第38話 六の方
猫柳理奈のマンションにて。
小さなくまのマスコットに宿る蜜柑は、なにやら焦った様子である。理奈の話した七人様が、いまにも訪ねてくるというのだ。
え、マジで、いまから? ちょっと待って、心の準備が、などと喚いているうちに玄関のドアが開いて、ふわりと風が舞い込んだ。その奥には獣じみた巨大な目だ。すべてを呑み込むような昏い目に見つめられ、その場で固まる蜜柑だった。先刻までの威勢はどこへやら、ぽてんと死んだふりをする。
そんな蜜柑に気付いてか気付かずか、七人様の一人、六の方であろう。生臭い息を吐きながら、存外、透き通るような声音で唄う。
「さてはて、年も半ばの水無月じゃ。そなたの御魂をもらおうか」
「いえいえ、まだ半ばに過ぎませぬ」
落ち着いた様子で、すとんと玄関先に腰を落とした理奈が唄い返す。
「文月ならば、七つやれましょに」
返事は、ぬるりと吹き込む風だ。背筋を伸ばして正座する理奈の顔をべろりとねぶるようにする。しばし間をおいて、
「ならば待とうか、ゆめ忘れるな」
と気配が下がり、理奈の脇を通り抜けた。
「いよいよ次は文月じゃ。そなたとそこの男と、今年は膳が九つ要るわいな!」
室内に風が吹き渡り、揶揄するような、嗤うような、大きく響き渡る声を発して六の方が窓にぶつかっていった。砕け散るガラスを残して、くすんだ灰色の空へ飛び去っていく。




