be deeply in ...?
アレクサイドが中途半端に一旦切れます。次回序章ラストの予定。
あれから、僕は毎日図書館へ通った。
彼女と会えるのは3日に1回程度だった。
それでも嬉しかった。
当初、長期滞在とは言っても、フルスト領にいるのは半年程度の予定だったが、どうにかお父様を説得して学校の入学まで、という期限付きでフルスト領に単独で残らせてもらうことになった。
もちろん単独なんていっても、常駐のメイドや、じい、お世話係のメイドたちもいるので、生活に困ることはない。
と思っていたら、なんとお母様も残ってくださるそうだ。
どうしよう。どうしたらいいんだ……
レティと一緒にいると緊張してうまく話せない。
話しかけてくれるのに、「うん」とか「そうだね」とか言って会話を終わらせてしまう。
そのたび、ちょっと寂しい顔をするレティを見て自分の不甲斐なさに胸が痛む。
このままじゃいけない。
「どうしたらいいだろう?」
じいに相談してみた。
じいは、どうせ何を隠していてもお見通しだ。僕の自分自身のことだって、じいの方がよく知ってるんじゃないかと思うくらいすごい。
『自分でできないことは人を頼れ。人を頼れないのは自分の行いのせいだ』
前にお父様に言われた言葉だ。
「プレゼントなんていかがでしょう?」
「プレゼント……?」
「はい、レティーシア様に確実に喜んでいただけるものがあるのですが、それにはすこぉし……坊ちゃんが我慢しないといけないこともありますなぁ」
じいがちょっと目をそらして口ひげをいじるときは、大抵いじわるのときだ。
「がまんする! なんだってがまんするよ! おしえて!」
「それはですな……」
じいに言われて初めて気づかされる。
自分は恵まれた環境の中にいたことに。
レティのことを気づいてあげられなかったことに。
すぐにお母様の下へ走った。
「お母様! おねがいがあるのだけど!」
「なあに? アレク。そんなに急いで……」
「魔水晶が欲しいんだ。まほーのくんれんをはじめたくて」
「まぁ……」
お母様が驚いたそぶりでじいに視線を移す。
もう渡しても大丈夫なのか? という問いかけだろう。
じいはにこやかに笑っているだけだ。
「よいでしょう。こちらの屋敷にも魔結晶があったはずよ。どうせ長く使うのであれば、結晶でも構わないでしょう。お使いなさいな」
「お、お母様……いえ、その……魔水晶のかけらでよいのです。かけらでよいので、二ついただけませんでしょうか?」
魔結晶とは、魔水晶の塊。水晶体が地中で混ざり合い、大きな結晶体となる。魔水晶の完全体の数十倍は価値のあるものだ。
「二つ?……なぜ二つ必要なのかしら? クレストはもう魔水晶は持ってるわよね?」
クレストとはじいのことである。
「そ、それはね……っ!」
一所懸命にお母様に説明する。
平民の子だけど、自力でがんばっている子がいること。
自分もそれに触発されてがんばれていること。
多分、自分では欠片でも手に入らないだろうことで、その子の未来が閉ざされるのはもったいないということ。
それを話し終えると、お母様がにかっと笑った。
お母様がそんな笑い方をしたところは初めて見た。
「あらあら。あらあらあら。ここに残りたいだなんて強く言うから、何事かと思っていたら。まぁまぁ、この子ったら。こんな年齢からマセちゃって。将来大丈夫かしら?……ふふふ」
「その代わり、ちゃんとお勉強は続けるのよ」
「はい!ありがとうお母様!」
魔水晶のかけらを二つ受け取ると、持ち物ポーチの中に大事にしまっておく。
どうやって渡そう? いきなり何もないのにプレゼントとかっておかしくないかな?
そもそも、勝手に盛り上がって用意しちゃったけど、貰ってくれるのだろうか?
「いらない」とか「きもちわるい」だなんて言われたら立ち直れそうに無い。
ああ、せめて誕生日でも聞いておけばよかった……
そんな想いがぐるぐると頭の中を駆け回り、その夜は眠れなかった。
結局一睡もできないまま朝を向かえ、いつもの図書館へ向かう。
いつもと違うのは、図書館の中に入るのではなく、図書館の敷地に付随する公園へ足を運んだ。
今日くるかはわからないが、レティが来たら魔水晶をプレゼントする。
―――突然、レティの手をとって魔水晶の欠片を握らせる。
開けてごらん?
状況がわからず魔水晶を見つめるレティ。
君へのプレゼントだよ。
きっと飛び切りの笑顔で返してくれるに違いない! えへへ。
「おはよ、アレク様。なにしてるの?」
そんなどこの本からとってきたのかわからない妄想を膨らませていたら、突然聞きなれた声が聞こえる。
「お、おおっおはようレティ。……きょ、今日も……今日は……ね、魔水晶のかけらを持ってきたから、魔力を流してみようと思ってるんだ! そそそ、そうだ、レティもやるかい?」
そのまま魔水晶をひとつ取らせてしまった。
あああああ。僕は何をやっているんだ……昨日一晩あんなに考えたのに……