まさかみんなバイト内容知ってたの?
「ようレティーシア。きたか。」
「きたよ~。」
「もうすぐ夏休みだからな。お前は実家に帰るんだろ?」
「あ、うん。シルの領でバイトもあるし……。」
「だったらそれまでにある程度、固有技能を形にしちまいてぇな。」
「確かに!」
「ん? バイト? ラインハート領でか?」
「うん。シルにお洋服とか買ってもらってるんだけど、それは夏休みのバイトで稼げるから前払いよって言われてて。」
「ああ、夏でラインハート領ならあたしも行くな……お前もまぁいいように使われてんなぁ。」
「え? フラ先生は何するか知ってるの?」
「は? 何するかも聞いてねぇのか?」
「……うん。」
「……まぁ確かにお前の場合、何ができるのか把握してたっつーのもあんのかもな……。実際の所、現状で言えばお前、最前線が濃厚だぞ。」
「最前線……?」
「……え? 本当にわかんねぇのか?? ……ラインハート領がどこにあるかは知ってるか?」
「え、うん。グルーネの一番東?」
「面しているのは?」
「え? エリュトス……? え!? まさか戦争に駆り出されるの!? 最前線!?」
「はぁ? 確かに時期的にはエリュトスが攻めて来る頃とかぶるだろうが、戦争ってのは学生がバイトでするもんじゃねぇよ。国の騎士や兵士の仕事だろ。」
「そっか。……じゃぁなんだろ?」
「ラインハート領が面してるのはエリュトスだけじゃねぞ?」
「え? ロト?」
「そことは友好的だな。むしろロトも大変な時期と言えるな。」
「……ってことは未開拓地のこと?」
「そうだよ。なんでこの時期にエリュトスが攻めて来るかわかるか?」
「え? なんでだろ……? やっぱり収穫前の時期を狙って収入を減らすとか?」
「まぁそれもあるだろうが最大の理由はちげぇな。……未開拓地から大規模侵攻があるのさ。毎年この時期にな。それに合わせてエリュトスの奴らが侵攻してくんだよ。あいつらは未開拓地と面してねぇからやりたい放題ってわけだ。」
「うわ、せっこーい!」
「戦争なんてそんなもんだろ。勝てば官軍。負ければ賊軍。何を持ってしても勝ったほうが正しくて、負けた方は戦犯だ。」
「あ、ってことは、ボクのバイトってもしかして……。」
「そう、侵攻してくる魔物の討伐だな。」
「まぁ戦争に駆り出されるよりはましかなぁ。」
「レティーシアは登録冒険者だからな、そこまで危険な場所に配属されることもないだろ。」
「そうなんだ?」
「……にしてもお前、頭はいいのに世間知らずにも程があるよな。」
「……昨日シルにも同じ事言われたばっかなのに、先生まで同じ事言わないでよ……。」
「共通認識だったんだな。」
「……大体、皆忘れてるかもしれないんだけど、ボクは学校教育を受けてないんだよっ! 世間を知らなくてもしょうがないの!」
「自分で勉強してきたって言ってたじゃねぇか。」
「自分で勉強するのは興味があるとこだけだよ?」
「……そんなもんかね。」
「そんなもんなのよ。」
「……おっと。こんな事してる場合じゃねぇな。ちょっと検証方法を羅列してみたから、これを試してみてくれねぇか?」
そういいながら渡された紙には、新しいスキルをとる方法の検証方法がずらっと羅列されていた。
流石フラ先生。こんな細かいところまで考えてくれていたのね。
羅列された方法を一つずつ試していく。
ある程度必要で、取得できそうなスキルを願ってみたり、辞書に載っている有用なスキルの詳細を読みながら確認してみたり。
すると、とある方法で反応があった。
「あ、先生!」
「お、もしかして引いたか?」
「かも。」
そもそもの話。ボクはグリエンタールの使い方についてはそれほど触れてこなかった。
まぁ、このスキルを持っていることを知ってから、それほど経っていないっていうのも大きな理由の一つではあるんだけど、それ以外にもやっぱりどこか忌避感があったってのが本当のところ。
でも、昨日シルと寝る前にグリエンタールのスキル取得について相談していた時に貰った言葉がとても励ましになった。
「貴女は皆の好感度をスキルを取る事に使っているようで抵抗感があるんでしょうけど、そうじゃないんじゃない? 皆の気持ちを汲んでいるとも取れるじゃない。皆から貰ったレティへの気持ちを力に変えるのよ? それをどう使うのはレティ次第。抵抗があるならば貰った気持ちを皆へ返せるようにすればいいのよ。」
正直ね、シルが15,6歳ってなんだか信じられない!
って感想しかでてこないよ?
でもなんとなく忌避感を感じてた気持ちとか、そういうのが楽になったのも事実で。
さらに、これでボクが力をつけておく事で夏休みにシルの力になれるのであれば、これはやらない手はないでしょ。
そ。ただ単純に触れてこなかったってだけで、最初から書いてあったんだよね。
グリエンタールのマップ画面には、4つのアイコンと2つの機能していないアイコンがある。
そして、この4つ目のアイコンは実は触れていないだけだった。
『技能変換』
どう見たってこれでしょ。
アイコン画面を開くと、小さな何も書いていないウインドウが立ち上がった。
手のひらを乗せると白く光りだす。
「先生、どんなスキルをイメージしたらいいかな?」
「とりあえず武器系技能だな。」
「やってみる。」
槍スキルの取得を願うと、白い光が収縮する。
……そのまま消えてしまった。
やっぱり取れないようだ。
[取得に失敗しました。技術技能に必要な錬度が足りません。錬度経験値と必要筋力ステータスをステータス画面に表記します。]
文字が浮かび上がる。
すると、ステータス画面が勝手に立ち上がった。
棒人形ちゃんの各部位に緑文字で数字が羅列されている。
槍修練メニューと言う項目が、これまた緑文字で固有技能一覧の中に表記された。
これ、必要経験値だ。しかもめちゃくちゃ細かい。
棒人形ちゃんに書いてある数字は、多分足りない筋力。
固有技能一覧に載ってきた数字は、多分足りない槍の錬度経験値。
「先生! これやばっ!! 槍スキルLv1を取得する為に必要な、各種必要錬度と、足りない筋肉量が表示されたよ!! これ見ながら訓練すれば無駄なくスキルとれるまで一直線かも……。」
「はぁ!? そんな便利な指標があんのか!?」
「……Lv1までが遠すぎて挫折しそうだけど……。」
「……とりあえず剣スキルの取得要件も出せるか?」
「え? 2つも一度に?」
「いいからやってみろ。」
「うん……。」
言われたとおり同じ工程で剣スキルの錬度経験値と、必要筋力が表示された。
あれ? さっきよりも思ってたよりも必要な項目が増えない。
「うん? 剣スキルの方が取得が簡単なのかな?」
「ちげぇよ。槍の技術を修めた奴が、次に剣の技術を修めようとするのと、1から剣の技術を修めようとするのとじゃ、スタート地点がちげぇだろ。槍と剣っていう武器種の違いはあっても、槍の技術のために培った経験や筋肉が消えるわけじゃねぇ。」
「ってことは、槍スキルを1取れるまで頑張れれば……」
「剣スキルは比較的楽に取れるって事だな。そんなスキル獲得まで一直線に無駄なくとれるのはお前くらいなもんだろうがな。」
「へぇ……ラッキー……。」
「ちっ。苦労すんのも修行のうちなんだが……お前の場合そこで終わりじゃねぇからな。まぁそのくらいの楽は大目にみてやっか。」
「でも、結局この筋力と錬度経験値ってのをクリアすれば槍スキルLv1相当ってことなんでしょ? スキルがわざわざある意味があるの?」
「ああ? スキルが取れる直前と取れた後じゃ錬度が段違いだぞ。ボーナスがつくんだよ。」
「へぇ……。じゃあもしかして、ボクもスキルが取れ始めれば兵科の人たちみたいな動きとかできちゃうってこと?」
「ああ、いつかはそうなるな。」
「わぉ。絶対ボクには無理だと思ってたよ。」
目標が目に見えるって夢が膨らむよね。
数字的に残り経験値が見えるってのはすごい気が楽だし、実際見ている兵科の先輩達の動きは今のボクじゃ絶対に真似できない。
でもそれができるかもしれないなんて、本当に夢の様じゃない?
この錬度っていうのは、どういう訓練をどれくらいすればいいのかはまだわからないけど、軽装兵科の訓練をしながら数値を見ていけば大体の見当はつけられそう。
後は筋力が一番の問題かな……。
ボクはそこまで訓練をしてきたわけじゃないから、筋肉は1からつけていかなきゃいけない。
でも、筋肉をつけることに関してはちょっと秘策もあるんだよね。
ムッキムキなボディビルダーになりたいんじゃなくて、フラ先生のようなスラッとした、必要な筋肉を必要な分だけつける理想体型を目指すのなら……。
スポーツは科学なんだよ?ふふ。
ああ!!先生がバイトの内容教えてくれたせいで、イオネちゃんを尋問する必要がなくなっちゃったじゃない!!……しょうがない。他の尋問事項でも考えようかな!
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