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湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第4章 恋する季節
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第119話 恋は戦争


 異形の烏によって穢され、荒され、辱しめられた空間、きみの湯の脱衣所は、月子さんの放った閃光に清められ、元の姿を取り戻していた。もっとも、散乱した脱衣かごや倒れた棚、ひっくり返った屑かごなどはそのままだが。


 落ち着きを取り戻した一同が驚愕の思いで月子さんを見つめると、


「あらやだ。私ったら、はしたない……」


と、ぽっと頬を赤らめた。


「驚かせてごめんなさい。ちょっぴり、イラっと来ちゃった」


 えへへと笑う月子さんだが、以後、怒らせぬように気をつけようと思う面々であった。腰の引けた様子ながら、名坂警部補が声をかける。


「いや、さすがです。まったくもって無礼千万。月子さんのような可憐な方に斬り捨てごめんの言い草でしたな。あやつが全面的に悪い」


「えー、そうですかぁ。そうですよね?」


 とのやりとりを、ちっと舌打ちして眺めるのが夏野千里だ。二人の間に割って入るようにして、


「まあ悪いのは、あいつだろうさ。しかし、なかなか容赦ないね」


「うふふ、ありがとうございます」


「ふふん。どういたしまして。高島とやら、いろいろ知ってそうだったのに、なにもわからなくなっちまったね。困ったもんだ」


「ええ、後先考えずに動いて、私としたことが、まるで千里さんみたいです」


「本当に何も考えていない空っぽなのか、意外と計算高いのか。どちらかねぇ」


「ワゴンセールにはワゴンセールの良さもありますからねぇ」


 ばちばちと火花が見えそうなやりとりも、名坂警部補には見えども見えず。渦中の人物に渦は見えぬか。被弾を恐れては前へ進めぬ。地雷原を駆け抜ける無謀さは若さゆえの特権だ。進め、叫べ、若人よ。進んだばかりに地雷を踏み抜き、叫んだばかりに狙い撃たれようと、それでも前へ出てたおれるべし。


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