【第一部 夢の中へ】 過去からの手紙
就職して今日で丸1ヶ月、平良希もやっとこの仕事に慣れて来た。
憧れていたブライダルプランナーの仕事。まだ先輩のアシスタントのような感じだが、頑張って早く独り立ちしたいと思っている。
1日が終わり、大学時代から1人暮らしをしているアパートに着くと郵便受けを開けた。
帰宅してからの、いつもの日課だ。今日届いた郵便物と要らないDMやパンフレットを仕分けする。
希は両手に沢山の郵便物などを持ち、部屋へ向かう。昨日の夜片付けた筈なのに、もうこれだ。放っておくと直ぐに郵便受けがパンパンなってしまう。
通勤カバンをテーブルの脇に置き、郵便物をテーブルの上に投げ出すと、要る物と要らない物を分ける。要らないDMやパンフレットは、そのままテーブルの下のゴミ箱に落とす。
ピザ屋、美容室、マッサージ店、新築マンションのパンフレットとDMはゴミ箱へーー。
スマホの明細、ネットの支払い、区役所からの何かは取り合えず取って置くーー。
「ん?」
希は1枚のハガキを手に取る。
そのハガキは濡れたのか、歪み字も滲んでいる。
『赤鷺小学校、同窓会案内』とあるが、会場は小学校になっている。
希は首を捻る。確かに一時、赤鷺小学校に居たが、学校のあった赤鷺村は今はもう無い。ダムの底に沈んでしまったからーー。
そう思い改めて見ると、まるでこの歪み滲んだハガキはダムの底から来たようだ……。
不意に背中にゾッと冷たいものが走る。
希は思わず肩をすぼめる。
希の父は小学校の教師をしていた。
その父が、赤鷺村の赤鷺小学校に赴任するのと一緒に転校してきた。
父は赤鷺小学校では教頭をしていた。
教頭試験が受かり初の教頭職だった。
小6の1年だけ村に居たが、直ぐにまた転校した。
その2年後に、村はダムの底に沈んだ筈だ。自分が居た時から、ダムの計画は決まっていたし、完成した赤鷺ダムの写真も後にネットで見た。
希達クラスは赤鷺小の最後の卒業生だった。
正直、1年しか居なかったが、あの学校の事は強く心に残っている。ーーが、よく覚えても居ないのだ。
つまり、嫌な思い出があって心に傷として深く刻まれているが、同時に忘れたいと強く願い。その願いが叶ったのが今の状態なのだ。
最高に嫌な気分のまま、希は差し出し人を見る。
この同窓会の発起人は誰?
……志茂木マリ子。
そんな筈は、あるわけが無い。
志茂木マリ子。通称、シモキンはあの時に死んだ筈だ。
気味が悪い。嫌な悪戯だ。当時のクラスメイトの仕業だろうか?
クラスメイト達の顔は思い浮かぶが、全員の名前まではすぐ思い出せない。
誰だろう? こんな事をしそうなのはーー。
……思い出せない。
ハガキには
『尚、このハガキは素敵なクジに使うので捨てたりせず、必ず持参して下さい』
とも書いてあった。
希はハガキをグチャグチャに丸めて、ゴミ箱へ捨てた。
ダメだ、こんな事をしてちゃ、明日がある。仕事に支障をきたさないように早く支度して寝よう。
希は簡単なオカズを作り、パックのご飯をレンジで温めて茶碗に移し食べて
いつも通り風呂に入り、明日の支度をして眠りに就いた。
うとうとし、やっと眠りの底に深くダイブ出来ると思った時に、誰かに肩を揺すられた。
此処は、1人暮らしの部屋だ。
普通なら、怖いと思う筈なのに、その時は怖くなかった。
むしろ、懐かしく優しい感じがした。
目を開けると、おかしな風景に目を見張る。
そこは、学校の教室だった。
……これは夢?
良く見れば、周りに居る子は赤鷺小の6年生だった子達だ。
気付けば、自分の体も小さい。子供に戻っているようだ。
赤鷺小は全校数が100人にも満たなく、1クラスずつしか無い。だから、教室も各学年1つしかない。
みんな青い顔をしている。子供なのに変なの?
「お前、希か?」
横の男の子が話し掛けて来た。
希は一瞬分からず、思わず誰?という顔で見たが、直ぐにその男の子の顔を見て思い出した。
「覚えてないのかよ? 岡田拓也だよ」
拓也くんだ。クラスで1番スポーツが出来て、優しくて、1番女の子に人気がある子。
希も密かに憧れていた。実は初恋の人である。
それにしても、当時の子供時代の夢にしては、変な言い方だ。
覚えてないのか? とはーー
「拓也くん変なの? 夢の中なのに」
希は笑った。
「夢じゃ無い。みんな気付いたら、子供になって此処に居たんだ。お前も同窓会のハガキを貰ったのか?」
「うん。何それ? この夢の設定?」
「いや、違うんだけど。まあ、夢と言えば夢かな?」
「久しぶり、希ちゃん」
聞き覚えのある声だった。
その声は、黒板前の教卓の方からする。
希は目をやり、絶句する。
……シモキンだ。死んだ筈の、志茂木マリ子。
死んだ筈のシモキンが、この夢の中に出て来てる事ではなく、その姿に驚き言葉を失った。
全身血塗れで、小脇に脳の飛び出た自分の首を抱えている。
シモキンの死因は自殺だったーー。
志茂木マリ子は家が確か農家だったが貧乏で、いつも同じ服を着ていた。
シモキンのキンはバイ菌のキンだった。
ガリガリに痩せてて、人の輪に入ろうとせず、いつも何を考えてるのか分からない子だった。
シモキンは屋上から、イジメを苦に首を括り飛び降りた。
首吊りしようと思ったようだが、使ったのがシモキンの父が畑を荒らすイノシシ駆除で罠用に使っていた細いワイヤーだった為、本人は確実に死ねるように強いワイヤーを選んだのだろうが、ワイヤーの細さ、体重と落下速度、そして、シモキンの細い首と色々な状況が重なり、シモキンの首を跳ねた。シモキンの体と頭は別々に中庭に落下し、コンクリートの上に落ちた。頭はスイカのようにパックリ割れていた。それを希達はクラスの窓から見た。
それは、給食の最中だった。
シモキンは4時間目が終わると、教室を出て屋上に向かった。そして、あらかじめ職員室から盗んで置いた屋上の鍵を使い、外に出て兼ねてから考えていた計画を実行した。
皆、教室で嘔吐した。外も中も地獄絵図だった。
シモキンの遺書は無かったし、シモキンも誰にも相談していなかったらしく
イジメていた事は皆が口を紡ぐ事で無かった事となった。
シモキンの葬儀で、シモキンの父親が唇を強く噛み嗚咽が漏れるのを堪えているのを見た時に、初めて自分達の残酷さに希は気付いたが後の祭りだった。
もう忘れようと強く思った。
「では、皆さん希ちゃんが来たしこれで全部ね。総勢21人。これからゲームをして貰います」
小脇に抱えられたシモキンの首が語り、続ける。
「簡単なゲームです。みんなあの頃の子供に戻って、私の受けたのと同じイジメを受けて貰います。今度は他の誰かが鬼の役です。あの時、みんな先生に言ったね。遊んでただけだって。だから今度は、私に代わりに、別の誰かがイジメられる鬼をやって貰います。もし、途中で耐えられなく成って鬼の子が自殺したら、死んだ子は現実世界でもう目覚める事はありません。此処は夢の中では一応あるんですが、現実に影響します。死んだ人は、もう現実には戻れませんが、その代わり私と此処で永遠に赤鷺小6年をやります。最後まで耐えられたら、みんな現実に帰れます。もしイジメの手を抜いたら、その子ももう現実に戻れません。では、まず同窓会のハガキを出して下さい。今から私がその中から、重ねたトランプを引くみたいに1枚引き鬼を選びますね」
みんな机の上に同窓会のハガキを出した。
希は焦った。自分は持っていない。部屋のゴミ箱の中だ。
「夢なんだろう! シモキンが調子に乗るな!! 今更出て来やがって、そんな見た目にビビるかよ! ハガキなんか捨てちまったよ!! ねぇーよ!」
立ち上がり、そう言いシモキンに啖呵を切ったのは堀内健悟だった。
「捨てちゃったんだ」
「オウよ! グチャグチャに丸めてな」
堀内はクラスでは、いわゆる不良のようなポジションだった。表立ってみんな言わないが、嫌っていた。中高生程のちゃんとした(と言うのは変だが)不良ではないが、親からくすねたタバコを自慢げに吸って見せたり、弱い子からカツアゲをしたりと、不良になる片鱗をバリバリ見せていた。
堀内は続ける。
「俺はこれでも坂田興業の盃を貰って一端のヤクザやってんだ! 夢の中の幽霊なんかにビビって溜まるか! 現実でもっとヤバイ橋を渡って来てんだよ!」
これが夢で無いなら
どうやら、堀内は予想通りの道を進んだらしい。
堀内は臆せず、シモキンに掴みかかろうとするが、その瞬間ーー
バシュッ!!
堀内の頭が爆ぜて、脳みそをブチまけて倒れ込む。
ドサッと倒れた堀内の体は、しばらく痙攣していたがじきに動かなくなった。
そして、ぬっくと立ち上がった。
シモキンのように頭が割れて、脳みそは床に落ちたままだ。
その姿はまるでゾンビだ。
「さあ、堀内くんは自分の席に戻ってください」
とシモキンが言うと、まさに死んだ目をした堀内は自分の席に大人しく戻った。
「さあ、1人いきなり欠けましたが、続きを始めましょう」
希は恐怖を押し殺し、手を挙げ言った。
「……すいません。私もハガキを捨ててしまいました」
「嘘? それは、大変ですね。ハガキにも素敵なクジに使うからハガキは大事に持って来てくださいって書いてあったでしょう?」
「……ごめんなさい」
「まあ、良いです」
と言うシモキンの言葉に、希がホッとしたのも束の間。
シモキンは言葉を続ける。
「希ちゃんは抽選を放棄したという事で、最初の鬼をやって貰います。クジの手間が省けたから、ハガキを忘れた事は大目にみましょう」
シモキンは微笑んで言った。
「……えっ!?」
希は顔からさっと血の気が引くのを感じた。




