ボク、家族を売りました・・・・ごめんなさい!
「あら、おかえりなさい。今日も遅かったわね」
「シル!ただいま!」
「っていうか制服はどうしたの? またえらい薄着をしているじゃない……」
「えへへ……破かれちゃった……」
「え? また? 何着目よ……。服は大事にしないとだめよ? ちゃんと革鎧用の下着も買ったのだから、防具も揃えたら? お金がないのならまた先に払ってあげるわよ?」
寮に帰ると、授業の終わっていたシルが先に戻っていた。
もう夜の8時を回っていたのね。
「ふっふ~ん! 見てみて! これ!」
ボクは、先日の報酬としてもらった金貨と、今日の討伐報酬を合わせた金貨6枚を取り出して自慢する。
「あら? 金貨じゃない。ああ、こないだの……?」
「そう! 後、今日1日で金貨1枚よ! すごくない?」
「え? 普通にすごいわね。1日で金貨1枚ってレティ1人あたり?」
「あ、うん、フラ先生と一緒だったんだけどね。フラ先生はサバキンの切身の売り上げ半分と端数報酬の銀貨3枚でいいんだって」
「あら、まぁあの人がそう言うなら安心ね」
あの人? フラ先生とシルって知り合いだっけ? あ、でもおととい保健室には一緒にいたか。
「サバキンの切身はさすがに今日は売れなかったから、まだもう少し実入りがあるの!」
「すごいじゃない。よかったわね。それで防具をちゃんと買うのよ?」
「え? 何言ってるの? シルに返すよ?」
「は? いらないわ」
「ええ? だってこれだけじゃ半分にもならないでしょ? 早くシルに借りたお金は返さないと……」
「私はお金を貸してなんていないわ。あれはレティが夏に稼ぐお金の前借りなの。だから先に貰っても困るわ。もう夏休みにレティとイオネを迎える準備をしているもの」
「ええ~。夏休みなんだしバイトなしでお友達のおうちに遊びにいくのじゃだめなの……?」
金貨を渡そうとするが、さっきまでシャワーを浴びていたのか、ネグリジェのような薄い寝着に着替えたシルは鏡に向かって髪を梳かしている。いつ見ても綺麗な黒髪。
見向きもされないままボクの視線は手元に移る。
「う~ん……じゃあ、どうしよう。これ」
「だから、ちゃんとした防具を買いなさいな。また傷を負って帰ってきたりしたら……私も心配で倒れてしまうかもしれないわ」
「うっ……それを言われると……確かに……」
「後は、駆け出しの冒険者や初めての仕事をした方がよく使う使い道は……ご両親へ贈り物ね。レティの場合なら仕送りでもよいのではなくて?」
「うん! やっぱりそれがいいね。……パパとママ元気かなぁ」
確かに、少しずつでもパパとママに送れたらいいな。とは金貨を貰った時から思っていたんだよね。
今日はいっぱい稼げたんだし、明日防具を買いにいって、生活費を少し残して、後はパパとママに送ろうかな。弟や妹たちに何か買ってあげてもいいかもしれない。貴族学校はちゃんと生活できているかな?ボクはシルがいてくれたからよかったけど、2人はいじめられたりしていないだろうか? 心配。
「ねぇシル。貴族学校ってどんなとこ?」
「ん? どうしたの? 突然……ああ、弟さんたちのこと?」
「あ、うん。いじめられたりしてないか心配で」
「ん~……どうかしらね。でもレティの弟さんたちは、ここの学園への特待も決まってるのよね? 正直、そんな未来ある国民の子を、嫉妬や身分如きで貶める奴なんかが貴族なら、そんな奴この国にはいらないわね。私が王なら、首を刎ねてやるわ」
「シルって時々過激だよね」
「だってそうじゃない。親の身分を着飾る無能な子供ほどいらない人間などいないのですから」
「い、いらないって……」
「私は単純に才能の無かった人を嫌っているわけではないのよ? 才能がないと自覚するのであれば、才能のある人間についていけばいいのよ。努力も才能の一つだとは思うけれど、それすらもせず、自分の無能を棚に上げて、ただ周囲を腐らせる。腐ったリンゴみたいな奴が嫌いなの。農家でも腐ってしまった農作物は先に摘んでおくでしょう?」
「な、なんか具体的だね……」
「当たり前じゃない。いっぱいいるんだもの。そういう意味で言えば私はレティのこと、好きよ? スキルで私の好感度もわかるのでしょう?……どう? 私のものになってもいいのよ?」
「ええ……えええぇ!?」
お風呂上りの上気した頬と、艶やかで透けた格好でそんなこと言われたら女のボクだってどきっとするよ!?
「ボ、ボクはそういう趣味はぁ……ちょ、ちょっとないかなぁ……あはは」
逃げ腰になりながら否定しておく。
「そう? 残念だわ」
え? シルってそっちの気があるの!?
「勘違いしないでよ? 私はノーマルよ」
「へ……へぇ……」
「まぁレティが私のものになるのなら……そういうのもありね」
「それってノーマルじゃなくない!?」
「性的な意味じゃないもの」
「ボク道具!?」
「道具なんかじゃないわ! 人材よ! 人材」
「ボク子供欲しいもん!」
「他の人と作ればいいじゃない」
「シルの愛がないよ~~」
「友情も愛よ」
あれ? ボク、シルと結婚しちゃう話になってる。いけないいけない……。
「……違~う! ボクは普通に結婚するの!」
「ふふっ。幸せな家庭を築けるといいわね」
これは馬鹿にしてるほうじゃなくて、本気で言ってる奴だ。
「むぅ。シルなんかもう結婚する話なんてでてるんじゃないの?」
なんといっても次期公爵様なんだし。
「……私は多分、無理ね。女だったから」
「……? そうなの?」
「そうよ」
「……王子様は?」
「はぁ? 私があいつらをどう思ってるか知っているでしょう? 有能な人材であることは認めているけれど。大体あいつら従兄弟よ? 近すぎて気持ち悪いわ」
シルだって人並みに幸せになる権利はあるはずだよね? いくら次期公爵といえど、国民や領民のために自分を犠牲にしていいという話にはならない。
かといってさすがにボクが結婚してあげる! とはならないけどもっ!
女同士でじゃれあって冗談でそういうことを言ったりすることもあるけれど、これはそういう話でもないのだし。
「じゃあ、ジークあげるよ! ボクの弟。可愛いよ?」
「……え?……あら。……それ、ありね」
「え?」
意外にシルが真顔の乗り気だ。
「え?」
「え?……えっと……本人も……本人の確認もしないと……ね?」
ボクの代わりに弟を生贄に捧げてしまったけど、思わぬ反応にどうしていいかわからなくなってしまった。
「そうよ。夏休み、ご家族でいらっしゃいな」
……シル! 結婚相手を有能か無能かで判断するのはいけないよ!!
「う、うん……」
……ごめん、ジーク。お姉ちゃんシルには逆らえないんだよ……
でも超絶美女のナイスバディ逆玉だよ。よかったね。ジーク。
おめがねに……かなうといいね……
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