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第51話 たそかれ
暗い空が青く変わり始め、この季節には珍しい西風が、ごうごうと吹き始めていた。ピアノを弾き終わった美琴に拍手が贈られて、アンコールかというところ、そばに立っていた理奈の様子がおかしい。身体を震わせて荒い息遣いだ。
「七の方が来る」
つぶやきとともに、巻き上げる風の音が響いてきた。面々も酔いが覚め、意識朦朧の理奈を寝室に運び込む。ドアを叩く風の音に混じって、
「いるか? いるか? いるか? いるか?」
との問いかけが絶えることなく続いた。息を殺していることに耐えられなくなってくる。何者ともしれぬものの問いかけに、苛立った千里が応じた。
「いるか、いるか、とうるさいよ! いったいぜんたい、どういうつもりだ? 七の方だかなんだか知らないが、おまえは何者だ?」
「いるな、いるな、いるな、いるな」
ノブが回り、開きかけたドアの向こうには獣じみた巨大な目だ。見る者すべてを呑み込むような昏い目がこちらを覗き込んでいた。
「はてさて、終に今年も文月じゃ。そなたらの御魂をもらおうか」




