約束!
「ところで、レティはどこの村に住んでいるの?」
そういえば言ってなかったかな? ボクもアレクのことは、そういえば何も知らないけど。かといってボクから貴族様に家名とかは聞きづらい。
「フルスト侯爵領のマーデン村よ」
「へぇ、山村なんだっけ? いいところなんだろうね」
「ええ。見晴らしもよくて、とてもいいところよ。アレクも“お外に出られるようになったら”、是非いらしてね!」
「絶対いくから!」
「ねぇアレク。会えなくなっても友達でいてね?」
突然の言葉にアレクが言葉を失っている。
「どっ、どうしたの? 急に!! どっか引っ越したりしちゃうの?」
「ううん。アレクが学校に行くなら、ボクが図書館にいられる時間とほとんどかぶっちゃうでしょ? そしたら明日からはほとんど会えないね」
アレクは驚くと、シュバッという効果音が見える速度で執事のじいの顔を見る。
大抵右後ろにいるので、上半身から発せられる効果音。
「そうですのぉ。坊ちゃまは学校をお休みできる理由はございませんからのぅ」
アレクから生気が薄れていく。
あ、これ、また午後の魔力訓練がなくなるパターンだ。
……失敗した。最後に言えばよかった。
「友達でいてくれないの?」
あどけない笑顔でアレクの顔を覗き込む。
わざとやっているわけではないが、別離した大人の精神で傍から見ると、とてもじゃないが自分の魔女さ加減がやばい。
バッという効果音付で見上げる絶望顔は、そろそろ見慣れてきた。
「そんなわけ! そんなわけないよ! ずっと友達だから!……そうだ! 学校が終わったらまた遊ぼうよ!」
アレクは貴族の子なので、子学校が終わったところで、12歳からは貴族学校、15歳以降も、専門の学校へと進むはずだ。
「でもアレクは子学校が終わっても、まだ続くのでしょう?」
「……僕が会いにいくよ!」
「坊ちゃま」
執事さんが暗に止めているようだ。
咄嗟にでた代案みたいだったが、どうやらアレクは街からはでてはいけないらしい。
冒頭の「お外に出られるようになったら」とはそういう意味である。
魔法が使えるってことを知った時、ボクとしては歓喜に沸いたものだけど、いいことだけではなかった。
この世界には魔獣だっているし、未開の地だってあるし、ダンジョンや巣窟もある。
街には防壁もあれば巡回兵も外周りをしていて、門にはそれは当たり前のように門番が立っている。
アレクに聞いた話だけど、お城がある街へ行くと街の中にも城壁があり、防壁と城壁にもそれぞれ専用の兵器と兵士が常駐しているのだそうだ。
ボクの住んでいる山村なんかは、一応警備兵さんなんかは領から交代で勤務兵が常駐しているけど、防犯性なんか全くないであろう木の柵が申し訳程度にあるだけで、いつ魔獣に襲われるかわからないし、山賊なんていう脅威もあるのだ。
もっとも、農家としては自然の驚異だって怖いんだけどね。
そりゃ貴族の子であるアレクが、わざわざ危ないとこになんか行けるわけないよね。
「うぅ……」
「学校にもお休みはあるんでしょ? その時に会いに来てよ! ボクも一人で魔力訓練やってても上達しないし!」
ぱっとアレクの顔が明るくなる。とてもわかりやすいやつだ。
「そうだね! 休みには毎日くるね! 絶対に!」
「待ってるね!」
そう言いながら二人で指切りをした。
ただ、その約束が果たされることはなかった。
最初の夏休みの頃までは、ボクはいつもの週に2,3日のペースで図書館には通っていたが、アレクが現れることはついになかったのだ。
それからというもの、弟たちが大きくなってきたこともあり、家業が農地を増やしたことでボクも手伝いが忙しくなってしまい、少しずつ過去の思い出となっていってしまう。