第78話 佳乃
坂の多い街である。
平地が少なく、海と山の境に立つ神辺市は、古くから交易の街として発展してきた。西区に異人街、南区に中華街があるのもその名残だ。
一方で、古き良き日本の伝統も残しており、異人街の手前に、かつては道辻だったのだろう。道祖神の姿を残した化粧地蔵の祠がある。
子供たちの手で極彩色に塗りたくられたカラフルな石仏が微笑むその祠の上で、頭に絆創膏を貼り付けた温州蜜柑が、和装の童女に向かって説教中だ。
「まったく、早とちりにもほどがある。出会い頭に刀をぶっ刺しおって。わてが由緒ある神さんやなかったら死んどるで、ほんま」
「すみません」
と、シュンとした様子で頭を下げる。「どことなく禍々しいものを感じて斬りかかってしまいました」
「まあ、わては禍つ神らしいからな」
「禍つ神! やはり負のモノか」
立ち上がって刀を抜き、再び構えをとる童女に、落ち着け、落ち着けと蜜柑が手を振る。
その時、上空から迫るものがあった。生き残りの烏が童女に襲いかかったのである。かわす間もなく、目を瞑って身を固くするしかない。
だが、五郎が間に入り、烏は形を失って飛び散った。頭から墨を被ったような有り様で、鼻をついたのは腐った溝川のような匂いである。
もの言えぬほどの匂いにむせ返る五郎を見て、けたけたと笑う蜜柑とは対照的に、童女は、おろおろと申し訳なさそうにしていた。脇で見ていた千里が祠の湧き水をすくって洗い流してやる。
さて、少々落ち着いたところで。
助けていただき、ありがとうございますと童女は頭を下げ、佳乃と名乗った。




