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湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第7章 頂上決戦
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第159話 雲を喰らう


 ビル並みの巨大なクマが空を見上げて吠えている。と言っても、愛らしいデフォルメされた姿のため、なんら迫力はない。ぽつりとつぶやく五郎である。


「迫力ないなぁ」


「やかましい! おまんの想像力が貧困やで、いつもと変わらん格好になったんやろが」


「赤カブトにしとけば良かったのに」


「なんでや。悪役やがな」


「そんなことより、なんか凄いのが」


 ん? と空を見上げた蜜柑が、んがと口を開けた。


「げげげ、なんやこれ」


 と思うのも無理はない。夕焼けに染まる雲が、ぽっかりと丸く切り取られていくのだ。神辺市全域を飲み込めそうなほど巨大な球状のものが、雲を削りながら落ちて来ていた。


「見えへんけど、雲を喰うとるんか。音なして、もっと小さかったんやないの?」


「以前は、そうでした」

 胡蝶を通じてスーが応じる。「まだ万全ではなかったのです。爆発で散っていた分も、すべて集まったのでしょう」


「アトラスになれって、あれを受け止めろってこと? ちょっとでかすぎと違う?……あ、そや、今日は早く帰らなあかんのや。じゃ、ま、そういうことで」


「待て待て」


 しれっとケツをまくろうとする蜜柑を、五郎が呼び止めた。


「いや、あれは無理やろ。ビル並みの大きさになっても、街ひとつ潰すようなもんを受け止められるわけがないやろ。って、足が動かへん。なんでや」


「ふむ、どうやら俺の意思も強く反映されるようだな。はっはっは、抜かったな」


「あかんて。これは無理や。ちょっと大きめの愛らしいくまの煎餅ができあがるだけや。ぺっちゃんこやで、ぺっちゃんこ。間違いないわ」


「それでもやるしかない。だろう?」


「はぁ、取り憑く相手を間違えたわ。こうなったら、やったろうやないか」


 再び、やけくそ気味の覚悟を決めた蜜柑に向かってスーがいう。


「うふふ、その意気ですわ。まずは一度、にもかくにも受け止めないことには話になりません。他の者も、ミサキと戦い続けています。会場内にもあなたたちの元へも行かせません」


「はん! しゃあない、やるか。佳乃、聞こえとるんやろ。折り紙、頼むで」


「わかってるわ。折り紙だけじゃない。神辺市中の紙という紙を呼び寄せて音なしを覆ってやります。五郎様、その後はお頼みします」


「よくはわからんが、心得た!」


「五郎はん、おまんもだいぶ適当になってきたな。そやけど、そういうの嫌いやないで」


 再び、巨大なくまが天に向かって吠えた。


 それを見て、ライブ会場でも人々が声をあげ、尋常でない盛り上がりをみせていた。さらに、灯の落ちていく空に、ばさばさと無数の紙が舞い上がっていく。


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