後編
後編は山場と結末です。
次の日、事は起こった。
それは夕方になり、空がきれいなあかね色に染まっていた頃だった。
真白がいつものように仕事をしていると、一通のメールが来た。
そのメールにはー。
【件名】
今来れるかい?
【本文】
店長です。
真白くん。今、君にとっての大変な事になっています。
出来るなら今すぐに来てくれた方がいいと思い、メールをしました。
「ーッッ!!」
このメールを見て、真白は直感した。
ー―ミィーミィがいなくなる。
そう思った瞬間にはもう走り出していた。
後で上司に怒られようが、それは「後」の事だ。
事は「今」起こっている。
俺は思いっきり会社を飛び出すが、構わずさらに速度を上げた。
そして同時に考える。
まず考えた事は、貰い手の事だ。
ーどんな人物なのか?
―ミィーミィの事をちゃんと幸せにしてやれるのか?
(ーいや)
店長の所は「店」なのだ、真白みたいな客を受け入れていたのがまずおかしいんだ。
(俺は、言える立場に無い····)
俺は···何もして来なかった「邪魔者」なのだ。
(···もし、ミィーミィがその相手を拒んだら?)
····そんな事はあるのだろうか?
あの店は元々客入りが少なかったし·····。
····今までのは全て、俺の思い上がりだったのかもしれない。
「俺にだけ」なんてあるわけがない。
(·······)
そう思うと、急に不安になってきた。
―今思えば、ミィーミィの気持ちは俺が「勝手に決めつけていた」だけじゃないか。
―俺を好きだと「俺が」思っていた。
―特別だと「俺だけが」感じていた。
「····ははっ、そうだよな」
今駆けつけても俺に出来ることはない。
·····戻ろうかな。
だがそう思っても何故だか足はあの場所に向かっていた。
まるで、なにかに引かれるかのように―。
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気がつけば「白雪ペットショップ」の看板の下にいた。
ーもう、どうなっても見届けよう。
―俺には関係ない事なのだから。
真白はドアを開けて中に入った。
するとそこには中学生くらいの男の子と小学生くらいの女の子が店長と話をしていた。
―ミィーミィは女の子に抱っこされていた。
(····嫌がっていない、やっぱりか···)
俺の考えた通りだ。
「あ、真白くん!!来てくれたのかい?急に呼び出して悪かったね」
真白が「いや···」と返すと男の子と女の子がこちらを向いた。
男の子の方は、眠そうな目をしている。
―だが、物語の主人公のような、そんな不思議な雰囲気を持っていた。
女の子の方は、ミィーミィを優しく抱いて幸せそうににこにこしていた。
「彼がさっき話していた白雪くんだよ。この子のことをずっと大切に想ってきた人だからさ、最後くらいは呼ぼうと思ったんだよ」
真白はその二人に「こんにちは」と言った。
すると二人も「こんにちは」と返してくれた。
―良い子たちのようだ。
「彼は家で疎かに出来ないことがあるから、その子を飼えなかったそうだ」
それと、一つの「命」にある重さや付いてくる責任を知っていると言うのもある。
「彼は····その子の事が大好きなんだ。最後に抱っこさせてあげたいんだ」
店長の「最後」と言う言葉が心を刺す。
(別れは突然に、と言うが。本当だったんだな)
そんな事を思っていると女の子が近づいてくる。
「···お兄さん。この子·····トラ美のこと、どのくらい好きなの?」
女の子はそう言ってミィーミィを見せる。
(トラ美っていう名前を付けたのか)
ミィーミィは女の子に抱かれ、心地よさそうにしている。
(この子のたちにならミィーミィを―)
真白は直感的にそう感じていた。
ーだから、こう答えた。
「う~ん、カニくらい?」
「カニ?」
「そう、カニ。僕の大好物なんだ」
真白は努めて明るくそう言ったが店長にはバレてしまったようだ。後ろで苦笑いしている。
(····本当は何よりも好きなんだけどね·····)
真白は嘘を付いた。
この子たちに罪悪感が生まれないように。
真白の狙った通り、女の子は「あはは、何それー」と笑ってくれた。
そして、「はいっ!!」と言ってミィーミィを渡してくれた。
真白は優しくミィーミィを抱っこする。
「·····ッッ!」
とても暖かい体、ふわふわの毛、愛くるしく見えるその瞳に····心を打たれてしまう。
目頭に思わず熱いものがこみ上げてくる。
だが、ぐっと堪えてミィーミィに笑顔を見せる。
別れると思っていないのだろう。ミィーミィは「···ミィー」と鳴く。
(あぁ···やっぱり、可愛いな···)
ミィーミィは可愛い。
―だから、飼えない。
情が募れば募るほど、失った時の反動が大きい。
ー真白はその事を知っているから。
「···もういいよ、ありがとう」
真白はそう言ってミィーミィを女の子に返した。
「もういいの?」
女の子が聞いてくる。
「······うん。もう、いいんだよ」
そう言って女の子の頭を撫でる。
「終わったのか?なら行くぞ、ののか」
すると男の子がゲージやらエサやらをもって店を出ていってしまう。
「あっ···お兄ちゃん!!ちょっと待ってよ!!····では、店長さんお兄さん、さようなら」
そう言うと女の子はミィーミィを抱えて店を出ていった。
(あの子たちならきっと大丈夫だろう。)
―何処からか来るそんな自信を信じて、真白も店を後にした。
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後日、真白は「白雪ペットショップ」に向かった。
中へ入る。
いつも通りの獣臭、視界に入る様々な動物たち、優しく微笑む店長。
―いつも通りだ。
だが、時間の流れは変えるものの方が多い。
真白は一つのショーケースの前に立つ。
(もうはっきりと割り切ったはずだったんだけどな····)
こう言う場合、普通の人は忘れようとするのかもしれない。
でも真白はそうはしなかった。
―だって、大好きだったから。
あのぬくもり、あの感触、あの瞳、全てが大好きだったから。
どれも忘れられない大切な思い出、気持ちたちだ。
構いすぎて怒られた時もあった。
その後、「ごめんね」と言って撫でていたら許してもらえた。
仕事が忙しくてなかなか来れなかった時もあった。
拗ねていたが、抱っこしてやると機嫌が良くなった。
妹を連れて来た時もあった。
ミィーミィは妹に懐かず、勝った気持ちになった時もある。
どれも、忘れられない大切な時間だ。
(·······)
ケースの中をもう一度よく見る。
そこにはもう、何もなかった―。
だが、真白は何を思ったのかほほえんだ。
(····帰るか)
真白は店長に「さよなら」と言って店を出た。
―「また明日」ではなく、「さよなら」と言って。
この作品は元々、実況者さんの「白雪真白」さんをモデルにした作品です。
自分が尊敬しているひとですのでどう書こうかと思っていたら「そういえば真白さんって動物狂いだったな」と言うことを思い出してこの作品を書きました。
感動···と言うより切ない感じの作品になりましたが、自分的には大満足です。
ハッピーエンドでもバッドエンドでもない「トゥルーエンド」を目指して書きました。
たまにはこう言う作品を書くのも楽しいものですねw