第117話 きみは違う
三本脚の烏を、佳乃が一刀両断。真っ二つに斬って捨てるも、かえって二羽に増え、成り行きを見守っていた美琴と葛音に襲いかかった。
ざん!
と今度は横薙ぎに、二羽の烏を斬り払った。黒い液体と悪臭を撒き散らしながら、その体を四分するが、これも先の通り、四つの断片が、ぶくぶくと泡立ち、それぞれ元の大きさの烏と化した。
「くっ、斬れば斬るほど増える。あほの蜜柑と同じ単細胞、あるいはプラナリアの類いね」
「誰がプラナリアや。わては斬られても増えへんわい。馬鹿にしとるやろ、腐れ式神が!」
「そういうところよ、この単細胞」
「こら、冷めた目で言うんやない。あと、プラナリアは単細胞とちゃうからな」
「知ってるわ。単細胞なのはあなたよ」
んぎぎ、と歯軋りする蜜柑に向かって、忘れられていた烏が口を開いた。
「きみが温州蜜柑か。幾年の昔語りにも記載はない。禍つ神とは言い条、果たして何者であるか。僕にもわからないね。器の小さな単細胞らしいとメモしておこう」
「こらこら、変なことをメモるんやない。わてのことを知らんやて? あ、知らざあ言って聞かせやしょう。明治からの名門神尾家の御門を護る御式霊、その御役の夜働き。以前までもはわからぬが、穢れの産みし禍つ神、住処由縁の温州蜜柑たぁ、わてのことや!」
「蜜柑、長いわ」
「ええんや。ほれ、相手さんも待ってくれとるやろ。これが日本の心やで」
「……いま、神尾家の式霊と言ったか。僕の前で、それを騙るな。見ることも触ることも聞くこともできない。見えず、触れず、聞けず。故に音なし。きみは違う!」




