第37話 風に乗って来たる
生まれ育った漁村に伝わる祀り事、七人様について淡々と理奈が語った。師走には、きっちり七膳を整えて捧げなければならず、それを破れば良くないことが起こるという。
「母さんは理知と合理の人だから、祀り事なんてばかばかしいと思っていたんだろうね。祖母が亡くなってから初めての祀り事で、七膳を八膳にしてしまった。その時は何も起こらなかったけど……」
明けて今年の1月から、毎月、理奈の元へ七人様が訪ねて来るようになったという。
「一の方が来られた時は恐くて仕方がなかった。七人様は風に乗って来るといわれ、その日も激しい風が吹き荒れていた。
インターフォンが鳴って、誰もおらず。ドアをノックされて、誰もおらず。気味が悪く思っていたら、ガチャガチャとドアノブが回って、鍵がかかっているはずのドアが勝手に開いた。
そこにあったのは獣じみた巨大な目で。それは、『さてはて、明けて初めの月じゃ。そなたの御魂をもらおうか』と唄うように言ったの。恐怖と驚きで、すぐには口もきけなかったけど、かろうじて掠れる声で応じたわ。『いえいえ、まだ年も初めにて。二の月ならば、二つやれましょに』と。
村に伝わる問答よ。訊く方も訊かれる方も、決まった言葉で応じる。そうして、七人様を言いくるめて師走の御膳で満足させるんだって」
そうして毎月の訪いに応じてきたらしい。言い伝えには、七人様の訪いは人にもらしてはならぬ、もらせば聞く者にも災いが及ぶとされており、これまで誰にも話さずにきたのだ。しかし、先月、五の方が、言い伝えにないことを語ったのだという。
「御膳はいらぬ、おまえが良いと。七人様は、私を八の方として迎えようとしているのだと思う。それは、あの世に連れ去られること、死ぬことでしょう。
人に話せば、その人も死ぬことになるのでは、そう思うと誰にも相談できなかった。将吾にも千里にも。あなたに話してしまったけど、蜜柑ちゃんが護ってくれるんだよね。だいじょうぶだよね?」
「おう、任せとけ」
相変わらず、なんの根拠もなく、自信満々に胸を叩く蜜柑である。
「五郎のあほも、理奈はんも助けたる。わてこそは名門神尾家の式霊にして護り神、さらに禍つ神の側面をもつ頼れる神さんやで」
と、言うことはでかいが、なにぶん、小さなくまのマスコットの言葉だ。五郎の不安は推して知るべし。そこへ、ごうごうと風が吹き始めた。屋外で荒れ狂う風音を聞いて、真剣な表情の理奈がいう。
「来る! 六の方だ」




