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湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第4章 恋する季節
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第117話 きみは違う


 三本脚の烏を、佳乃が一刀両断。真っ二つに斬って捨てるも、かえって二羽に増え、成り行きを見守っていた美琴と葛音に襲いかかった。


 ざん!


 と今度は横薙ぎに、二羽の烏を斬り払った。黒い液体と悪臭を撒き散らしながら、その体を四分するが、これも先の通り、四つの断片が、ぶくぶくと泡立ち、それぞれ元の大きさの烏と化した。


「くっ、斬れば斬るほど増える。あほの蜜柑と同じ単細胞、あるいはプラナリアの類いね」


「誰がプラナリアや。わては斬られても増えへんわい。馬鹿にしとるやろ、腐れ式神が!」


「そういうところよ、この単細胞」


「こら、冷めた目で言うんやない。あと、プラナリアは単細胞とちゃうからな」


「知ってるわ。単細胞なのはあなたよ」


 んぎぎ、と歯軋はぎしりする蜜柑に向かって、忘れられていた烏が口を開いた。


「きみが温州蜜柑か。幾年いくとせの昔語りにも記載はない。まがつ神とは言い条、果たして何者であるか。僕にもわからないね。器の小さな単細胞らしいとメモしておこう」


「こらこら、変なことをメモるんやない。わてのことを知らんやて? あ、知らざあ言って聞かせやしょう。明治からの名門神尾家の御門を護る御式霊、その御役の夜働き。以前までもはわからぬが、穢れの産みし禍つ神、住処由縁すみかゆえんの温州蜜柑たぁ、わてのことや!」


「蜜柑、長いわ」


「ええんや。ほれ、相手さんも待ってくれとるやろ。これが日本の心やで」


「……いま、神尾家の式霊と言ったか。僕の前で、それをかたるな。見ることも触ることも聞くこともできない。見えず、触れず、聞けず。故に音なし。きみは違う!」


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