最前線の会談。
って言っても、今回は空を歩いたところで、空の上すらも超危険なわけなのよ。
空で起きてる戦場を常に注視してでもいない限り、不確定なタイミング毎に視界一面に広がる炎が辺り一面を覆い尽くしてくるわけだし、それだけの熱量を無防備に浴びたら、さすがに無傷で済むわけもない。
っていうか、まさしくそうなったのであろう跡がさっきまで目の前にあったわけだし……。
しかも、そのせいで2次被害とも呼べるような弊害が起きていて、空へと高度を上げるたびに。本来よりも相当酸素が薄くなってるせいかどんどん頭が痛くなってくるわ、気温も信じられない程に急上昇していて、変な雲が渦巻き始めている。そんな中で激しい戦闘なんかを繰り広げ続けてれば、このままいってしまえば何かしらの中毒症状で突然人側が倒れ始めてもおかしくない気もするし、突然どんな予想外の異常気象なんかが起きても不思議ではないレベルまできている。
吸血鬼の人たちが酸素を必要としているのかどうかなんて、ボクには定かではないんだけど、明らかに敵対している星竜側には、酸素とかそういった物質が必要そうには見えないわけで。環境不全や異常気象が起きて困るのはどう考えたってボク達なわけなのだ。
それでも、ヴィンフリーデさんや上位吸血鬼さんたちの連携の成果もあってか、空を飛んでいる星竜の体積もかなり減ってきてはいるみたい。『ジュニ』と表示された、ジュードさんが回復させようとしていた吸血鬼さんみたいに、吸血鬼側の損害だって決して少ないわけじゃなくて、地上の泥ゾンビ人形戦を含め相当な損害が見て取れるし、見て取れる以上の損害が、今までは無かった地上に新しくできた海の中に埋もれてしまっているのだろう。
そんな景色を眺めながら空を移動していると、ジュードさんを見つけた吸血鬼の人達が、それぞれジュードさんに近づいてきて指示を求めながら、また戦闘へと散って行く景色が続く。そこに一部の吸血鬼の人達は戦場へと散って行かずにジュードさんの後を付いてきていた。
いやぁ……怖いんですけど。
「……で、でも、大分あの竜も小さくなってきてるし、も、もう一押し……ですね」
「………………」
ボクの限界速度がジュードさんには遅すぎるのか、吸血鬼の人達への伝達なんかが一通り終わると、かなり近い距離で沈黙が続く。
普通に種族的にも状況的にも、何より顔的にも怖いだけに緊張が拭えないわけで、それに耐えかねて話掛けるも、どうやらイラっとさせただけで返事が返ってくることは無いようだ。
文句も言われない、睨まれもしない。
それでいて本当に味方なのかもイマイチわからなず、それでいてボクからしてみれば強さ的にも手のつけようがないモンスターが隣で無表情のまま感情すらわからないとか。
おぇ。吐きそ。
まぁでもよく考えてみなくてもね?
今回なんか、実質、星竜戦だけの様子を外側視点から覗いてみれば、吸血鬼の人達がなんだかんだ全てを抑えてくれていて、損害なんか吸血鬼の人達に寄ってるなんてもんじゃなくて、ほとんど全部受け持ってもらっているようなものなんだよね……あ~、うん。今のは無いよなぁ~……なんて反省は頭に浮かんでくるものの、だからこそ、連携を取るためにいつの間にかアルメリアさんが亡くなっちゃった今、吸血鬼側のナンバー1であろうジュードさんとシルに話し合ってもらわないといけないわけなんだけど……いくらシルに会わせろって言われたからと言って、会わせた瞬間に暴れられでもしたらボクだって困るわけで。
はぁ……。
ちょっとどころじゃない冷汗が流れてくるんですけど。
そうこう考えているうちに、流れ弾でしかない大型の炎ブレスを避けつつ進んでいくと、何事もなくあっさりと姫騎士隊の群れが見え始めた。
どうやらジュードさん側も目的地がそこであることを把握したようで、ジュードさんの後ろについてきていた数人の吸血鬼たちにジュードさんが視線で『クィッ』とやると、待ってましたとばかりにシルたちの周りに群れている泥人形へと突っ込んでいき、爆発が起こる。
突然、何が起きたのか理解していない姫騎士隊の意識が空に向き、警戒態勢が走った。
ボクに気づいてくれたシルと、いつの間にかシルの傍に戻ってきていたティオナさんが何人かの姫騎士さんたちに片手をあげて抑えようとしてくれている中、それを気にも留めないジュードさんが、紹介してもないシルの元へとまっすぐに降りて行った。
「ああ、貴方が」
「なるほど、お前か」
眼をそらさない両者と、その周辺で警戒している姫騎士さんたちに緊張が走る。
「し、知り合い……?」
2人の会話が初めましてじゃないことと、あまりの緊迫感に、つい声が出てしまった。
今まで押し寄せてきていた泥人形は、ジュードさんが連れてきてくれていた吸血鬼さんたちが加わったことで殲滅速度が押し寄せる速度を上回ったようで、ボクたちの周りに少しだけスペースができている。
「この間、借りていたお屋敷を壊してくれたのよ」
「壊したのは俺じゃないが」
「……」
うわ。空気おっも。
「なんて言いあっている時間は無い」
そう話を続けたのは、ジュードさんの方だった。
「今回はもう手遅れだ。ただ、このまま終わらせるわけにはいかない。その為に俺が知っていることを話すが、それに対して協力をしないという選択肢はお前らには無い。それを理解し即行動をしろ。いいな?」
高圧的な物言いに、シルの周辺を護衛している姫騎士さんたちが少し殺気立つのが感じられた。今まで冷静で抑える側にいたティオナさんですら、目を見開いてガンを飛ばしている。
……ティオナさん。それ、王女様がする顔じゃないよ……?
「ええ。わかったわ」
ただ、シルがすぐに承諾したことで、混乱と一緒に殺気も消えた。




