第79話 あなたには世話になりません!
化粧地蔵の祠で出会ったのは、百年以上前の式神ではないかと言われる童女だ。おかっぱ頭で手の平ほどの背丈しかない。青地に稲妻柄の着物が目に眩しく、爪楊枝ほどの刀を佩いている。異形の烏から身をていして庇ってくれた五郎に恩義を感じてか、
「危ういところを助けてもらい、ありがとうございました。佳乃と申します」
と、丁寧に頭を下げて名乗った。
「自分が何者であるか、お伝えしたいのですが、どうやら長く眠っていたようで記憶がはっきりせず。すみません」
「そんなに頭を下げることはない。とにかく無事で良かった」
五郎が優しく応じる一方で、調子に乗った温州蜜柑が尊大な態度でいう。
「佳乃いうたか。そこな五郎に下げる頭があるんなら、まずはわてに頭を下げたらどうや? おまんが無事でおれるんは、わてのおかげとちゃうかいな」
「……ありがとうございます」
ぷいと横を向いていう佳乃である。なんやその態度は、式神風情が舐めとったら、などとわめく蜜柑を五郎が押し留める。
「自分のことは、おいおい思い出してもらうとして。まずは、さっきの烏だな。どうして襲われていたんだ? あれはなんなのだ?」
「わたくしを狙ったのではなく、化粧地蔵を狙っていたのだと思います。初めて見たものですが、名もなき下位の式神でしょうか」
「では、烏のことも置くとして。以前、目に見えぬ獣に襲われたことはなかったかい?」
「ええ、あります。あれは見えないのではなく、そも姿なきものです。獣と思えば獣、見る側が縛るのです。なぜでしょう、そんなことばかりはよく覚えております。主から何かを命じられていたはず。何かをしなければならない。そんな気はするのに、何をすれば良いのか思い出せない」
行くあてもなく、どうすれば良いのかと溜息をつく佳乃に、お人好しの五郎がいう。
「じゃあ、とりあえず、うちへ来るかい?」
「え? 良いのですか」
嬉しそうに顔を輝かせる佳乃だが、蜜柑が不満そうに声をあげた。
「えー? こんなん連れて帰んの?」
「あなたには世話になりません!」
きっ、と蜜柑を睨みつける佳乃だった。




