形、ぬいぐるみ、着せ替え人形、セルロイド人形と、有り触れたものだが、全部幼い少女をモチーフにした人形だった。それが数十体と、生け垣には吊るしてある。しかも、雨風で人形は汚れ、カビが生え、朽ち始めている。まるで、人形の首吊り死体だ。


「行こう」

岸田が言う。

「嫌だよ。だって此処、だって……5人殺しの家じゃん」

サユリが言う。

当然みんなもその事は覚えているのだろうが、あえて口には出さぬようにしていた。

押し殺した恐怖が湧き上がるからーー。

全員の顔色の変化を見れば、それは分かった。皆それを聞き、顔を暗くしてた。

「じゃあ、お前だけ此処に残れ!」

あえて岸田は厳しく言った。

そうしないと、恐怖に皆が支配されると思ったからだ。

「……。」

サユリはうつむき黙った。

「一緒に行くな? 確かに、バラバラに逃げた方が逃げられる可能性が高いが、今回の場合は違う。ただ、一気に殺されるのではなく、順番になるだけだ。シモキンや少年Xからは逃げられない。でも、皆んなで力を合わせれば、これまでのように、生き延びられるチャンスが増す」

サユリは岸田の熱弁を聞き、小さく頷いた。一緒に行く事を承諾した。

岸田は逃げ切れるとは言えなかった。あくまで今のままでは、生き延びられるだけだろう。その事に、サユリが気付く事は無かった。


一時中断したが、今度こそ生け垣のトンネルの中に第一歩を踏み出す。


生け垣を抜けたが、抜ければすぐ家だと思ったが、しばらくまだ屋敷まではあるようだ。振り返り気付いた。垣根の裏に立派な門が在った。いや、たぶん元々門があってその周りに勝手に木が茂り、垣根のように見えていたのだ。そんなになるまで、放って置いたシモキンの父親の精神状態を考えると、気が重い。


屋敷までの道の左右に生えている木々には、生け垣だと思った木々に吊るされていたのと、似たような人形が沢山吊るされていた。

人形の目がたまに懐中電灯の灯りを反射した。まるで何百という人形の目に見られているようだ。なんとも言えず居心地が悪い。木の陰から、今にもシモキンが出て来そうだ。逃げ出したい気持ちを押し殺し、皆で体を寄せ合い進んだ。


やっと家の玄関が見え始める。確かに大きい屋敷だった。伝統的な日本家屋の造りも歴史を感じさせる威厳があった。それが、さらに恐怖心を煽る。

ガラガラと音を立てて、玄関の引き戸を開ける。

昔ながらの農家の玄関は広い。丸々一部屋くらいある。そのまま、土間が名前の通り土で、そこに農機具や工具などを置いている。農機具の脇には 、ガラクタがうず高く積まれていた。


「ごめんください……」

カニ子が言う。

「おい止めろよ! 中から、シモキンの親父が出て来そうで気味が悪いよ」

百武が言う。

シモキンの親父は貧乏なだけでなく、気味の悪い男だった。子供があまり近付くと、影で大人達から戒められるような存在だった。

「いいから、行くぞ」

岸田が言う。


家に上がりーー。


「よしシモキンの部屋を探そう。これだけデカイ家だ。自分の部屋くらい在るだろう」

岸田が言う。

「なあ? シモキンの部屋ってどこだ?」

松田が訊くが、誰からの返答もない。

シモキンの部屋ーー?

思い出せない。


また記憶が、抜け落ちているのか?

いや、父親があんなだったし、シモキンとは遊んでいても、家には行ったっ事が無いのだろう。あの生け垣の人形達を見た記憶も無かったし。皆んなの反応も今日初めて見た様だった。

親がヤバくて行かない家と言うのは、他にもある。例えば、岡田の家だ。岡田の父親は、少し気性が荒く酒癖も悪くて、岡田も家には友人を呼びたがらなかったし、皆も行くのを避けていた。

ーーいや、それより何より此処は5人殺しの家だ。子供は普通は避けるか。

来るとすれば、肝試しくらい。


「とにかく、順番に部屋を見て行こう」

考え岸田は言った。

今は急がば回った方が良いだろう。


入り口から順に、黒光りする木の廊下を進み、部屋を見て行く。

昔の廊下だから、歩く度に床がキシキシと音を立て軋む。その音が実に不気味だった。

上がって直ぐ左に台所があり、居間、いくつかの客間を見て行く。

この中の何処かで、愛人が鉈で撲殺されーー。

多分娘達が青酸カリで死んだのは、さっき見た居間だろう。

どうしても、そんな事が頭をよぎる。

「……なんか、お化け出そうで俺嫌だよ」

百武が怯え言う。

俺だって嫌だよ。と、岸田は思うが敢えてそれを口には出さない。


1階を見終わりる。

そして、途中で見付けた階段に向かう。

昔ながらの、急な階段だ。床と同じに、黒光りしている。

階段を登る。階段も一歩登る度にキシキシと音を立てた。

多分、2階は元々養蚕をしていた場所を改装したのだろう。

敷地内にはこの大きな屋敷だけだ。他に養蚕をやっていたような建物は見当たらない。

階段を登って、すぐ左の部屋を開ける。


「ーー此処だ」


松田が言った。

子供用ベッドに、机、ランドセルもある。

全て女の子物だ。松田が椅子に掛かった赤いランドセルを取る。松田が調べているランドセルを、皆んなも一緒に見る。脇の名札を挿す中に『志茂木マリ子』の名が書かれた名札がある。

確かに此処は、シモキンの部屋だ。

ランドセルの中には、ちゃんと教科書、ノートがあり。そして筆箱には鉛筆、消しゴム、ハサミ、カッターなども入っていた。

部屋の中を見回す。

箪笥には、女の子用の服。本棚には、当時流行っていた少女漫画。

確かにシモキンは此処に居たようだ。

ーーなら、なぜ卒業アルバムには写真も名前も無かったんだ?


「なんか、おかしく無いか? 」

まだランドセルの中を調べて居た松田が言った。


「何がだ?」

岸田は訊く。

「一通り揃ってるけど、全部綺麗すぎないか?」

「え?」

良く見ると確かに綺麗だ。いや、綺麗というよりーー。

ノートをめくる。使われてない。文字1つ書かれて居ない。

教科書は折り目も無い。開かれた形跡も無い。

鉛筆は削ってはあるものの、使った形跡が無い。長いまま。たぶん新品を削った時のままだ。消しゴムも、使った形跡が無い。

他も良く見れば、ランドセルも、箪笥の中の服も、椅子も机も、ベッドも、使われた形跡が無い。

「これ全部、新品だ」


そう岸田が言った瞬間ーー。


頭の中で、何かがパッ! とスパークする。

頭の中が白くなる。強い光だ。

そして、一瞬映像が見えるーー。

光と映像が、ストロボを連続して焚くように交互する。

記憶のフラッシュバックだ。


ーー自分達は何処かに集められてる。

クラスメイト全員居るようだが、年齢が6年の時より下に見える。


いや、確実に6年より下だ。平良希が居ない。希が転校して来たのは、6年の時だ。

名札が見える。5年とある。これは5年生の時の記憶か?


周りには村の大人達だ。

村の長老の高根の婆さんが、炎にゴマを焚べ、合わせた手で数珠を摩り、ブツブツと何かを祈っている。眉間に深くシワを寄せ、額には大粒の汗が浮かぶ。

高根の婆さんは、赤鷺神社の巫女だ。赤鷺神社には神主は居らず、祭事を仕切る巫女だけがいる。

自分達の親達も居て、みんな同じに一心不乱に汗を垂らしながら、合わせた手で数珠を摩り祈っている。

多分、此処は村の神社だ。


…………!?


はっ!?

岸田は我に返った。


「何だよ今の!?」

松田が驚いた顔をして言った。

皆んなも、同じ面食らったような顔をしている。

「お前らも、見えたか? 高根の婆さんと、村の大人達、あそこは赤鷺神社だろ?」

岸田は訊いた。

「ーーああ。お前も見たのか? 皆んなもか?」

と代表するように松田が訊いた。

松田の問いに、皆も頷き応える。

「何だったんだ今の? 忘れてしまっている記憶の断片か?」

岸田は考えるが、考えたところで思い出せなければ意味は無い。


「ーーねえっ!? あれ!」

カニ子が突然声を上げる。


「え?」

と、岸田がカニ子の言う方を、振り返り見ると、いつに間にか見知らぬ幼い少女が3人並んで入り口に立っていた。 彼女達は、青白く輝き、古い着物を着ている。

多分、人間ではない。岸田は直感的にそう思った。

少年Xのような化け物で無くとも、少なくとも生きた人間では無いだろう。


ーー彼女達は多分、志茂木家の毒殺された三姉妹だ。


三姉妹は揃って胸の下辺りで、幽霊みたいにダラリと下げた左手を振る。

おいでおいでをしている。

そして、消えた。


「だから、嫌だって言ったんだよぉー!」

百武は今にも泣き出しそうだ。

「おい、今のーー」

と松田が言っている途中で、岸田は走り出す。

「おいっ!? 岸田ーーっ」

背後で松田の声が聞こえる。

廊下に出ると、階段の下が青白く光って消えた。岸田は急いで光を追う。

皆も岸田を追った。


岸田は階段を下ると、左右を見て、顔を止める。

右側の廊下の角から光が漏れている。

岸田も光を追い角を曲がる。今度はその先の角から、光がーー。

そして、光はある部屋の中へと続く。


ーーそこは客間だった。


客間の前まで来ると、障子を透かし青い光が漏れている。

岸田は少し空いている障子を開け中に入る。


入ると三姉妹が、横に並んで何かを指差している。

「岸田っ!大丈夫かっ!?」

松田達も部屋に入って来る。


……。


威勢良く入って来たは良いが、状況を見て松田も他のメンバーも固まる。

「こいつらなんだ?」

松田が訊く。

「たぶん志茂木家の5人殺しで死んだ三姉妹だと思う」

岸田が答える。

「こいつら、何を指差してるんだ?」

松田がそう言った瞬間、三姉妹は消えた。

「あいつら、どこ行ったんだっ!??」

松田は焦って言う。

「分からないが、とにかく指差してた場所を見てみよう」

岸田は言う。


三姉妹が指差していたのは、志茂木家の仏壇だった。

古いが、かなり大きく立派な物だ。まるで箪笥のようだ。漆が塗られ、細かな金の蒔絵が全体に渡り描かれている。普通の家にはこんな仏壇は無い。

いかに志茂木家が栄えていたか分かる。


不意に岸田の記憶の断片が蘇る。


ーー此処を見た事がある。

……今見ている仏壇を見た記憶がある。

やはり俺は此処へ来ている?


岸田は、仏壇の観音扉を開く。

懐中電灯を向けようとした時、勝手にぽうっと2つ燭台の蝋燭が点く。

仄暗い闇の中に、位牌が沢山並んでいる。まるで墓場のミニチュアだ。

戒名で誰が誰だか分からない。

「取り出して見よう」

岸田が言う。

岸田が1つずつ取って、カニ子に渡す。


全て出し終え、位牌を1つ取り見る。

戒名の書かれた裏に、


『俗名 志茂木松蔵 』


俗名ーー、生前名乗っていた名前があった。

これはあの生き残った赤ん坊。松蔵の物だ。

それと


『行年 六十三才』


とある。これは死んだ時の年齢。享年という事だろう。


表には、戒名の右に


『昭和○年」左に『○月○日』


とある。

これは死んだ日だろう。


古そうな物から、順に見て行く。


『志茂木カエ 行年二十七才、大正○○年○月○日』


これは、自殺した松蔵の妻だろう。

そしてーー


『俗名 志茂木佐枝子 行年七才、大正○○年○月○日』

『俗名 志茂木菜絵子 行年五才、大正○○年○月○日』

『俗名 志茂木香子 行年四才、大正○○年○月○日』


これは、毒殺された娘達だろう。

年齢や、全てカエと死んだ日にちが同じである事からも、分かる。

続いて、割と新しい位牌ーー。


『俗名 志茂木松吉 行年六十三才、 昭和○○年○月○日』

『俗名 志茂木早希 行年 六十一才、昭和○○年○月○日』

『俗名 志茂木佳奈恵 行年二十三才、昭和○○年○月○日』


「これらは祖父母と母だろうな? 年齢や死んだ歳から考えても。やっぱ死んでたんだな」

松田が言った。

「でもなんで、祖父母と母も死んだ日が3人共一緒なんだ?」

岸田が不思議そうな顔で言う。


「おい! これーー」


百武が今にも泣きそうな声で言う。

百武が持つ位牌には


………………俗名 …


………志茂木マリ子


の名があった。


「なんでだよ! なんで、シモキンの位牌があんだよ!」

松田は取り乱す。

「待て、先ずちゃん見てみよう」

岸田は、松田をなだめ言う。


『志茂木マリ子 行年一才、昭和○○年○月○日』


確かにそう書いてあった。死亡日は祖父母、母と同じーー。

「じゃあ、本当にシモキンは居なかったのか? 俺達の頭の中にある、シモキンの記憶はなんなんだよ?」

と松田が言う。

「なあ、こういうのは数え年で書くんだろ? 1才って事は、0才だろ? つまり、シモキンの死んだ年って、俺達の生まれた年だろう」

と佐々木が言う。

岸田はそれを聞きーー、

シモキンの死んだ昭和○○年は、確かに俺の生まれた年だ。と思った。

佐々木は続ける。

「次の年の奴も居るだろうが、生きてればシモキンと学年は一緒になる。これってどういう事だ? 単なる偶然か?」


「ねえ? これ何?」

サユリが仏壇の中から、何かを見つけて持って来る。


それは小さな写真立てだった。

埃を拭うと、そこにはシモキンの父親と、シモキン? いや違う。

実物大の少女の人形だ。父親が膝に乗せている。

「何これ? 人形?」

カニ子が首を傾げる。

「なあこれ、シモキンに似てないか? 服がーー」

佐々木が言う。

確かに、この服はさっき見たシモキンが着ていた物だ。

佐々木は続ける。

「……俺達はガキの頃こいつと遊んでたのか?」

「……さすがに、それは無いだろ」

松田が苦笑いをして否定する。


シモキンの事を調べに来たが、

ーー余計分からなくなった。


記憶の中のシモキンとーー今見ている物が現実ならーー全然違い過ぎる。

幼かった俺達には、2つの世界が存在していたのか?

シモキンの存在する世界と、シモキンの存在しない世界。

さっぱり分からない。


とにかく、もう少しシモキンに対する情報が必要だ。岸田達は、もう一度シモキンの部屋を調べる事にした。


「やっぱ使った形跡ねえな」

松田が、シモキンの机の中の文房具やらを見ながら言う。

懐中電灯と、仏壇から燭台ごと持って来たロウソクを灯りに探索を再開した。

この部屋の中に、シモキンの正体に繋がる何かがあれば良いんだがーー。


「でも、シモキンのお父さん、死んだシモキンの為にこれ全部集めたのかな? 下着まであるよ」

カニ子が洋服ダンスを開け言う。


きっとそうなのだろう。

俺たちの記憶は一先ず置いて置いて、この家では1人の父親が、死んだ娘を生きているものとして暮らして居たのだ。それは確かだろう。


ランドセルの中の教科書は、6年生の物だった。覚えてはいないが、多分俺たちが6年生の時に使っていた物と同じだろう。

今この部屋にある洋服のサイズは、カニ子やサユリと同年齢くらいの女の子物だ。

普通に考えて、6年生の時だけ買い揃えたという事はないだろう。きっと、父親は毎年死んだ娘の成長に合わせて買い換えて居たのだ。


そして、あの人形だ……。

あの人形は、何なんだ?父親はアレを娘の代わりにして居たのか?


「ね、ねえ!あれっ!?」

サユリが只ならぬ声を上げる。


今度は何だ? と、岸田はうんざりしながら、身構える。

サユリは窓を見ていた。

窓ガラスの外に、少年Xが張り付いて居た。あの指の先に付いた巨大な目玉で、室内を見回している。


疲れと、何となく予想が出来て居たのもあって、岸田はさほど驚く事は無かった。

アイツが激流であるとは言え、川に落ちたくらいで、死ぬとは思っていなかった。

問題だったのは、いつ追い付いて来るかという事だけだった。

だが、想定外の事もある。


「アイツ入って来ねえな? 」

松田が言う。

少年Xは窓から見ているだけで入って来ないのだ。

「入って来れないんだろう。家が壊れるからな」

岸田は考えて答える。

「え?」

「此処はシモキンの生家だ。アイツに取っても特別な場所なんだろう」

入って来ない理由は、その程度しか考え付かない。

「じゃあ、此処に居る間は大丈夫だな」

「ああ、でも此処に缶詰じゃ、じきにこっちも参っちまう。食べ物も無いだろう、兵糧攻めだよ」

「どうする?」

「時間があるのは、良いことだよ。これから考える。皆んなも休める時に休もう」


やはり、思った通り少年Xは入って来れないようだ。

さっきまで窓から覗いていたが、今は恨めしそうに庭を右へ左へ徘徊している。

あれから、どのくらい過ぎたろう。30分と言えば30分の気もするし、

2時間と言えば2時間の気もする。

シモキンの家には大きな置き時計が有るが、動いてはない。時間が分からない。


「嫌になるぜ。まだ頭に包丁が刺さったままだぜ。いい加減死ねよ」

松田が窓の外を見ながら言う。

岸田は松田の肩越しに、庭に居る少年Xを見る。庭を徘徊している少年Xの頭には、まだ牛刀が刺さっていた。

アイツは殺せないだろう。少なくとも、切ったり刺したりだけでは無理だろう。せめて動きを封じられればーー。

岸田は考える。


熊除けスプレーを持って来たのは正解だ。一応、熊除けスプレーは少年Xに効く。

だが、それでも一過性の効果だ。今はピンピンしている。


恐ろしい事だ。登山をするから熊除けスプレーに対しても、一通りの知識はある。

熊除けスプレーの威力は、馬鹿に出来ない。

熊除けスプレーと、対人用の催涙スプレーでは、まるで違うのだ。熊除けスプレーが人の肌に付けば、水膨れになったり、ただれたりする。目に入れば視力の低下、最悪失明する。それほど強力な物であり、絶対に人に対しては使ってはいけない物だ。

それはまた、クマの肉体的強靭さを示していると言って良い。クマはそれくらいして、やっと追い払えるレベルなのだ。もちろんクマに致命傷を与えるような効果は無い。


それほど強力な武器である筈なのに、少年Xは熊程にしか効いていない。ダメージを負っている事は、まず無いと考えた方が良いだろう。

懲りずに追って来る所は、ある意味熊以上の化け物だ。まるで殺人マシンである。

赤鷺川に落ちたのは逆に少年Xにとっては、熊除けスプレーを洗い流せて、好都合だったろう。そう思うと悔しい。


熊除けスプレーは脱出に使えそうだが問題点がある。

それは、使用回数だ。自分の知識では熊除けスプレーは10秒程で使い切ってしまう量しか入っていない。基本使い捨てみたいな物だ。

カニ子が噴射したのは一瞬だが、咄嗟だったし、状況が状況だ。自分の記憶も定かであるとは言い切れ無い。5秒程と考えた方が良いだろう。ーーとすると、残り半分。使えて後1回だろう。どこで使うか慎重に考えねばならない。


熊除けスプレーは脱出には使えそうだが、それは一瞬少年Xを怯ませる程度だろう。

それ以外にも、脱出を確かにし。出来れば少年Xの動きを封じられる何かが欲しい。

どうするかーー。

自分達の持ち駒は、熊除けスプレー程度。


このまま、此処でじっと考えていてもらちがあかない。

何か使える物を見付けて、それを元に考えた方が良さそうだ。

「俺は少し家の中を見て来るよ。何か使える物が有るかも知れない」

岸田は言った。

「俺も行くぜ。この中に居る内は、全員で固まって無くとも平気だろう」

松田は言う。

「そうだな。ただ、此処からは移った方が良いだろう。少年Xにこっちの行動を勘ぐられそうだし。外から見え無い場所に全員で移ってから、探しに行こう。出来るだけこっちの行動は悟られない方が良い」


まず、自分達がまだシモキンの部屋に居ると思わせる為に、カーテンを閉めて蝋燭の灯りだけを残す。希望的観測だが、カーテンの隙間から多少なりとも灯りが漏れれば、まだ部屋に居ると思わせられるだろう。


それから、外からは見えない部屋を探すがーー。


雨戸が閉まっているので、1階はどの部屋も外からは見えないが

雨戸は外からでも開けられてしまう。


2階も雨戸を閉める事も出来るが、1階と同じ理由で除外する。

それに、雨戸を閉める為に窓を開けて身を乗り出すのは危険だ。

入って来ないが、手が届く場所なら、アイツは捕まえに来るだろう。

カーテンを閉めれば、カーテンを閉めた事で居る事に気付かれる可能性もある。


部屋というものは基本的に、明かりの為に外光を効率良く取り入れるように出来ていて、意外に外から中が見えない部屋というのは見つからないものだ。


その中で見つかったのが、お風呂場と台所だ。

この2つとトイレは、プライバシーを守る為だろう、外からは他より見え辛いように造られている。


という事で、台所に移動する。

外からは見えないと言っても、当然台所にも明かり取り用の窓が流しの上にある。その窓には雨戸はない。高い所にあるので、普通の人間には中は覗けないが、少年Xのデカさなら簡単に中を覗けてしまう。だが、磨りガラスである為に、中を直に見る事は出来ない。でも、灯りを点ければ居場所がバレてしまう。

そこで、流しの上にある窓を客間から外したフスマで塞ぐ。丁度フスマを横にすると窓全体を覆える。四隅の隙間は、見付けたガムテープを貼り塞いだ。これなら灯りを点けても分からないだろう。

外から見れば中は暗いから、フスマで塞いだのに少年Xが気付く事は無いだろう。


そして、2階の他の部屋のカーテンを少年Xに気付かれ無いように全て閉める。

そうする事で、居場所を特定出来なくし。撹乱出来る筈だ。


探索組以外、全員台所に残る予定だったが、やはり少年Xの動きを誰かが監視する必要があるだろうと。2階のシモキンの隣の部屋に、百武と佐々木が監視役として残る事にした。

シモキンの隣の部屋は、父親の部屋のようだった。


岸田、松田、が探索。

カニ子、サユリは台所で待機。

佐々木と百武は見張り組だ。


「ヨシ! じゃあ何かあったら、百武教えに来てくれ。俺達は脱出に使えそうな物を探す!」

岸田が言う。

「おう、分かったよ! 任せてくれ!!」

百武は胸を拳で叩き言う。


「これは、どうだ?」

まず手近な所から、松田が台所の下から包丁を出す。

「お前が投げれば、足止めにはなるだろうけど、決定的な武器にはならないだろうな。アイツ今も牛刀頭に刺したまま動いてるし。でも、お前は持っとけ。何かの時に、またぶん投げれば足止めは出来る」

「おう分かった。ーーで、お前的には、どういう物が具体的に必要なんだ?」


「ーー分からない」


「分からないって、おい」

松田は呆れたように、苦笑する。

「ただ考えても埒があかないから、此処に有る物から考える。だから、何でも使えそうな物は、持って来てくれ」

「ふーん。分かった」


アイツの動きを止めるには、直接的な武器ではなく一捻りいる。

いや、二捻り、三捻り、いるだろう。

もっと、工夫をし策を練らなきゃいけない。

皆んなで力を合わせないと倒せない。

その為の武器が要る。みんなの力を集中させ使えるようなーー。


2人は懐中電灯を片手に、場所を移動する。

懐中電灯は明かりが周囲に漏れ無いように、回りを紙で囲む。これで、明かりは広がらず、前方にのみ照らされる。雨戸は大分の場所が閉まっているが、小さな窓に雨戸は無い。外から移動する明かりが見える可能性は、大きく軽減されるだろう。


居間、客間、各部屋、風呂場まで見る。

めぼしい物は無い。

というより、シモキンの家は物が少ない。家族が暮らして居たとは思えない。

やはり、父親1人で生活していたのだろう。

布団や他の家族の衣類も有るには有るが、何年もそのままのようだ。


何となく物悲しい気持ちになる。

この巨大な屋敷に、男が1人、死んだ娘の人形と暮らす……。

やはり父親が抱えていた人形は、死んだ娘の代わりと考えた方が自然だろう。

村人がシモキンの父親に近付くの戒めたのは、こういう事も原因なのだろう。

そして、外に吊るされた人形達もーー。


そういえば、父親が膝に乗せていたあの人形はーー。

この家のどこかに有るのだろうか?


「俺達は、やはりこの家に来た事は無いんだな?」

不意に松田が言った。

「え?」

「また記憶が抜けてるのかと思ったけど、門の前の木々に吊るされた人形なんて、知ら無かったし。室内に入っても何にも思い出さない。きっと親達が、俺達を此処に寄せ付けなかったんじゃないかな? 今までの事から考えて、親達の認識の中じゃ、シモキンは死んでると考えた方が普通だろ? 5人殺しの家で、死んだ娘の人形と暮らす中年男に同情はしても、自分の子供を近付けたいとは思わないだろう?」


どうやら、松田は仏壇を見て何も感じ無かったらしい。

他の皆んなもそうだろうか? 何も言わないから、そうだと考えた方が無難だろう。

そうで無ければ、言えない理由が何かあるか……。


俺にだけ、あの仏壇の記憶があるとしたらなぜなんだ?

1人で肝試しでもしたか? 子供ならクラスのヒーローに成りたくて、そんな戯れもするだろうが、自分が思うには、自分はそういうタイプの子供では無かった。

ならなんで、知っているのだ?

もし俺がそんな自慢をしていれば、覚えてる奴も居るだろうが、そういう事を言う奴も居ない。記憶の抜け落ちである事も、多いに考えられるが、その判断は難しい。


この事を、皆んなに言うべきか迷う。

もし、今回のシモキンの恨みを買う事に、俺が大きく関係していたなら、チームワークを大きく乱す事になる可能性がある。学校から脱出する時、屋上で、シモキンはシモキンを殺す計画を指揮したのは俺だと言った。その可能性は大いにある。

記憶がある奴を探すのも、同じ理由で辞めておこう。言えない理由があるなら、自分から言い出すまで待った方が良いだろう。


ーー今はまだ黙って居よう。

少年Xをどうにかするまでは


もう一度、シモキンの部屋を漁っていた岸田に

「良いもん見つけたぞ!」

と声を弾ませ松田が持って来たのは、散弾銃だった。

「そんなもん、どこにあったんだ?」

「佐々木達が隣で監視しているシモキンの父親の部屋だ。弾もあるぜ!」

と松田はポケットから、散弾銃の弾を何本か握り締め、出して言う。両のズボンのポケットは大きく膨らんでいる。中にはパンパンに弾が詰まっているのだろう。

松田は話を続ける。

「 一応保管庫に入ってたけど、鍵してなかった。法律ではダメだけど、一々するの面倒だからしてないんだろう。ウチのジイちゃんも、そんなだったし」

この散弾銃は害獣駆除に使う物だろう。別に村の中では珍しい物でもない。農作物を荒らす、鹿、猪、猿などの駆除の為に散弾銃を持っている家は珍しく無い。

時に村人に危害を加える可能性のある熊なんかも駆除する。村人で猟友会も組まれていた。シモキンの父親がそれに所属していたかは、定かでは無い。


確かに強力な武器だろう。

だがーー。

「人間相手なら効くだろうけど、アイツ相手にどこまで効くか。ライフルならともかく、それは散弾銃だろ。聞き齧った知識だけど、1発で発射される弾数は多いが、散弾銃の威力はライフルよりかなり落ちるらしい。大型の獣には効かないとか聞くし、よっぽど至近距離で撃つ以外は、目くらまし程度にしかならないくらいに考えた方が良いだろう」

「……そうか」

松田は肩を落として言う。



ーー場所をまた1階に移動する。


玄関のガラス戸から少年Xに見つからないように、土間の農機具のそばにあるガラクタを漁る事にする。土間は、玄関から少年Xに確実に 見えるので後回しにしていた。

ガラクタは、玄関のガラス戸の向かって左に在り、良い具合に壁で少年Xからは死角になっている。移動してしまえば、少年Xに見つかる事はないだろう。


玄関のガラス戸から、月明かりが漏れている。

岸田と松田は壁に沿い、闇に紛れてガラクタの山を目指す。


トラブル無くガラクタの山に着いた。

ガラクタと言っているが、シモキンの父が村の便利屋として働く時の材料だろう。釘、ネジ、ワイヤー、鉄板、鉄パイプ、木材ーー。用途の良く分からない物も多い。

そして、雑然と置かれた沢山の工具。


物は多いが、少年Xと戦うにはやはりガラクタの山かーー。

使えそうな物はワイヤーの束、これはまあまあ太いし、かなり長いから、アイツを拘束するのに使えそうだが、問題はどうそこ(拘束する)まで持ってくかだーー。

岸田は思考を巡らす。


「アイツとやり合うには、もっとこうーー」


思わず、岸田の口からそう言葉が漏れる。

「お前、アイツとやり合うつもりなのか!?」

ふと漏れた岸田の言葉に驚いた松田が訊く。

岸田は戦うつもりだと言うと、皆の結束が崩れそうなので言う機会を待っていたが、

もう隠してもしょうがないと松田には胸の内を話す。

「逃げて居ても、少しずつメンバーを削られるだけだ。倒せないまでも、動きを封じられれば、と思っている。その為に、皆んなで力を合わせなきゃいけない」

松田は少し考えるように黙り


「……なあ、シモキンを殺した時もこんなだったのかな?」


と言った。

岸田は驚きの声で「え?」と訊き返す。

松田はその声に応える。

「こうは、考えられないか?なぜか忘れちまってるが、実は5年生まで俺達を支配していたシモキンを、皆んなで力を合わせて倒したんだ。此処で分かったろ? シモキンは、人間じゃない。少なくとも生きている人間じゃないだろう。俺達は過去に怪物を1回倒してるのかも知れないな? だとしたら、勝てるかも知れない!」

「そうだな! 俺達はきっと1度勝ってるんだ。また勝てるさ」

また勝てるさーー。無責任な言葉なのは十分わかっていたが、今はそんな事を言って居られない。例え僅かな勝算だとしても、自分達を鼓舞出来るような物は全部使って心を奮い立たせなきゃいけない。幼い頃に、1度勝っているという言葉に、体の内から力が湧き上がる気がした。と、その時。

ん? なんだ?


ーー急に部屋が暗くなる。


「あれ? 懐中電灯、電池切れか?」

松田が言った。

いや、懐中電灯の灯りは点いている?

小さくガラクタの山を照らしている。

「いやまだ、電池は……」

と言い掛け、岸田は何かの気配に気付きハッとし、急いで松田の口を押さえ部屋の隅に逃げ込む。


電池切れなんかじゃ無い。

少年Xが玄関のガラス戸から覗いているのだ。

……その為に、窓から入っていた月明かりが遮られたのだ。


岸田達は部屋の角に身を深く沈め、急いで下に向けた懐中電灯のスイッチを切る。

息を殺し、感覚だけ研ぎ澄ます。気付かれたか?

気が付けば、確かに、壁一枚隔てた向こうで、何かが動いている。

少年Xなのは間違いないだろう。

此処まで近付くまで、全然気付かなかった。あの巨体をどうやったら、あんなに静かに操れるのだ。怪物め。

少年Xの身体能力に、改めて驚嘆する。


少年Xの脇から入ってくる僅かな明かりに、目が慣れてきて気付く。

闇の向こうに誰かが立っている。また幽霊ーー?

闇を透かして見る。


ーーいや違う。百武だ。


百武は少年Xが動いたのを、自分達に知らせに来たのだ。

家に近付いたのを見て、知らせに来て、自分達を探してる間に少年Xが先に玄関に着いてしまい、少年Xと鉢合わせをしたのだろう。

百武は恐怖で固まっている。きっと、またあのカタツムリみたいな巨大な指先の目で、室内を覗いて居るのだろう。


岸田は、自分の唇に人差し指を1本あてがい、百武に静かにするようにジェスチャーし、掌を上下に振り戻れとやる。室内に居る分には、アイツが襲って来る事はない。大丈夫だ。だが、百武がそこに居ては、少年Xも暫くは百武のようすを観察しているだろう。

百武が闇の中で、目で分かったと告げたような気がした。百武はそのままゆっくりバックして、屋敷の奥に消える。


と同時に、まるで堰き止められた水が溢れ出るように、土間に月明かりが射し込む。

少年Xはまたどこかへ行ったようだ。


岸田の口から、ーーふう。と思わず息が漏れる。



再びガラクタ漁りを再開するーー。


「本当にガラクタしかねえな?」

そう呆れた声で言った松田の手には何かある。

「お前、何持ってるんだ?」

岸田は訊く。

「ああ、これか? 滑車だよ。これは武器にはならんだろ?」

「……滑車。」岸田の中に何か引っ掛かる物がある。少し考え「他にも無いか?」と訊く。

「滑車がか?」

松田はキョトンとして訊き返す。

「ーーああ」


2人で探すと、滑車は全部で丁度10個有った。

子供の手には余るくらいの大きさで、ズシリと重い。どれも使い込まれた古い物だ。


「こんな、沢山何に使うんだよ? シモキンの親父はーー」

松田が言う。

「いや、多分使ってはいないだろう。使い込まれた物だが、どれも錆び錆びだ。何かに使えると思って廃品を貰って来て置いたままになっているんだろう」

岸田は答える。


多分、シモキンの父親が日雇いで行った、どっかの工事現場とかから、廃品を貰って来たのだろう。確か赤鷺村の近くでバイパス道路の工事が、当時進められていた。シモキンの父親も、そこで暫くは働いていたのを覚えている。土砂を上げたり、岩を退かすのにこの滑車は使われていたのだろう。

滑車は仕留めた鹿などの大型獣を吊るし解体するのに使ったり、田舎暮らしには他にも色々と使い勝手は有った。そういう使い道を見越して、シモキンの親父はストックしていたのだろう。


定滑車と動滑車が5個ずつかーー。

「これは、使えるかも知れないぞ?」

岸田は言う。

「え?」

松田は、こんな物がか? という驚きの顔で言う。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ