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王立アズヴェーラ自然公園っていうんだって。

朝起きると、シルにここで待っているように言われた。


昨日逃げてきた大きな公園。


学園内で話をするのは、どこで聞かれているかもわからないし気を利かせてくれたのはわかる。

ここは人通りも少ないし、丁度いいかもね。


まだ5時過ぎた程度のこの時期は少し肌寒い。

東の空から太陽が昇ってきて、まだ大地が温まっていないから朝露が輝いて見える。


座ってても落ち着かないので、ちょっと散歩しながら体を動かした。


最近はクエストには出たりするけれど、毎日の農作業がない分もうちょっと体を動かしてもいいかもしれないね。兵科の授業で受ける訓練もあるけど、今のところ基礎体力をつけるだけで、筋力をつけるトレーニングもないし。まぁ走り込みって筋力も相応につくんだけどね。


「ふっ……ふっ……」


騎槍を取り出して、素振りを始めてみる。

さすがに光ってるのは目立つし恥ずかしい。光構造を取り除いて再構築した。


こんなことでもしていないと、逃げてしまいたい気持ちが抑えられないから。



「……」


王子がこない。シルとの話はどうなっているんだろう?


素振りを200回ほど頑張った時点で、腕が上がらなくなってきたので休憩する。

ベンチに座ってタオルに使っている布で汗を拭きながら空を眺めると、大分太陽も昇っていた。


6時は過ぎただろうか。この時間になると、もう街は活気付いている。公園の外は色んな人たちが行きかっていた。


「よう……」


うっ……待っていたのは待っていたんだけど、いざその時がくると心臓がすごい締め付けられるように痛い。

鼓動が速まる。聞こえる。空気を伝って周りにも聞こえちゃうよ……。


「り……リンク様……お、おはよ」


「ああ、おはよう」


「……」

「……」


どんなことを伝えようとしていたのか、どうすればいいのか。

あれだけ考えたことが一瞬で頭の中が真っ白になってしまった……。



言葉がでてこない。



「シルヴィアから聞いたよ。もうお前の耳にも入ってたって……。すまなかった。俺が勝手に言ったことなんだ。忘れてほしい」


「あ……え……っと……」


「ちゃんと広まった分も俺がなんとかケリをつけるから。お前は気にせずいつもの通りにしていてくれ。何か困ることがあったらすぐに教えてくれると助かる」


「えっと……」


何か言わないと。何か……。色々考えてたじゃない。何も出てこないの?


「……シルヴィアに殴られたよ」


「へ?」

「ビンタ1回と、鳩尾にグーで1回。ありゃ身体強化もしてただろうな。息ができなかったな」


「ええぇ……」


シルさん!? 何してるの? 大丈夫なの? 王子様殴ったりして!


「……ぷふっ。シルすごいね。王子様にも遠慮しないし」


「だろ?……だけど、今日が初めてだったんだ。シルヴィアがあんなに怒ってるところ見るの。あいつ、俺より年下なのに大人びてるだろ? 俺なんかより遥かに頭もいいしな。あいつが去年、公爵位を継ぐって聞いてびっくりしたんだぜ。俺はそれまで、あいつの方が王に相応しいんだって……ずっと思ってたからな。なんとなく、あいつが王になってもおかしくないんじゃないかって心のどこかでずっと感じてた」


ええ、シルってそんなすごい人だったの……?


「確かに、王子様より頼りになるかも」


「それは否定できねぇな。俺もアレクも、そんなあいつを見て感化されて背中を追ってきた。それが今日、初めて本気で失望したって言われてな。殴られるより痛かったよ。今まで負ってきたどんな傷よりずっと。それでやっとどんだけお前に迷惑かけたか気づいたよ」


「そ、そんな迷惑なんかじゃ……ないんだけど……」


「俺はさ……、あ、後、抜け駆けすんのも好きじゃねぇから勝手に言っちまうけど、アレクもさ。お前のこと好きだわ。俺としちゃ、多分一目惚れだったんだろうな。最初って後ろから突き飛ばされた時だぜ? お前すげぇ綺麗だし。可愛いし」


「うぇぇ、そ、そんなことは……その……」

「あん時はびっくりしたんだ。お前の気配がわからなくて後ろから突き飛ばされちまった。ほんと、ヒヤッとしたよ。あれが隣国の刺客だったりなんかしたら、俺死んでたわけだし」


「あはは……そんなこともあった……かな?」


「アレクにさ、お前のこと昔っから聞いてたんだぜ? だからパーティ会場でまたお前を見た時、ほんとはお前がレティって名前じゃなければいいなって思って聞いたんだ。『お前がレティなのか?』ってさ。先に出会ってたアレクに悪ぃから」


「うん」


「でもお前はレティでさ。それからずっと目で追うようになったよ。お前遠くにいてもすぐわかるしな」


「それは……自覚してるけど……」


「だから俺もわかってたんだよ。お前の気持ちが俺にも、アレクにも。向いてないことくらいさ」


「あの、それは……」


「そしたら昨日ギルドにいた女のほうにな? 言われちまったんだ。『権力でモノにするのか?』って。そしたら自分でもわけわかんねぇくらい頭に血がのぼっちまってな。意味わかんねぇこと言っちまってた。そしたら結局、本当に権力にモノ言わせててさ。笑えるよな」


笑えはしないかなぁ~……。


「あ、あのね、リンク……様? ボ、ボク……は……その……」


「ああ……。」


「すごく……すごく嬉しいんだよ?もったいないくらいっていうか……? でも、でもね? ボクも学校に入ってまだそんなに経ってないうちに、まさかこんなことになるなんて夢にも思ってなかったから……。心の準備もできてないっていうか、でも中途半端なこともしたくないっていうか。…………リンク様もアレクも、全然嫌いなんかじゃないんだけど、まだそういう目では見られないの。だから…………。ごめんなさい」


「ああ。知ってたよ」


「そ、そうなの?」


「今日シルヴィアに殴られついでに言われたからな。振られるわよ。って」


「えぇ、シルそこまで言っちゃったの……?」


「また俺が期待して暴走しないようにだろ。一番可哀想なのは言ってもいないうちに振られたアレクのほうだけどな。あいつ、10年も片思いして、勝手に振られさせちまった。なさけねぇ」

「10年前から……なんだ。アレクにこんなこと言ったら、いつも周りにいる女の子たちにどんな目をされるか……」


「ああ、あいつは人付き合いがうまいからな、俺とは違って。そういうのはちゃんとコントロールすんだろ。ま、自分で言いもしてねぇんだから、今回のこれを伝えてなんてやらねぇけどな。あいつには他にも先にやらなきゃいけねぇこともあることだし……な。」


勝手に出したのに伝えないのね……。まぁボクから突然こんな話するのはおかしいから、ボクから話すこともできないんだけどね。


「なぁ、まだってことはさ。これからお前の気持ちを変えられたら、俺にもまだチャンスはあるのか? 別に好きな奴がいるわけじゃないんだろ?」

「えっ!?」


どきっとする。好き!ってわけじゃないけど、アルト様の顔が浮かんでしまった……。

最近いいところに現れるから好感度ポイントが高いよ……。


「いるのかよ!?」

「え!? いや、あの……その……えっと…………まだそこまででは、ないといいますか……」


「だ、誰だ? まさかティグロじゃねぇだろうな?」

「ティグロ先輩じゃないけど……。リンク様とは面識ないんじゃないかなぁ……」


どうなんだろ。

貴族の人達っていろんな所で会ってるイメージあるし、ボクが知らないだけでお互い知ってるなんてことはありえるんだよね。

とは言え、知ってたら知ってたらで、少しでも判るような事言っちゃってバレちゃったら、それはそれでアルト様に迷惑かけちゃいそうだしね……。


「ちっ。まぁいいわ。まだそこまでじゃないってことは、付き合ってるわけでもないんだよな?」

「へ!? あ……うん……」


「なら、俺が卒業するまで後2年で、お前の気持ち変えてやるよ。それができなかったらすっぱり諦めるわ。それくらいいいだろ?」


「……うん……」


「後、アレクのことアレクって呼んでんなら、俺のこともリンクでいいから。……いいからじゃねぇわ。そう呼んでほしい」

「え~……えぇ、ちょっとハードル高いかなぁ……」


しまった。そういえばアレクのこと呼び捨てに直したまま話しちゃってた。失敗したなぁ。

平民が王子を呼び捨てって、国によっちゃ即刻打ち首級の事案じゃない?


「まぁ慣れたらでいいから」

「う、うん。わかった。り、リンク……?」


「……うはっ、予想以上に嬉しかっ」


「……王子様」


「……。さっきより遠のいたわ」


そういえば今日は何故かリンク様ってよんじゃってたかも。


「はぁ。朝っぱらから何やってんだ俺。シルヴィアにはボコボコに殴られるわ、初恋の女には振られるわ、その次の瞬間に名前呼ばれて嬉しがるとか。軽く引きこもりたい気分だわ」


「ご、ごめんなさい……」

「この話は絶対に人に言うなよ! 昨日広めちまった話は俺がなんとかしとくから!」


「言えるわけないでしょ……なんて言うのよ……」


そんなこといったらボクが馬鹿にされるよ!


「じゃ、クエスト行こうぜ?」


「……へ?」


「行く約束だっただろ?」

「あ、うん」


いや、確かにそんなこと言ってはいたけど、今の今で!?


「2年なんてあっという間なんだ。1分1秒も無駄にしてやんねぇよ」


「……ふふっ……リンク様は転んでもただでは起きないね」

「当たり前だろ。1回躓いただけで立ち止まってたら、誰が道を切り開けるってんだ」






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