第90話 案内状
拝啓
残炎の候、いまだ寝苦しい夜も続いております。体調など崩されておられないでしょうか。
さて、この度、夏の暑さを吹き飛ばし、ついでに呪いを吹き飛ばすため、名坂様を囲む会を開催いたしたく、御案内させていただきました。
日時・場所等の詳細は、別紙のとおりで御座います。つきましては、縁のある方々、可能な限り多くの方に御参加を願えれば幸いです。
敬具
「……なんだこれは?」
怒りを通り越して、青褪めた顔で名坂警部補がいう。問い詰められているのは神尾五郎、常に損な役回りである。
「えーと、その、俺はやめた方が良いと言ったのですが、千里さんがですね」
「やっぱりあいつか。スーと何やら密談していたと思えば……。この注意書きの水着必携、パラソル貸出可、海の家利用可というのはなんだ?」
「スーさんが海水浴を体験したいというので」
「ひかりの供養をするんじゃないのか? どっちがついでだ。暑気払いが目的になっているではないか。なしだ、なし! こんな会はなしだ!」
「もう、いろいろ頼んじまったよ」
五郎の部屋の戸口から千里がいう。「血相変えて部屋に入って行くのを見てさ。頭の固い男だね。それは下だけでいいって、何度言えばわかるんだ」
「くだらん冗談も大概にしておけ」
「冗談なんかじゃあないよ。要は祭りさ。できるだけ大勢の方がいいというのは本当だ。スーの話だがね。海の魔物は、人が多いのも、笑い声も嫌いなんだってさ。この件で嘘はつかないし、からかったりしない。それくらいの分別はあるさ。もう結構な人数が集まったんだよ。ありがたいことじゃないか。あんたのために来てくれるってんだから、怒るより感謝したらどうなんだい」
そう言われて黙り込む名坂警部補に、一枚のハンカチを手渡した。
「そのハンカチ、なくすんじゃないよ。それが今回のまじないの種だってさ」




