・・・これって本当にこのままで大丈夫?
グリエンタールのスキルのことについては前々からフラ先生に話そうとは思っていたけど、まさか転生のことについてまで話そうだなんて思ってもいなかった。
別に誰かに話すようなことでもないと思っていたからね。
でも結果的には話せてよかったと思う。
前世の世界から来ているのは、ボク1人じゃないってわかったし。
結局の所、ボク1人ではスキルの増やし方もわからない。
現状わかっているスキルの取り方は1つ。
願うこと。
ただ、いくら願ったとしてもスキルが取れないことがある事もわかってる。
今まで色んな場面で武器を握ってきた時に、武器に振り回されるわ、うまく扱えなくて敵にいいように攻撃されるわ……あれほど武器系スキルが欲しいと願ったにも拘らず1つもとれていないんだもん。
ならばこの武器系スキルについて検証したいことは、次の段階ということになる。
技術を磨き、もし武器スキルが1取れた時に、すぐに10にできるのか?
というところだ。
だけど実は、ボクの中では武器スキルに関してはある程度予測がついていたりする。
10にできるのか?
多分答えは否だ。
なぜ武器系スキルが取れないのかというと、武器を扱う技術とは肉体的な強度ももちろんあるんだろうけど、それ以上に経験が技術となるからだ。
グリエンタールのスキルでは、どんなにスキルレベルを上げられても経験を蓄積することはできない。
剣や槍の扱いがどんなにうまくなって振り回す事ができたとしようとも、剣や槍を使って本当に戦えるのは死線を掻い潜って来た人だけ。そこには相手の動きの読み筋、武器の錬度、射程の目測、体の動き、武器の強度計算、勘に経験則。他にもたくさんあるだろうすべてが合わさってこその、その武器のスキルレベルなのだ。数字なんかでは表せられない技術。
多分それがグリエンタールで願っても取れないスキルの最たるものという事だと思う。
そして、こんなスキルがある事自体を知ったのが、数ヶ月前の学園入学直後。
ボクはそれ以前に健康でいたい、家族に健康であってほしいと願うことは沢山あったけど、それ以上を望むことはあまり無かったと思う。
多分健康でありたいと願った、その答えは『魔力増幅』というスキルだ。
この世界は奇跡に満ち溢れている。
魔法という名の奇跡に。
つまりは、”病気や怪我をしない”ことは不可能だが、魔力が沢山あればどうにかなるよね? ってことなんだろうね……。まぁなんとも無責任というか。まぁこんなにすごい量の魔力を扱わせて貰えるのだから、文句を言うのはお門違いだね。
もう一つ。マップ機能についても思い当たる節がある。
弟と妹が、幼いころ遊びに出かけて帰ってこなかった時だ。
2人も大きくなってきて、ボクが付きっきりで見ているわけでもなくなった頃、夕方になっても2人が戻ってこなかった時がある。
心配した両親と共にボクも探しに行った。
あの時の不安と後悔は今でも忘れられない。
結果的にはすぐ見つかったんだけどね。
特に村から出て行っていたとかいうわけでもなく、近くの酪農家のおうちでお手伝いをした後、ご馳走になって寝てしまっていたんだそうだ。2人して。流石双子というかなんというか。
まぁ、ここでもグリエンタールさんの無責任さにまた嘆くようなんだけどさ。
その時にスキルはとれていたんじゃないかな。
でも、実際マップスキルが発動することはなかったんだけどね。
多分それぞれの時にスキルは勝手に発現していたんだろう。
ボクの知らない所で。
……本人が知らなきゃ全く意味がないじゃないかっ!
全く。不親切な奴だ。
「お~い、嬢ちゃん、終わったぞ! 着てみてくれ」
フラ先生とその後もスキル構成の話をしたり、これから行きたい場所、欲しい物など雑談に花を咲かせていると、夜になる頃に待合室のドアが開き、ヨルテさんが顔を覗かせた。
そこまで待っているような感覚もなかった程度の時間。
ずいぶんと話し込んじゃったものだ……。
仕上がった鎧は、鎧飾りのような専用のラックに綺麗に着せてあった。
青かった基調は漆黒に。
金色のワンポイントだった天使文字の装飾は赤色に。
明るい青から暗い漆黒へ基調が変わったせいで、もう見た目のダークさから”天使文字”なんて可愛いものじゃなくなっちゃってるけどね?
これじゃ”堕天使文字”だよ。
「嬢ちゃん、こいつの皮は人が装備すると面白い現象が起こるんだ。早く着てみてくれよ。」
ヨルテさんに急かされ肌を通すと、思っていた以上にぴったりだった。
動きにくさなど欠片も感じられず、重さも普通の服を着ている以上のものが一切ない。
しっとりとして肌に張り付くけど、嫌な締め付け感も全然感じない。
防具的な重さがないといっても過言じゃないくらい。
「すっごぉ! 軽っ! ……あれ?」
あれ?
前の装備より露出部分が多くない……?
「あ、ああ。すまねぇ。素材がちっとばかし足りなくてな。嬢ちゃんが採寸してる時に、フラに嬢ちゃんは肌を露出させてても問題ねぇって聞いたから、少しデザインは変えさせてもらったぞ。」
「えぇ!? それにしたってちょっと大胆すぎない!?」
まず胴用の防具が十字型になってしまっている。
……え? シャツだって皆十字型だろって?
違うんだよ!
あれはだって、胴体と襟の太さが違うんだから、厳密に言ったら十字じゃないでしょ?
そうなのよ。
肋骨の下辺りから脇腹がぽっかりと空いていて、元々の装備には首に装着する部分があったし、すべて青い獣の皮で覆われていたのに首に装着する部分しかない。
チョーカーみたいな。
さらには胸の上が開いてしまっているせいで、肩当てをしても胸元が見えてしまうよ? 緩いわけじゃないから、胸が動いて邪魔な感覚は一切ないのだけれど、ここって急所じゃないの……?
急所だよね……?
開いてていいの……?
そして一番の大問題は。
腰帯の面積が明らかに前よりも小さい……。
太ももの絶対領域が完全に見えているんですけど。
そもそもパンツがショートパンツ程度しかないから、はっきり言ってしまえばビキニより少し面積がある程度しかないのに。
パレオ型なので、右足はまぁ隠れるけど、左足なんてもう履いてないように見えるよ!
ま、まぁ下に何か薄いタイツの様なものがあれば履けばいっか。
後目立った所といったらやっぱこれだよね……。
なんかこの装備、所々赤黒く点滅してない?
……してるよね?
……うん、してる……。
「お、気づいたか? 嬢ちゃんに皮の一部に切り目をいれて貰っただろ? このシュヴァルツ・クラウンウルフの皮が丈夫なのには理由があってな? それがその赤黒い繊維のせいなんだ。」
「へぇ、あたしも初めて知ったな」
「だろ? ワシはこの皮を過去に2度ほど加工したことがあるんだが、わざわざ加工しようとでもしない限り気づかんからな。」
「なるほどなぁ。じゃぁ皮自体が堅ぇわけじゃなかったのか?」
「いや、皮自体もめちゃくちゃ丈夫だ。でも丈夫ってだけの素材ならいくらでも加工し様があんだよ。こいつほど苦労はしねぇんだ」
でも、このなんというか漆黒に赤の装飾……さらには赤黒い光……
対して着ているボクは真っ白で、肌の露出が高めなせいで、コントラストが強調され余計白いところは白く。黒い所は黒く見える気がする。
天使文字が装飾されている装備というように、天使が着ている装備をモチーフに作られているせいで、ものすごい堕天使感が強くなってしまっている気がするよ……。
赤黒い切れ目は、本来あった胸の十字の装飾がこのデザインに変更されており、それとパレオの皺に合わせた部分、胸下の肋骨に沿ったような切り目が左右3本ずつ。呼吸と同じペースで明滅する。
なんというか、最初の青色がベースだった時に感じていた可愛さがすべて邪悪さに変換されているんですけど……。こんなはずではなかったんだけど、今更変えようもない。
こんなはずじゃ……うぅ。
いやね?好きか嫌いかで言えば、まぁどっちかと言うと気に入ってはいるよ?
色合いと露出度以外はもうパーフェクトなんだよ。
めちゃくちゃかっこいいし。
天使っぽくて可愛……かっこいい……し……。
着心地はいいし、何よりこんなに露出してるのにすごい暖かい。
機能性だって申し分ないはずだしね?
「いいじゃねぇか。装備が全身ほぼ漆黒になっちまったせいで、お前の肌に嫌でも目が行くな。露出狂のお前にはぴったりだ。」
「ボクは全っ然! 露出狂じゃないんだよっ!! っていうか青い皮を使ってた時は、もうちょっと金属が見えていたような気がするんだけど……」
なんといってもすべて金属で出来ていたはずの肩当ても、そしてブーツも。漆黒ベースの赤装飾に変わっている。金属感が無いといったらそうでもなく、光沢は普通に金属っぽい。
「おう、サービスで金属も黒天鋼って黒い金属に変えといてやったぞ。高級品なんだぜ?」
「普通の金属でよかったよぅ……。ってえ!? そんな高価な金属の代金なんてもってないよ!?」
加工費はタダでいいといわれたが、素材費をタダにしてやるとは言われていない。
「大丈夫だよ。ワシが好きでやったことだ。黒天鋼の材料費はとらん。」
できれば他の材料費もタダにしてくれると嬉しいな?
「つっても材料費は全部で金貨1枚ほどだ。それくらいならいいだろ?」
「やすっ!」
「後、シュヴァルツ・クラウンウルフの皮の端材なんだが、貰っちまってもいいか? もし貰っていいならその金貨1枚もいらんぞ。」
「え!? ほんとに!? 全然いいよ?」
最初、先生と話していた時に残りの素材は売ってしまえばいいという話だったけど、装備の面積が足りないように、実際は余る素材なんてなかった。
っていうかパレオの素材面積は少なくなったとは言え結構広い。ボクよりも少し大きかった程度の狼1匹から取れる皮材料じゃ、こんなものだよね。
だから端材というのは本当に端材。
他に小さな小物すら作れる材料は残っていない程度。
「こんな研究対象、滅多に手に入るもんでもねぇからな。端材でも貰えるのは嬉しいんだ。ありがとうな」
「いえいえ、むしろこちらこそ。こんなに素敵なものをありがとうございます!」
この装備を気に入ったのは本当だよ?
肌が見えるっていったって、下に何か着てしまえばいいんだからね!
「あ、後な。その装備の赤黒い繊維なんだがな。着てない時は光ったりしてなかっただろ?」
「そういえばそうだね。」
「人肌に触れると明滅しだして柔軟性と硬さが増すんだ。できれば下には何もつけないほうが防御力は高いぞ。」
「……え?」
……そんな馬鹿なことってある?
「お前にぴったりだな。」
先生はボクを何だと思ってるんだよっ!
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