第67話 中華街
神辺市の南区には中華街があり、数百メートル四方の地区だけが、ぽっかりと中国である。西区に残る異人街とはまた違う雰囲気だ。
観光客向けに再整備された面もあるが、縁起の良い赤と金の配色がなされた雑多な建物がひしめき合い、軒先で売られる豚饅や小籠包の香りが鼻腔をくすぐる。また本格的な中華料理店や、専門食材の店、観光客向けの土産物屋も多い。
華やかな表通りから一歩入った脇道に中国茶の専門店があり、その二階で、まじないの道具を売っているという。すれ違うのも難しいような狭い階段を、名坂警部補を先頭に、五郎、早苗、美琴の順に上って行く。突き当たり、店らしい表示もないが、ドアを開けて中へ入った。
「失礼する。誰かいないか?」
店内は薄暗く、名坂警部補の問いかけにも返答はない。雑多な品物が無造作に並べられており、最後に美琴が中へ入ると同時に、
りん、
と鈴の音が響いた。続けて、一斉に、
りん、りん、りん、りん……
と合唱のように響き始めた。異様な音が溢れんばかりに騒がしく、しかし、耳の聞こえない美琴は、きょとんとした様子だ。とかくするうちに灯りがつくと、鈴の音が鎮まり、
「おや、お客様ですね。いらっしゃい」
と、少し中華風のアクセントながら流暢な日本語で出迎えたのは十代前半の少女か。薄手のパーカーにフードを深く被り、容姿を見てとることはできない。それをみて、少し不機嫌そうに名坂警部補がいう。
「店番かね?」
「いえ、ここは私の店です。背が低いので、よく子供扱いされますがね」
「なら、フードを取ったらどうだ。何か理由があるのなら格別、客商売としては不作法ではないか」
「これは失礼。日差しに弱いものですから、ついつい被ったままにしておりました」
言ってフードを取ると、薄いブロンドの髪に碧い目で、北欧系の顔立ちが現れた。首を振って長い髪を自由にする。アジア系の顔を予想していたところにそんな顔で、驚いた名坂警部補だが、その少女あるいは女性の次の言葉にはさらに驚かされた。何用とも伝えぬうちに、さらり、
「手鏡とは関係ありませんよ?」




