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制服は1セット10銀貨なんです。高くない?

「うげぇ……」


ダンジョンの4層にあがってから、モンスターの種類が一変した。

そりゃそうだよね。陸上にあがったんだもん。


いやね。何が気持ち悪いって、それでもこのダンジョンは水棲モンスターしか発生しないこと。


大きな亀型の魔獣やリザードマン型のモンスターに、ぶよぶよした特大ナマコ……。

そのいずれもが動くたびにぬめぬめとした粘性の液体を飛び散らせる。


最初は大したことなかったから、ちょっと気持ち悪いかな? 程度で応戦していたんだけど……この特大ナマコが本当に最悪だった。

べとべとするのが嫌だったから、創造土魔法術式で遠くから貫いて倒してしまおうとした時だ。


「あ~あ。しーらね」


先生がふと呟いた。


え? ……なに? 何かあるの? 爆発とかするの? やばい!?


とか考えたけど、それにしては先生は受身の体勢も取らない。


パァン!


土魔法が特大ナマコを貫通した瞬間、大きな音を立てて破裂。

あたり一面がナマコから溢れ出てきた粘性の液体で津波を起こしていく。



……



「ぺっぺっ……うぉえっ……くっさっ!ぎもぢわるいよぉ~~~~!!!」



お陰で先生もボクもべとべとのぐっしょぐしょ。


フラ先生は全く気にしている様子もなく顔を手で拭う程度だけど、ボクは初めての体験でほんと、臭いし苦いし、鼻に入って痛いし口の中もねちょねちょしてて息すらしづらい……。肌もかゆいし……ストレスがマッハで溜まっていくよ!!!!


もお!


「ふぇん。せんせぇ~~……こんなの最悪だよぉ~」


いつの間にか素足になった先生が、足音をべちゃべちゃさせながら何事も無かったかのように前を歩いている。


「ああ? こんなのただ不快なだけだろ。こんなんで最悪とかいってたらもっと環境の劣悪なダンジョンや未開拓地になんて行けもしねぇぞ? 冒険者なんぞ諦めろ。」


「うぅ~……」


未開拓地の探索。広い世界を見てみたいボクとしては憧れる響きの一つでもある。


「あ、そうだ。」


右肩の破れた制服なんて後でどうせ捨てるだけだし、スカートが粘性の液体で肌にまとわりついて気持ち悪いことこの上ないので、どうせ捨てるなら制服の素材で簡単な水着でも作ってしまえばいいんだ。ボク頭いい。


劣悪な環境に耐えるのと、最悪なストレスが噴出するのは、ダメージの方向性が違うんだよ!


ぴったりとしている下着をはずし、制服の布で簡易水着に仕立て上げる。

下着と破れていないスカートは、収納魔法を常駐させて保存しておく。上着とブラウスだけでもものすごい出費になっちゃうんだから、スカートまで買い換えるなんてことできないしね。


まぁスカートと下着程度の質量であれば、空間収納で消費する魔力量なんてたかが知れてるわけだし。ダンジョンの水で洗い流してしまっておけば問題ないよね。


制服の布なので、伸縮性なんて皆無。

ちゃんと縛らないと落ちてきちゃうけど、べたべたしているよりは遥かにまし。


「……お前、痴女だったのか?」


フラ先生が、この液体に晒されている時よりも怪訝な顔をしている。

確かにこの時代、ここまで露出の高い服なんて珍しいのか。


「いいじゃないですか。女2人でどんなかっこしてたって。どうせこのダンジョンは先生とボクしかいないじゃないですか。」


4層の陸にあがれば誰かいるのかと思ったんだけど、本当に誰とも遭遇しないんだよね。

時間的なものもあるのかもしれないけど、入り口では水の中で襲われ、陸に上がればべたべたのぐちょぐちょにされ……誰がこんなダンジョンに来たがるもんか。


「雄型のモンスターだっているんだからな……? 襲われてもしらねぇぞ……?」

「え……? モンスターって人を襲ったりするんですか? 性的なやつで……?」


「そりゃするだろ。だからゴブリンとかそういうのが毛嫌いされんだろうが」

「制服切り刻む前に言ってくださいよっ!」


「まさかそんな格好するなんて思わねぇから言いようがねぇだろ……」

「うう、そういえばボク、帰りどうしよ……」


「はぁ? まさか考えてなかったのか!? はぁ。なんつーか、馬鹿と天才は紙一重って言うが、お前のためにある言葉だな」

「うぅ~、だって気持ち悪かったんだもん……」


既に最低限の肌を隠すくらいしかなくなってしまった布地に絶望しながら、創造水魔法構造で真水を精製し、頭からかぶる。


「さっむ!」


最初はお湯をかぶったんだけど、お湯だとべとべとが取れなかったんだよ。


「冷水のほうが取れるぞ」


そういわれたので冷水をかぶったんだけど、ここは河の上。気温も低い。めちゃめちゃ寒かった。

自分の体は魔法で洗ったのは、もちろん勢いが欲しかったからだよ。

だって全然取れないんだもん。


「ただでさえ防具もまともにつけてないのに、本当に防御力0になったな」

「あーもういいんです。ボクはもうぬるぬるはお腹いっぱいなので。魔法士は魔法士らしく戦うことにします。」


「ああ……?」

特殊次元魔法構造(クリア)設 置 盾(アンカーシールド)


前方の通路にビシッという音と亀裂が走る。


すると、前方から走ってきたリザードマンが、ガチンっと何かにぶつかって尻餅をついた。

後続も見えない何かを叩いたり、槍でつついたり、剣でがしがし殴っている。


一定数のモンスターが張り付いたところでもう一枚アンカーシールドを設置した。

モンスターの群れの後ろ側にも亀裂が走る。


水 中 放 火(アセチレンブラスト)


設置盾で仕切られた空間内が突然、大爆発を起こした。

一気に壁と床一面が真っ赤になり、次第に真っ白に変化していく。

ものすごい熱量がシールドを越えて伝わってきた。


水中放火は、単純に水中で火を使うために構築した魔法とはいえ、別に水中でないと使えないわけじゃない。アセチレンという気体を生成させ、噴出させながら着火してるだけだからね。




水は火に強い。なんていうのはゲームの世界の話。

本来なら水は物質で、火は酸化という現象なのだから、強いとか弱いなんていう話じゃないんだよね。


そもそも水は水素が酸化したものなので、いわば燃えた後なのだ。

紙が火で燃えて、灰になった状態を負けと定義するのであれば、土俵にたった時点で本来水は負けているのである。


火はなぜ水で消えるのか? その理由は大きく2つ。


1つ目は温度が下がること。

2つ目は酸素の供給ができなくなること。


この2つに限る。


つまり、この2つをクリアしてしまえば水の中であろうとなんであろうと燃えるものは燃えるのだ。


それを一気にクリアする物質が酸素とアセチレンの混合ガス。

これは酸素をすでに含んでいるうえ、燃焼温度が3000度という太陽の表面温度の約半分という超高温になるため、水の中でも燃焼が可能なのだ。


ではそれを空気中で使うと?

大爆発を起こして、空気中の酸素が一気に燃え盛る。

密閉された空間の酸素は一気に消費されてしまうだろう。


だろうって言うか、今目の前で実際そうなってるわけだけど。


もちろん、そんなのボクも巻き込まれてしまうので、設置盾(アンカーシールド)という次元魔法で密閉しちゃったってわけ。




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設置盾(アンカーシールド)とは、位相をずらした次元を盾に見立てたもの。


飛天という魔法の例を昔挙げたことがあるけど、空間の次元をずらすと物理的な空間の断裂ができる。

飛天は、それを足場にするための補助魔法として一般的には使われるが、次元の位相をずらすとか科学世界の知識があるボクからしてみれば、とんでもない魔法だ。それを足場にしか使っていないなんて、宝石を足蹴にするより性質が悪いと思う。知らないってのは罪だよね。


ボクのクリアという固有魔法構造には、とある使い方をすると、この飛天と同じ魔法構造をとんでもない万能魔法へと変化させることができる。




多分、クリアという魔法からしてみれば完全に間違った使い方で、裏技のようなもの。


あまり率先して使う気は起きなかったんだよね。

こんな魔法が存在しているのは、色々とまずいと思ってたから。


まず、前提として飛天系のような次元魔法が足場にしか使われないのは理由がある。

4次元以降になると方向性(ベクトル)の定義ができないことだ。


ベクトルの定義ができないというのは、どんな魔法においても使い勝手がとても悪い。


例えば


“水を作って相手に飛ばしたい。”


のであれば、“相手に”というベクトル定義を必要とする。


創造水(クリエイト)魔法構造(エレメンタル)+(方向次元魔法構造(ベクトル)熱量魔法構造(エネルギー))=創造水魔法術式(アクアブラスト)


っていうように魔法構造を登録して、魔法術式を組み上げる。


ちなみに。

魔法構造+魔法構造=魔法術式

魔法構造×魔法構造=二重魔法構造(デュアルキャスト)

となる。


方向次元魔法構造を無くしてしまうと、重力にしたがって落下するか、重力に左右されないような場合なんかどこに飛んでいくかわからないし、熱量魔法構造はいわば威力。さっきの例のまま方向次元魔法構造だけ定義しない場合なんて、水は重力にしたがって勢いよく真下に噴出するわけだ。とんだ自爆魔法なんだけど、実はこれが魔法士が失敗する一番多いミスだったりする。




魔法構造とは、この式を魔法陣のような“形”で表現したものなのだ。




話を“ベクトルの定義”に戻すとね?


時間はどの方向に流れているか?

4次元とは3次元の平行空間? では3次元の平行方向は?


わからないというか方向性が無いといったほうが正しいのかな。


つまり、飛天は一言で“足場”といっても好きな場所に設置できるわけではなく、“足裏の力を掛ける部分”に”力を入れられるだけの力場”を作るだけ。




次に、固有魔法“クリア”の本来の性能は、“透過”にある。

透過も様々な使い道があり、それだけでも十分有用性が高い魔法なんだよね。

水を濾過することだってできる。

物を不可視化することもできる。

やったことはないけど、魔法構造の理論上、物と物をすり抜けさせることもできるはず。


ただし、これは本来の使い方。

それだけでも十分すぎるほど有用なのだけれど……




やっぱりその中でも一番『クリア』という魔法の特徴は、視覚透過にあるのは確か。

そして、本来の用途で使う視覚透過の方法は3つある。


まず光を反射させない方法。

ただし、これは透明になるのではなく、光が吸収されてしまうので黒く見える。

ブラックホールは光を吸収するので黒くみえるんだけど。それと同じ。


2つ目に光の反射角度をずらす方法。

これは理科の実験として再現ができる。

水槽の中に物を入れて、水や油のような空気中とは違う屈折率のもので満たすと、水槽の中身が消えたように見える。

これは、最初にフラ先生と実験していた方法で、実際はそこに物があるので、見えないだけで本当に消えてしまうわけではない。消えてしまっては透過ではなく消失だしね。

ちなみに消失という性質も『クリア』という魔法適正の中には含まれているけど、今回はあくまで視覚透過のお話なので割愛しておくね。


そして最後に3つ目は、光をそのまま強制的に貫通させて透過させる方法。

この光の部分を物質に置き換えれば、物質が物質を透過することが可能なはずなのだ。


この使用方法が問題で、光のベクトルを入射角そのままで透過させてしまう。

これも実際は光が物質を透過できるという面では、そこにある物や人が消えるわけではないし、魔法をかけるのは、元々定義されている光の部分。つまり“透過する側の物質”となるので、自分を透過させて、相手の攻撃を回避するなんてことはできない。


この魔法構造を式で表すとしたら、


特殊固有魔法構造(クリア)=(光操作魔法構造+方向性次元魔法構造)


重要なのは、固有魔法が術式ではなく、構造であること。


単一魔法構造の中に、元素魔法構造と次元魔法構造が2つとも入っているお得パックなのだ。


本来は使い方によって、クリアという固有魔法の性質の幅を広げてくれていたんだろうけど、3つ目の透過方法である、方向性が定義されている魔法構造というのは、使い方一つでその重要性の次元が変わってくる。


クリアの魔法を使い、方向性を定義させる。

定義させたベクトルをクリアの魔法構造として抽出して、次元魔法の“本来ベクトルを定義できない魔法”を発動すると、思うが侭に次元という本来方向性を定義できないはずのモノに、ベクトルを持たせることができちゃうわけだ。

これによって次元断裂という意味不明な魔法が創り上げられちゃうってわけ。




設置盾(アンカーシールド)っていうのは、空間に断裂面を設定して2次元に再現したもの。

シュヴァルツ・クラウンウルフの時に使った次元断裂は、クラウンウルフの胴体を断裂するように設定して発動した設置盾(アンカーシールド)。つまり両方同じもの。


登録してある名称を変えているのは、物質を分断する用途で定義したものか、物質を断裂する用途で定義したものかで少し座標定義の魔法構造が異なるから別々に登録してあるんだけどね。


すべて同じ単一構造の次元魔法。

そのため消費魔力も極端に少ない。


つまり簡単に言ってしまえば……


方向性のわからない次元ベクトルが、定義できてしまう。


これがボクが気づいたクリアという魔法の()()()使い方だった。




フラ先生に、クリアの魔法構造を書き出すよう言われた時、公表を差し控えてもらったのは、ボク以外に少しでも適性を持っている人がこんなことに気づいてしまい、悪用なんてされたら戦争は今よりも悲惨で過酷なものへ変化してしまうことが想像に難しくないからだ。




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ただし、ここにはフラ先生とボクしかいない!


こないだシュヴァルツ・クラウンウルフに使った時に、先生には少し見られているし、先生は信用に値する人だと思う。


なのであれば! 遠慮する必要はないのだ。


思いっきり設置盾(アンカーシールド)で次元の位相をずらし、モンスターを閉じ込め、焼き払ってやった。

まさか、次元を越えてまで熱量が伝わってくるとは思っていなかったけれど……。


あ、そうか。壁を伝って熱が伝わってくるのか。6面全方位を囲う必要があったようだ。

……危ない危ない。


ボクは今、本気で防御力0なのだから。


盾を解除すると大量の空気が流れ込み、岩の焼けた部分が補填されていく酸素で赤く溶けて光り始める。

一気に気温があがり、蒸し暑くなった。


ふふふ。粘性の液体を飛ばされるなら、液体ごと蒸発させてあげればいいのよ!

これでもうボクがべとべとになる心配は無い。



うん……無いはずだったんだけど……。


今度は気温の上昇による湿気の蒸し暑さでべたべたになった。




もういや……。泣きたい。






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