工房は、本当に大きくて広かったよ!
王都には工業区があり、冒険者ギルドからさほど遠くはない。
工業区の一等地であろう巨大な工房に着くと、お弟子さん達と思われる人たちが一斉に頭を下げた。
このヨルテさんというおじさん、そんなにすごい人なのね……。
「おい、ナクアはいるか?」
「なんだい? 父さん」
小さいドワーフの女性が少し先の物陰から顔を出しす。
どうやら女性も同じくらいのサイズみたいだ。
筋肉質なのも変わらない。
フラ先生よりも薄いけど同じ赤髪で、頭の上でバンドをつけてまとめている。
「ナクア、ワシはこれからこの嬢ちゃんに防具を作る。シュヴァルツ・クラウンウルフの皮でな。だからおめぇは嬢ちゃんの採寸をしてやってくれ。」
「はぁ!? シュヴァルツ・クラウンウルフ? 本当にクラウンなのか? あたしも見ちゃダメか?」
「それが加工は学園が秘匿する固有魔法でやるらしくてな。ワシ以外はだめなんだとよ」
「ずりぃぞ! これから老い先の短い父さんよりあたしが経験した方が為になんだろ!?」
「馬鹿言うんじゃねぇ。お前如きまだ新米にこんな仕事任せられるか」
「ああ、くっそ! じゃぁ物が出来上がったら見せてくれよ?」
「あたりめーだ! いいか! おめぇらも今日中に仕上げちまうからな! これを見ずに帰ったら職人じゃねぇ。ちゃんと用意しておけ!」
「「「「おっす!」」」」
全員の声が工房に鳴り響いた。
「ね、ねぇ、先生。この狼さんの皮ってそんなすごいものだったの?」
「あぁ? だから言ったじゃねぇか。ダンジョンのボスクラスの素材だぞ。売っても金貨20枚はくだらねぇ素材だって。」
「おおん? フラ、お前こそ馬鹿言っちゃいけねぇ。こんな状態のいいシュヴァルツ・クラウンの皮なんぞ金貨60枚でも手にはいらねぇよ。」
「だってよ。」
「60枚!?」
「ああ、1枚につきな。上下2枚で金貨120枚ならワシは買うぞ。」
「120!?」
そ、そんな事言われたらちょっと心が揺れちゃうよ?
「なんだ、価値も知らんで持ってたのか? よく盗まれんかったな……。」
金貨120枚のものを部屋の壁に飾ってたなんていえないよ……。それならそうとシルも教えてくれればいいのに……あ、シルにとってはむしろ日常品過ぎて違和感すらなかったのか。
もしかして、これを売ったらもっと色々買えるんじゃないかなんて欲もでてきちゃうんですけど……。
「言っとくが、こんな素材は金を出せば買えるなんてもんじゃねぇぞ。どうせそこまで金には困ってねぇんだろ? 売るのはやめておいたほうがいいぞ。後悔しねぇようにな。」
この国の公爵様達はボクの考えてることを読みすぎなんだよなぁ……。
顔に出やすいのかなぁ。ボク。
「うわっはっは! 嬢ちゃん、学園に通える貴族なのに金貨120枚で揺れるなんて、どんな育てられ方をしたんだい? ずいぶん良い育てられ方をしてるようじゃねぇか!」
「ヨルテ、こいつは平民だぞ」
「はぁ? お前の学園とこの生徒じゃねぇのか?」
「そうだ」
「……あ、もしかしてそういうことか?」
「そういうことだ」
「なるほどなぁ」
何がそういうことなの!?
なんか2人して納得してるようだけど、本人が全然わからないんですけど!?
「え? 何? 何がそういうことなの?」
「ま、判る奴にはお前の価値がわかんだよ」
先生は先生なんだから、もうちょっと生徒にわかりやすい講義を心がけるべきだと思うな??
「じゃぁ嬢ちゃん、ワシが今から裏に切断面を書いてくから、それにそって切断してくれ」
「は~い」
ヨルテさんは流石に手馴れたもので、ものすごい速度で線を引いていく。
その間に、ヨルテさんの娘さんであるナクアさんに連れられて採寸をしてもらった。
「うわぁ。胸でけぇな。邪魔だろこれ。切っちまうか?」
「ええ!!? や、やめて!? 怖っ!」
「冗談だよ。ああ、もしかしてあの鎧にしたのは胸が揺れないからかい?」
「そ、そうなんだよね。流石に戦闘の時に揺れるのは邪魔だから……」
「きっ」
「切らないよ!?」
「ちっ。」
ナクアさんしか見たことないけど、ドワーフの女性は胸筋はあっても胸はないのかな?それとも、ナクアさんが無い方なのか……。
「はい、測れたよ。じゃ、これ父さんのとこもってけば、ぴったりに作ってくれるから」
「あ、ありがとう」
「なぁ、今度いい素材が手に入ったら、あたしんとこへ持ってきなよ。安くしておくからさ!」
「う、うん。いいけど……」
「持ってきてくれなかったら切っちまうからな。あんたの胸、色素もうっすいし綺麗だから高く売れそうだよな」
「やめてー!」
「あはは。にしてもあんた、全身ほんと透明みたいな真っ白な体してんだな。女のあたしでも見とれるくらい綺麗じゃねぇか。それなのに防具なんて作って冒険か戦争にでも行くのかい? もったいないねぇ」
「えへへ、ありがとう? でも余程の傷じゃない限り魔法で治るしね?」
「まぁそうだけどなぁ。ま、あたしは戻るよ。素材の件、覚えてたらでいいから頼んだよ。」
「は~い」
採寸も終わったので制服を着直し、工房に戻る。
既に線引きが終わっていた。
サイズに合わせてここから直すらしい。
「おっし、嬢ちゃん、じゃぁこれに沿って裁断してくれるか?」
「うん」
線に沿って座標を指定していく。切れればいいのだから、素材にあたらない部分は別にどれだけ次元断面が延びていようと問題ないわけだし、そこまで難しいことではない。
「終わったよ?」
「は?」
一瞬魔法を発動させただけで終わる。
持ち上げると型どおりに裁断されていた。うん。線のど真ん中で切れてるね。我ながら上出来。
「……はぁ? た、確かに俺の理解じゃ何が起きたのかわっかんねぇな……。この素材は裁断できない素材で有名なんだが?」
「まぁあたしにもわからんからな」
「そうなのか」
「た、大した事じゃないよ?」
「……まぁええ。この点の部分に出来るだけちっちゃな穴をあけられるか? この素材は針も通らんでな。先に穴をあけんといけん。できれば可能な限り小さい方が見栄えも性能も仕上がりもよくなんだが……」
「ん~……0.1ミリくらいでいい?」
「そんなちっちゃく空けられんのか!?」
「うん。さっきの裁断よりは簡単かな。数は多いけど」
もう一度魔法を発動する。
「はぁ~! こっりゃすげぇ。な、なぁもしかして皮を切断せずに切り込みを入れられたりするか?毛のカット向きを揃えたりとか!!」
「え? 多分出来ると思う……。」
「おお!そ、それならここにな……こういう向きでこれくらいの深さで……」
思ったよりボクの負担が大きかった!
まぁ負担が大きかったのは素材を裁断する部分だけだったけどね。
一通り裁断工程が終わると、後はできるからとヨルテさんが他の素材と組み合わせながら作成に入る。
集中しているようで、周りはもう一切見ていなかった。
「こっからはヨルテの仕事だな。時間もかかんだろうし工房の待合室でも借りて待ってるか?」
「は~い。先生、今のをどうやったかも聞きたい?」
「う~ん、あたしとしちゃ水中で炎を出したあれの方法を知りてぇな。あたし自身の能力向上にも繋がるかもしれねぇからな。」
「うふふ。いいよ。防具の製作が終わるまでね!」
「今後の特殊魔法課の授業にも反映させてやるよ。」
「お、もっとアメが多いとボクは伸びるかも!」
「現状がすでにアメばっかじゃねぇか。すげぇ伸びててよかったな。」
「むぅ!!」
待合室は個室だったので、特に周りを気にすることも無くグリエンタールのことから、すべてを話すことにした。
先生に話したら、今まで後回しにしていたスキルの取得もどんどん考えていこうと思う。
どんなことができるかなぁ。
出来上がる防具も合わせて、楽しみが尽きないな。
本当に学園生活はとても楽しい。
もうすぐ夏を迎え、7月の中盤からは夏休みになる。
シルのラインハート領にも遊びに……? 仕事に……? 行く予定だし。
楽しみだなぁ。
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