第115話 ものをいう
大家の婆さんと蜜は祖母と孫の関係であり、婆さんが蜜を見据えていう。
「あんたの組が潰れたとは聞いてたけど、いったい何をやってるんだか」
「うるせぇな。仕事だよ」
「女湯の覗きがねぇ」
「ち、違う! 土地、建物の売り買いだ。大口の仕事なんだぜ」
「それがどうして覗きなんぞ。あんたは中途半端なんだよ。爺さんに憧れて侠客を気取ったって無理さ。時代も違うしね。ただのチンピラで終わるのが落ちだ。やめときな」
くっ、と返事に詰まる蜜に代わって言い返したのは弟分の鉄である。
「兄貴の御婆様とお見受けしますが、そう悪く言わないでやってください。
たしかに時代遅れの侠客気取り。弱きを助け、その強きを挫き、目前の利を得ず。そんなことは、いまどき流行りません。人の目を抜いて売り飛ばすような時代に、馬鹿丸出しもいいところ」
「馬鹿丸出しって、おまえ」
口を挟みかけた蜜に、黙っててくださいと投げつけ、でもねと続ける。
「俺らにとっては良い兄貴です。ドラッグだって、ずっと反対してました。だから捕まることもなかった。そのぶん、あがりは悪いし、上の受けも悪い。舎弟だって、俺みたいな理屈屋と、頭の悪い熊とを押し付けられて。今回の地上げ話だって、もっとタチの悪い奴らにいくところを、手を回して引き受けたんですよ。あがりのほとんどを渡す約束でね。ほんと馬鹿丸出しですよ。でも、そんな兄貴に惚れてんです。悪く言わねぇでやってください」
「そうかい。良い弟分を持ったね。馬鹿丸出しのあんたに付いてきてくれる奴を大事にするんだよ」
いよっ! ぽんぽんぽん、と大団円の雰囲気だったが、そうそうと思い出したように婆さんがいう。
「聞き損ねるとこだったけど、きみの湯を買いたいってのは、どこのどいつだい?」
「商売のことだが、仕方ねぇな。ここを買いたがっているのは高島承之助という胡散臭い野郎だ。風水じみたことを商売にしている。そこそこ上客がついてるようだが、どういうわけで、こんな銭湯に大金を出そうというのか。それは知らねえよ」
床に座り込んで、ふてぶてしく応じていた蜜の背中から、ぶくぶくと黒い影が生じ、それが、からかうような口調でものを言った。
「あーあ、喋ってしまったね」




