第32話 かくれんぼ
ライブハウスは異人街にあり、幕末から明治にかけて交易で栄えた歴史をいまに残している。当時の雰囲気を残した街並みは、休日ともなれば多くの観光客で賑わう観光地となっていた。そこで始まった追いかけっこは、すでにかくれんぼの様相を呈している。
Black Catsメンバーの猫柳理奈を追って、同じくメンバーの夏野千里が走り、さらに、その後を素性不明の男二人が追っていた。神尾五郎は最後にライブハウスを出て男らの背中を追っていたのだが、さほど行かぬうちに見失ってしまった。
買い物や散策を楽しむ人々でごった返しており、致し方ないといったところか。あてもなく周辺を探し回るが、理奈も千里も見当たらない。しばらく経って遠くに男らの姿を見つけるも、彼らもまた理奈や千里を見失ったらしい。なかば諦めたような様子で周囲を見回しながら、ゆっくり歩いている。
どうしたものかと思っていると、通り過ぎようとした路地裏に千里が潜んでいることに気付いた。思わず声をあげかけた五郎だが、ぐいと手を引かれて路地裏にひっぱりこまれた。
「静かにしとくれ。あいつら、まだいるかい?」
「ああ、後を追ってた二人組なら、この先をうろうろしてますよ」
「そうかい。理奈を見失って立ち止まっていたら、あいつらが声をかけてきてね。どこぞの刑事らしい。ちょっと話を聞ききたいなんて言ってたが、警察なんぞ、ごめんだね。逃げ出して隠れてたんだ」
「なにか心当たりでも?」
「あるわきゃないだろ。でもね、痛くもない腹を探られるのはかなわない。三十六計、逃げるに如かずだ。お近付きにならないに越したことはないからね。ただ、あいつらがいると自由に動けない。あたしの代わりに理奈を探してくれないかい。ちょっとばかし様子がおかしくて、気になってるんだ」
「構いませんけど、あてもなく探しても……」
と言葉途中の五郎に、頼んだよと言い残すと、千里は路地奥へ駆けて行った。気付くと、表通りから先の二人組が路地に入ってきていた。駆け出した千里に気付いて後を追う。
とはいえ、狭い路地のことだ。棒立ちの五郎にぶつかりそうになる。年嵩の男の方は俊敏に身を翻してすり抜けて行ったが、若い男の方は、壁にぶつかり、室外機につまずき、盛大にひっくり返った。身を起こしざま五郎に目を向けるが、先を行く年嵩の男に怒鳴られて後を追って行く。
取り残された五郎は男たちの背中を静かに見送るばかりだ。理奈を探してくれと言われても、どこをどう探せば良いのやら。途方に暮れていたところ、
むむっ!
と声を上げたのは、自称式霊だか神様の温州蜜柑だ。愛らしいくまのマスコットに宿り、五郎の胸ポケットに、ちょこんと納まっている。その頭の毛が、ぴょこんと立って、まるでアンテナのよう。
「むむ、妖気が!」
「おい、やめろ。そおゆうのわ、だめだ」
「うっさいわ。だまっとれ! むむ、こっちや! マジン・ゴー!」
自信満々の温州蜜柑の言うまま、あっち行きこっち行きしていった先、雑居ビルの屋上に、黒猫を抱えてうずくまる猫柳理奈を見つけ出した。




