第89話 お茶の時間
スーの店を一行が訪れたのは夏の盛りのこと。名坂警部補、千里、五郎、蜜柑、それに、
「まあ、その子が佳乃ですか」
嬉しげに出迎えたのは、薄いブロンドに碧い目、北欧の妖精のごとき顔立ちの女性である。和装の童女を手の平に乗せて愛でるようにしていた。
「まさか本当に保護していただけるとは。まず無理なことと思っておりました。それで? 昔のことは思い出せまして? 何の使命を帯びていたのです? どこに眠っていたのです?」
矢継ぎ早の質問に困惑げな佳乃だった。代わりに温州蜜柑が答えていう。
「なーんも覚えとらへんて。無責任なやっちゃで、ほんま」
「あなたには言われたくありません!」
きっ、と蜜柑を睨みつける佳乃である。微笑ましい〈?〉やりとりはさておき、名坂警部補が自分の身に起きたことを話し、スーの店で買ったまじないものと関係があるか聞いてみたところ、
「うちの品物には悪さを働くようなものはありません。それは、もはやのろいの道具。当店で扱うのは、ただのまじないもの。さほどの力もない代わりに、わるく働くようなことは御座いません。
ですが、当店はアフターケアも万全。通販サイトでも、99.9%の方が対応について満足と評価していただいております。当店のSNSですが、この写真など、万単位でいいねを受けております。あ、失礼しました。こちら私のスナップ写真でした。何気なく上げてみたら、妖精みたい、美し過ぎる、家に欲しいなどと。うふふ、困ってしまいますね。……いけない、いけない、最近の暑さに客足も減って、久しぶりのお喋りで、ついつい調子に乗ってしまいました」
さて、と表情を引き締めて、じっと名坂警部補の目を見つめる。すると、
りん、
と鈴の音が響いた。気にしないで、目を逸らさないでくださいと言いながら、さらに名坂警部補の目の奥を覗き込むようにする。続けて、
りん、りん、りん、りん……
と、無数の鈴の音が響き始めた。異様な音が店内を満たしていく。溢れんばかりになったかと思うと、その音は不意に途切れた。ふぅ、と息を吐いていう。
「名坂様、海へ行きましょう。ひかりさんの命日に。目は涙に、涙は海に、海は命に繋がっているのです。ひかりさんは、いまも泣いています。あなたを思って、あなたのために泣いている。海へ行きましょう、海へ。日本の海は初めてなので楽しみです。私は肌は晒せませんけど」
「海で供養をするということで良いのか。どうすれば涙を拭ってやれる?」
「海の中にいるというのは、涙に囚われているのも同じ。解放するためには、あなたが泣くのをやめなければなりません」
「私が?」
「詳しいことは、お茶をしながら……」
スーが手を叩くと、ころころと無人のワゴンが出てきた。湯気の立つ点心と茶葉のセットが載っており、それらがふわりと浮かび上がる。




