ラスボス……ってコト!?
「今回はもう時間が残されておりませんので……共闘の手段と必要な人材の情報を共有致しましょう」
そう言いながら歩いてくる女の人と目が合った。
生気のないような……どか遠くを見ているかのような……そんなどこを見ているのかわからない瞳と視線が交差していると感じるのは、顔が一直線にボクの方を向いていたから、だろうか。
そっか。
グリエンタールのスキルを使わずとも、この人が以前からルージュ達の報告にあったアルメリア・ヘルグストさんなんだろう、ってことがすぐに理解できた。ジュードさんがアル姉って呼んでるし、こんな場所まで来て吸血鬼一族の主要人物であるジュードさんが会わせる人物なんて、一人くらいしか思いつかないんだから予測もなにもないよねって言われたら、その通りなんですけど。
綺麗な赤くて長い髪。
立っていても床に引き摺っちゃうくらい長いストレートの髪の毛には一寸の痛みも無く、まるでシルクの飾り物をつけているかのように見えてしまう程。真っ暗でお城の様なこの部屋で、小さく光るライトの魔法に照らし出され、艶めき輝いている。
髪は床まで流れてるけど、背丈は多分ボクより結構高い。
多分って言うのは、ヒールを履いてるから正確な高さがわからないんだけどね。ボクより背の高い人がピンヒールみたいな履物を履いてれば、そりゃもうちょっと頭を傾けて見上げちゃう位になってしまう。身長からすると、ヴィンフリーデさんくらいだろうか。いや、ヴィンフリーデさんも隊用の靴がヒールっぽく踵が高いから、かなり背が高くみえるんだけど、アルメリアさんの靴はその比ではない、本当に社交の場でしか見ないようなもの。そのせいかヴィンフリーデさんよりも少し背は高く見える。
そしてヴィンフリーデさんと対比するのなら、ヴィンフリーデさんとは対照的な白く痩せ細った肌と顔。あまり健康的には見えず、吸血鬼の肌色と相まって栄養が足りていない人間の様にも見えるだろうか。それなのに血の様に赤い髪の毛も、雪の様に白い体つきも、信じられないくらい細いところ以外には健康的そのもの。栄養が足りていない人特有の肌のひび割れや髪の痛みなんてものは一切見られず、むしろ裕福な暮らしをしているどんな人間よりも美しいかもしれない。吸血鬼として特徴的な綺麗で深紅の長い爪も綺麗に装飾され、それがさらに映える赤と白のローブ服。
見た目の歳の頃は人間で言えば30台かそこら……くらいに見えるかな? 吸血鬼なんだから人間とは寿命や歳のとり方が根本的に違うんだから、実際の年齢は信じられないくらいもっと上なんだろうけどね。でも、『可愛い』だとか『美しい』以上に、『妖艶な』オトナの色香を感じられた。
綺麗だった。
初めて目の前にした、今までで一番注意していたはずの人物に見惚れていると、パッとライトの光が消え、次の瞬間、横長の平面な画面が2枚、宙に映し出される。暗闇の中の光源の代わりとなった画面に、視界が釘付けになると、その顔の高さに映し出された映像には見たことのある場所と見たことのある人物が……
「シル!?」
「ジュニ! マリチマ!!」
その光景にボクと一緒に声をあげたのは、ボク達の後ろに控えていたジュードさんだった。
2枚の画面に映し出された先。
さっきまでの大きな竜との戦場が映し出されているんだけど……何かがおかしい。
「え、ちょっ! ……どうなってるの!? なんでシルが戦ってるの!?」
「ジュニ……!!!」
2枚の画面に映し出されている先に、ボクとジュードさんがそれぞれ食いついて叫んでいた。
だって、さっきまでシルは戦場とは程遠い場所で姫騎士隊の人達と情報を集めていたのに、今映し出されているこの光景だと、吸血鬼と姫騎士隊を主とした人間の部隊が交わって大きな竜と交戦しているのだ。
しかも指揮を出す立場にいるはずのシルが、主戦場のど真ん中で怒号をあげているようなのだ。
……声は聞こえない。
指をさす先に姫騎士隊が何人か飛び立ち、声をあげるシルのこめかみに浮き出る血管と、煤に汚れているほっぺたが必死さを映し出す。
ジュードさんがかぶりつく画面の先には、焼け焦げて横たわっている吸血鬼と、寄り添う女の吸血鬼。この女の吸血鬼さんには、ここに来る前に一瞬見た覚えがある……ってことは、焦げて横たわっていて誰だかわからない状態になっちゃってるのが……。
「アル姉! まさかっ!?」
力強く振り向いたジュードさんがアルメリアさんの両肩に掴みかかると、あっけないほど簡単にアルメリアさんの膝が崩れる。
「!!」
そんなことになるとも思っていなかったのか、ジュードさんも驚きながら肩から腰へ腕を滑らせ、アルメリアさんの体を咄嗟に支える。
「これは……私と彼女の会合が未来を進めてしまうみたいね……。時間はもう長くないわ。よく聞いて。あの化物は精神生命体。それなら体の中心に媒体となるコア……魔宝珠があるわ。それを探し出して壊す……これが第一段階よ」
「……第一段階?」
思わず疑問が口をつく。
「当然。あれはいわば星竜召喚の儀式の真っ最中よ。大地の栄養全てを吸収し尽くし終わって、私達のサイズくらいになったら最後。この星が終わるわ……ほら、さっきより大分小さくなってきているでしょう?」
そう言われ映像を見てみるも、元々のサイズが大きすぎたせいでよくわからない。
『星竜の権限など、私が生まれてこのかた聞いたこともございませんが……きっと、私の召喚の際に生物の肉片を媒体にしたのと同じ原理なのでしょう……。星竜は星そのものを肉体として取り込むのなら……あの質量が我々のサイズに圧縮されたとなれば、信じられないエネルギー量となるかと』
ルージュの声が頭の中に響く。
今でさえとんでもない質量なのに、これ以上に手が付けられなくなってこと……?
でも、そんなことより今はシル達が危ない!
早く戻らないと……!!!




