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湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第4章 恋する季節
115/166

第115話 ものをいう


 大家の婆さんと蜜は祖母と孫の関係であり、婆さんが蜜を見据えていう。


「あんたの組が潰れたとは聞いてたけど、いったい何をやってるんだか」


「うるせぇな。仕事だよ」


「女湯の覗きがねぇ」


「ち、違う! 土地、建物の売り買いだ。大口の仕事なんだぜ」


「それがどうして覗きなんぞ。あんたは中途半端なんだよ。爺さんに憧れて侠客きょうかくを気取ったって無理さ。時代も違うしね。ただのチンピラで終わるのが落ちだ。やめときな」


 くっ、と返事に詰まる蜜に代わって言い返したのは弟分の鉄である。


「兄貴の御婆様とお見受けしますが、そう悪く言わないでやってください。

 たしかに時代遅れの侠客気取り。弱きを助け、その強きを挫き、目前の利を得ず。そんなことは、いまどき流行りません。人の目を抜いて売り飛ばすような時代に、馬鹿丸出しもいいところ」


「馬鹿丸出しって、おまえ」


 口を挟みかけた蜜に、黙っててくださいと投げつけ、でもねと続ける。


「俺らにとっては良い兄貴です。ドラッグだって、ずっと反対してました。だから捕まることもなかった。そのぶん、あがりは悪いし、上の受けも悪い。舎弟だって、俺みたいな理屈屋と、頭の悪い熊とを押し付けられて。今回の地上げ話だって、もっとタチの悪い奴らにいくところを、手を回して引き受けたんですよ。あがりのほとんどを渡す約束でね。ほんと馬鹿丸出しですよ。でも、そんな兄貴に惚れてんです。悪く言わねぇでやってください」


「そうかい。良い弟分を持ったね。馬鹿丸出しのあんたに付いてきてくれる奴を大事にするんだよ」


 いよっ! ぽんぽんぽん、と大団円の雰囲気だったが、そうそうと思い出したように婆さんがいう。


「聞き損ねるとこだったけど、きみの湯を買いたいってのは、どこのどいつだい?」


「商売のことだが、仕方ねぇな。ここを買いたがっているのは高島承之助という胡散臭い野郎だ。風水じみたことを商売にしている。そこそこ上客がついてるようだが、どういうわけで、こんな銭湯に大金を出そうというのか。それは知らねえよ」


 床に座り込んで、ふてぶてしく応じていた蜜の背中から、ぶくぶくと黒い影が生じ、それが、からかうような口調でものを言った。


「あーあ、喋ってしまったね」


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