第43話 トラブルメーカー
Black Catsの解散ライブ、そして六人様の訪いから日も経ち、静かな日常が戻って来ている。と言いたいところだが、そうはならなかった。
ありえないほど美琴の機嫌が悪いのだ。蜜柑と五郎が隠し事をしており、問い詰めても嘘くさい調子で何もないと答える。二人と仲が良いだけに、不満も募ろうというもの。
その煽りを食うのが葛音だ。普段は、短気な葛音が子供っぽく腹を立て、優しい美琴が受け止める、そんな感じなのだが、ここしばらくは葛音が理不尽な八つ当たりを受けている。戸惑いながらも、少しだけ嬉しくもあったという。葛音は思う。
耳が聞こえなくなるまでは、美琴の方がやんちゃで、自分の方が大人しかったんだ。千里さんに出会ったのも、その頃だった。大人しくて、ベソかきで、美琴がいないと、すぐにいじめられていた。子供は純粋だなんて言うけれど、それだけに残酷だ。
トンボの首をちぎって飛ばしたり、アブの羽をむしってみたり、そんなことと同じように、大人しい子供は、いじめの恰好の標的になる。
その頃のあたしは、ただただベソをかいていただけで、自分の力で戦おうとか抗おうとか、逃げようとすらしていなかった。そんなあたしに、千里さんは抗うことを教えてくれたんだ。人に話すことや助けを求める勇気を教えてくれたのも、あの人だった。
弱みを見せるのも、逃げ出すのも、格好悪くなんてない。蜜柑と五郎は何か隠している。美琴のためにも、千里さんに相談してみよう。
そう思って葛音は、蜜柑と五郎の隠し事について相談することにした。が、千里は生粋のトラブルメーカーであったりなかったり……。




