第77話 ぴゅーぴゅー
異形の烏どもが向かったのは路地裏の小さな祠だ。華やかに彩色された化粧地蔵が安置されており、その石仏を黒く染め上げんとする。
だが、祠に近付く烏が次々と霧散した。
しゃぼん玉が弾けるように、黒い影が弾けては消えていく。祠に近付くと、小さな切妻屋根の上に件の童女の姿があった。手の平ほどの小さな体に爪楊枝ほどの刀を構えている。
スーに言わせれば、使命も主人も失ったまま彷徨っている古い式神ではないか。そうであれば、哀れなもの。
しかし、童女は、しっかりと前を見据え、襲いくる烏を次々と斬り捨てていた。返り討ちの烏ども、このままでは勝てぬと踏んでか、寄り集まって巨大な烏となり、ごうごうと風を起こしながら迫ってくる。大人の背丈ほどの烏相手では、さすがに分も悪かろう。五郎は思わず、
「蜜柑! 助けてやってくれ」
「おう、任せとき!」
ぱっと飛び出した蜜柑が口を大きく開いて巨大な烏を頭から呑み込んだ。その小さな体のどこに納まるものか、まったくもって謎である。
げぷっ、
口から煙を吐いて座り込んだ温州蜜柑の様子がおかしく、心配した五郎が駆け寄った。
「蜜柑、だいじょうぶか?」
「だいじょうぶちゃう。だいじょうぶちゃうで。うげぇ、まずぅ。ヘドロみたいや」
げーげー吐くところに童女が迫り、
「貴様が親玉か! 妖め、消え失せろ!」
と、小さな刀を蜜柑の頭に突き刺した。続けて、すぱっと抜き取ったものだから堪らない。あわわわ、と頭を抑える蜜柑の小さな手の隙間から、ぴゅーぴゅーと黒い液体が噴き出てきた。




