第114話 いいかげんにしな!
逃げ込んだ千里を追って、蜜、鉄、熊の三人組も女湯の脱衣所へ。寂れた銭湯のことであり、しょせんは萎びた、失礼、お年を召した方々しかいない。かと思えば、さにあらず。
若い女性の悲鳴があがった。
脱衣所にいたのは双子の女子高生、稲田美琴と葛音だ。ちょうど学校帰り、客の少ない時間にと制服を脱ぎかけたところだった。あられもない格好で悲鳴をあげたものである。
五郎と名坂警部補が脱衣所に飛び込んだ時には、チンピラの蜜が、千里、美琴、葛音に袋叩きにされているところだった。よく見ると、庇うような振りをしながら、鉄と熊も蜜を足蹴にしていた。しばらく耐えていた蜜が、がばりと起き上がって吼え立てる。
「やめろ! こら!」
遠巻きにする女性陣を睨みつけ、しれっと自分のそばに立つ鉄と熊に向かっていう。
「おまえら、一緒になって手を出してなかったか」
「手は出してません」
「ほんまか?」
「足は出しました」
「……そういうのはええ。おら、鉄、熊、あの女を捕まえろ」
へいと鉄が返事して、熊と二人で千里を追い回す。脱衣かごを倒し、棚を倒し、くずかごを蹴飛ばし、あげく、下着姿の葛音を突き飛ばした。蜜は名坂警部補と揉み合いになり、美琴は控えめな胸を隠しながら、見ないで! と五郎にグーパンチだ。普段は静かな脱衣所が大騒ぎとなっていた。
騒ぎを聞きつけて風呂から上がってきたのが大家の婆さんで、動じる風もなく体を拭くと、ゆっくりと着替え終えた。さらに、押っ取り刀でやってきた月子さんが脱衣所の騒ぎを目にして、
「ちょ、ちょっと落ち着いて。みなさーん、落ち着いてくださーい」
と呼びかけるも、誰の耳にも届かない。みなさん、みなさんという声のトーンが少しずつ下がって、
「みなさん、みなさんってばぁ。もう、いいかげんに。い、い、か、げ、ん、に……」
と爆発寸前の月子さんだったが、その肩に手を乗せて、大家の婆さんがよく通る声で一喝!
「あんたたち、いいかげんにしな!」
との迫力に脱衣所内が静まり返った。その後、最初に口を開いたのは蜜だ。
「なんだ、偉そうに。萎びたばばあに用は……。って、ば、ばばあ!」
「ばばあ、ばばあと失礼な奴だね。子供の頃みたいに、おばあちゃんとお呼びよ」
言われて、ぐぅの音も出ない様子。どうやら蜜は、大家の婆さんの孫らしい。




