まだ朝なので授業も始まってないんだよ?
「そういえばなぁ、結局OだったよO」
「おー? 王様がどうかしたの?」
「クエスト難易度の話だよ」
「おー?おー……おー……O!? OってNの次のO??」
「そのOだな。Oっていや一般冒険者が上級冒険者になるための昇級試験資格条件レベルだ。図らずとも1つクリアしたってことになるな」
「よかったのか悪かったのかわかんないよ……。でも、どうせ1年しか有効期限ないんでしょ? まだ一般冒険者にもなれてないのに、あんま意味ないかなぁ」
「ん? 上級冒険者の昇級資格条件に過去1年以内とかいう記述はないぞ。過去1年以内にOランク以上のクエストを数こなさなきゃいけないなんて規定作ったら、危なすぎてなんのための細かい難易度指定なのか意味がないだろ?」
「そうなんですか?」
「そりゃそうだ。そもそも一般冒険者の昇級資格試験に過去1年以内ってついてるのは、この程度もそこそこのペースでこなせないなら、一般に昇級してもしょうがないぞっていう足切りだ。だけどNやO難度のクエストは訳が違う。危険度が遥かに高いから命の危険だって一気に上がるんだ。十分に用意して、日にちをかけてどうにかこなすものなのさ。それに期限なんかつけちまったら元も子もねぇ」
「そんな難度のクエストにいきなりぶっこまれたボクはなんなんでしょう?」
「なんなんだろうな? ギルドも全知全能じゃねぇんだからある程度はしょうがねぇが、こんなにぶっ飛んだ難度変更は初めてきいたわ」
「でも、先生とアルト様がいてくれてほんとによかったです」
「仲間がいるってのは心強いからな。まぁ実力だけで言やぁ、レティーシア1人でクリアできなかったことはなかったことになるがな」
「え~、でも先生がグレイウルフを全部倒してくれなければ、さすがに無理でしたよ?」
「クラウンと戦ってる時に水刃連発してただろ? あれ1発でグレイウルフなんて数匹はまとめていけるだろ」
「そうなんですか? まぁそんな暇なかったと思いますけど。そもそもあの水刃じゃあの黒い狼、殆どダメージも入らなかったんですよねぇ。ボクの水刃じゃグレイウルフも怪しかったんじゃないですか?」
「それはないな、そもそもが逆だ。クラウンの毛皮が硬すぎるんだよ。だからその毛皮が高級品なんだ。軽装備類で軽いし伸縮性もあって動きやすいのに、防寒性が高くて防御力が異常なんだよ」
「わぉ、そうなんですか……」
「そういえば先生、あの時って先生はどうやってグレイウルフ倒したんですか? いきなり全部倒れちゃいましたけど」
「ああ、あれは魔装技っつースキルの一つだな。マナを使う技を暴走させて辺りのマナを全部吸収させたんだよ」
「吸収?」
「そうだ。魔法や一部のスキルはマナを使う。そのマナっつーのは本来自分が持ってるMPから消費されるな?」
「そうですね」
「それを自分のマナじゃなくて大気中にあるマナを使うようにできるのが魔装技の長所の一つでな? 辺りのマナ濃度より濃い魔力を使うと、周辺のマナが一気になくなるんだ」
「はぁ……?」
「……魔獣やモンスターは何で生命活動を維持してるって習った?」
「え?……大気中のマナ?……ああ、じゃあもしかして、ボクたちでいう空気がないのと同じ状態になるってこと?」
「そうだ。さらにマナ溜まりなんてものができるくらいだ。空気なんかより遥かに淀むから、すぐに充填されることもない。そうすると低位の魔獣なんかはすぐに死んじまうのさ」
「へぇ~。でも、5秒か10秒も経たないうちにぱたぱた倒れちゃいましたよね? グレイウルフ。マナがなくなったくらいでそんなにすぐ死んじゃうものですか?」
「ああ。風の復重構造術式で、空気を吹き飛ばす魔法なんていうのもあるんだが、息を止めるのと、空気がなくなるのとでは根本的に起きる現象が違うんだ。結果、窒息するのは変わらないけどな」
「そうなんですか?」
「例えばあたしなら、息を止めようと思えば……やったことはないが2,3時間くらいは余裕でいけるだろうな」
「わぉ」
「でも、空気がなくなったら、多分30秒持たないまま死ぬ」
「え?」
「よくわかってないんだが、空気がなくなると体の中にある空気が外に出ていこうとしちまうらしい。だからいくら息を止めててもだめ。それと同じことがマナで、魔獣やモンスターにも起きるのさ」
「おお~! なるほど。すごいですね! 魔装技? ボクも使えますか?」
「武器スキルを鍛錬すりゃいつかは使えるぞ? 大抵、武器術の上位派生スキルだからな」
「ええ……それは……その……無理かなぁ……」
「まぁマナを吹き飛ばしちまうのはいいことばかりでもない。MPの自然回復もかなり低下するしな」
「そっかぁ。なんかかっこいいのになぁ」
「こないだの戦闘見ててもそうだが、レティーシアは武器創造すら魔法構造記述の時間込みで一瞬でできるんだろ? それなら最低限、槍術だけでも修めておいて損はないぞ。あの時も槍を使う技術が少しでもあればもうちっとは楽だっただろうしな。ああいう肉食系の4足歩行型魔獣やモンスターってのは槍が特に有効だ。そうでなくても近接武器で一番覚えておくべきは槍術だしな」
「ん~……そうですよねぇ。体験履修の時に武器を何度か持たせてもらったりしたんですけど、武器に振り回されちゃって」
「ああ、筋力と体力は確かに必要だな。……それなら総合課でも受けてみたらどうだ?」
「総合課は受けてますよ? 昨日も体がだるい中、走り込みを4時間……あはは……」
「そうなのか。あたしも総合課の授業受け持ってんのに、会ったことねぇから知らなかったわ」
「え!? そうなんですか? え~、じゃあ水曜の午後きてくださいよ~」
「水曜の午後なのか。そりゃいねぇわけだ。あたしは水曜休みだからな」
「え~~~」
「まぁ気が向いたら行ってやるよ」
そこまで話していると、研究室の扉ががらがらと開いた。
「あれ、先生。今日は特殊魔法課の授業じゃないんスか?」
フラ先生の研究室の研究員さんだ。
「あ、おはようございます」
「お、レティーシアちゃんじゃん。おはよ。今日も可愛いね」
「あ、ありがとうございます。お世辞がお上手ですねっ!」
わかってるのに! お世辞ってわかってるのに初心なボクの心を呪いたい……。
「お世辞じゃないんだけどなぁ。ま、レティーシアちゃん口説いてるとリンク王子が乗り込んできそうだからやめとくか。怖い怖い」
フラ先生の研究室は、兵科と魔法科の2つを掛け持っていることもあってか、両方とも比較的男性が多い。先生が結構な美人で慣れているのだろう。女性の扱い方もお手の物って感じだ。
そのまま魔法科の奥にある小部屋に入っていった。小部屋は更衣室になっている。
「ああ、もうこんな時間なのか」
フラ先生がそう呟いたので時間を確認すると、もう7時半を回っていた。
ボクが先生の研究室に来たのは5時前だった気がする。
「さすがにもうギルドも開いてるな。ちょっとクエストでも見に行ってみるか」
「はい」
「とりあえずあたしも用意しとくから、お前も今渡した荷物とか片付けて用意してこいよ。そのまま玄関集合で王都に降りよう」
「は~い。……あ、そうだ」
どうせならこの魔宝珠も使ってみたい。そういえばこの魔宝珠、血約をしたのに澄んだ透明のままだ。すごい綺麗。小さな王冠型をしていてとても可愛いし、アクセサリーに丁度よさそう。そう思いながら考えていると、とてもいい場所を見つけた。
ポニーテールの髪留めに使ってみる。
アルカンシエルで買ってしまった宝石の散りばめられたリボンがストッパーにもなり丁度嵌った。
宝石が内側できらきらして、それが王冠に反射してとても神秘的。
レースのリボンが王冠を装飾してめちゃくちゃ可愛い。
「あ、これ可愛いかもっ」
やっぱり、ファッションを楽しむのは一日の起爆剤だよね。
今日も一日頑張れそうだ。
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