星竜vs吸血鬼
「茶隊は地上のサポートに回って! 地上雑魚をとにかく、先にどうにかするわよ!! 緑と紫は後方に全火力を集中、穴が空いたら赤と桃で抜けて交戦地点と援軍の要請!」
「あいよ! 黄緑と橙は広域殲滅に回れぇ! こいつらを姫様んとこに近づけんじゃねぇぞ!!」
「「「「はい!!!」」」」
空には飛び交う魔法と大魔法の爆音が鳴り響き、地上では爆音や剣戟と共に、怒号が飛び交っている。
まるで黒い泥でできているような、まるでゾンビの様な人型の群れがどこからともなく湧き出て群れをなしており、シルはどうやらそれと敵対しているようなのだ。辺り一面が黒一色に染められており、地面で露出しているのはマグマの赤と人類と吸血鬼が軍を成して守っている場所のみ。それ以外が真っ黒になってしまっているほどの数がわらわらと群れていて気持ちが悪い。
ただ幸いなことに、個体の戦力自体は大したことがないらしいんだけど……まぁ、この状況でシルの近くに転移したら、周りにいる姫騎士隊の人達に存在を感知された瞬間、殺されちゃいかねないくらいには殺気立っているせいで、タイミングが……。
「っ! 姫! 空の島が消えたぞ!」
「ええ、見えたわ! 私の傍に空間を作って! ああっ! それとレイラとライラをすぐに呼び戻して!!」
シルがそう言うと、シルをべったり守っていた姫騎士隊の人が少し離れた。
つまりはすぐに来いって言われてるんだけど。
「はいはい!! ほうこ~~く!」
それでも転移を初めて見る姫騎士隊の人だっているんだから、突然何もない空間に何かが出てきて、それが指揮官の真横だっていうのなら、反射的に攻撃されてもおかしくないわけで。
思いっきり叫びながら転移し、シルの隣へと着地した。
……あ、ほら。目を丸くしてる人、結構いるもん。そうだよね。
「ハウト達は!?」
「人的被害はなし! むしろみんな回復はできたみたいで、空の戦闘の方に参加するって! フィリシアさんはこっちに合流するって伝言を預かったよ!」
「そう白の副隊長が来るのね。丁度よかったわ。黒の副隊長だけ回らなくなってきてたのよ。それで吸血鬼の方は? 今のところ敵対はせずにお互い共通の敵を持った味方として機能してはいるけれど、話はできたの?」
「話はできたよ! ジュードさんってナンバー2の人と……アルメリアさんとも会えた。あの星竜が敵ってところは共通の認識として変わらないから、今吸血鬼と人類が敵対するってことはない……はず!」
「やっぱりそうなのね」
「やっぱりって?」
「あの星竜に対して吸血鬼が準備してきていたところを見ると、突然吸血鬼の軍勢が人間を襲い始めたのって、あの星竜に対する準備の一環だったんじゃないのかしら。あの空で戦っている吸血鬼の一部は、姫騎士隊達に見覚えがあるそうなのよ……もっと早くフリージア・カルセオラリアと外交を密にしておくべきだったわね……」
べちゃ。
シルがぶつぶつそう言いながら考え込んでいるけど、ボクの目線のシルの向こう側で、泥の人形が弾けんで泥ボク達二人を覆う。
シルはそれでもお構いなしで泥をぬぐいもしなかった。
「ちょちょっ! っていうか、これ、どうなってるの!?」
びちゃっ
「うべっ。ぺっぺっ。目に入った……」
ボクとシルの周辺に、かなりぬかるんだ泥の塊のような様なものがまた、まき散らされた。
周りでボク達を護るように戦ってくれている姫騎士隊の人達が、わらわらと湧いてくるゾンビの様な泥人形を壊した死骸の鳴れの果て。
それが司令官であるシルの身体にかかってしまう程にまで、姫騎士隊の地上部隊は泥人形に囲まれているのだ。
もちろん、泥人形に囲まれているのはボク達だけではない。
多方で吸血鬼も群を成して泥人形と戦っているようで、そこかしこから魔法による爆音や剣戟といったものが鳴り響いている大戦場と化していた。ロトと吸血鬼がつい最近まで繰り広げていた戦場とは比較にならないような量と規模で戦闘が起きている。
空も一つの攻撃だけで辺り一面を焼き尽くすような炎が降り注ぎ、そのブレスと一緒に飛び回る、島サイズの物質が高速で空を移動する度、天変地異の様な暴風が吹き荒れる。
鳥じゃないんだよ? 島だよ?
わけわかんないよね。
地上も空も。
見渡す限りが、まるで地獄のような光景だった。
「それで、吸血鬼の女王様と会ったのなら、何か聞いてきてないの? 突然こいつらも足元から沸いてきたのよ。吸血鬼の方も襲われてるし、星竜側の魔法か何かだとは思うのだけれど、無限に増え続けているわ。このままじゃ地上も、空も、全滅よ」
「ううん……ごめん、会ったって言っても、一言二言話せたくらいで……あとは何も……」
「え? それにしては時間が掛かったのね。そんなに遠い場所へ?」
「ううん……それがわかんなくて……。ボクとしては数分くらい移動して、数分くらい話しただけだったのに、戻って来てみたら何時間も経ってたみたい」
「主様は、異空間に隔離されたものかと」
突然、今まで感じなかったルージュの気配が戻ってくる。
「ルージュ! てっきり星竜との戦闘に交じってるのかと……」
「滅相もございません。シエルとシトラスは吸血鬼との交渉後、彼らと共闘をしておりますが、この状況で私めの役割は主様の護衛。本来お傍を離れるなどあってはならないのです。……が、先ほどまで主様の存在から強制的に隔離されておりましたが故、主様はアルメリア殿により異空間へと隔離されたものかと推測されます。どうにかしてそちらへと試行を重ねておりますれば、つい先ほど、主様の気配がこちらへ戻ってくるのを確認できましたので、やっと……合流できました。遅くなりまして申し訳ございません」
「異空間……? あそこが……?」
「そう。いいわ。そこに関して考察をしていたところで、今の状況に関わらないのなら一旦捨ておきましょう。それより、どんな状況なのか詳しく教えてくれる? 吸血鬼との面談も、空の戦況も、全てよ」
「うん……えっとね……」




