第31話 走れ走れ走れ
小さなライブハウス内に、ごうごうと風が吹き荒れていた。ステージに白い煙が生じ、渦を巻いて風が吹き出したのだ。聴衆をなぎ倒すように荒れ狂い、人々を壁際へ押しやる。
空調機の故障とか、外から吹き込んだ風の仕業といった代物ではない。起こるはずのない風が突如として生じたのだ。
演奏中のドラムス猫柳理奈は、その風をまともに浴びて顔を伏せていたが、腹を立てたように、
ドクン!
と、力いっぱいバスドラムを踏み叩いてみせた。すると、風に負けぬ振動が空気を揺らし、渦を巻いていた煙も動きを止めた。スティックを置いて黒猫を抱き上げるとステージから飛び降り、呆然とする人々の間をすり抜けて走りだす。
後を追って走りだした千里の前に若い男が立ちはだかった。ライブ前に美琴にぶつかった男である。しかし、ちょっと待てと声をかけるも、邪魔だとばかりに突き飛ばされてしまう。よろけた男を年嵩の男が受け止め、行くぞと声をかけた。
ライブハウスを出て表通りを走る理奈を千里が追い、さらに二人の男が追っていく。その様子を呆然と見送る五郎に、
「なんかおかしいわ。わてらも行くぞ!」
と声をかけてきたのは温州蜜柑だ。美琴のポケットから五郎のポケットに移っていた。
「パイルダー・オン! マジン・ゴー!」
などと叫んでいる。俺は超合金じゃねぇよ、と応じながらも走り出す五郎だった。




